きっと特別なもの
一講義九十分の、退屈でたまらない授業。だけど、高校のときみたいに『受験のためにいやいややってる』わけじゃないから、皆は意外だっていうけど私は本当に楽しかった。
そう、つまり私は、男友達がいなくても、特にサークルに入らなくても、大学生活を『そこそこにエンジョイ』していたのだ。
だから、運命って本当に良く分からない。
私が通う大学のいわゆる<クラブハウス>は、学生会館と食堂をかねてる建物の裏手にあって、
春には桜の咲く緩やかな坂を下った先。
「ここでね、新歓コンパとかやったんだよ。桜が本当に綺麗だった」
「へえ。いいなあ」
私と並んで歩きながら、たかまが懐かしそうに目を細める。秋の夕暮れだけあって、講義が終わったら
辺りはもううっすらと暗い。
クラブハウスというよりも、ただのプレハブ小屋が二棟ならんだ、一番左端へたかまは歩いていって、
「連れてきました。見学者の川上亜紀さんです」
そこの扉を開けて、心持ち私を前へ押し出すようにした。
「お? 新入部員? 歓迎するよ」
「たかまと同じ農学部? そういえばそんな匂い、するねー。よろしく! 私らと同期だよね?」
途端、中にいた二人…男の子と女の子一人ずつ…が、読んでいた台本かな?を閉じて立ち上がって、
わざわざ戸口まで出てきてくれる。
男の子のほうは、
『わ、おっきい…』
頭が扉の上につっかえそうなくらいに背が高くて手足が長くて、おまけにものすごく『細い』。
一方、眼鏡をかけたショートカットの女の子のほうは、
「入って入って。遠慮しないで」
たかまよりもさらに背が低い。二人があまりにも対照的過ぎて、悪いけど思わず吹き出しそうになった。
「紹介するね。二人とも工学部なの。で、こっちが鈴村
たかまが言うと、「ほっとけ」なんて言いながら尾山君は笑っているし、鈴村さん…しのちゃんも笑う。
しのちゃんはともかく、尾山君のほうにはちょっとやっぱりなれなくて、「はあ」なんて言いながら
私は引きつった笑顔を浮かべていた。
「今、<共練>のほうに誰かいる?」
「沖本と清水さんがいるんじゃないかな?」
だけどたかまは尾山君とごく<普通>にしゃべってる。
『うらやましいな』
そこに男の子がいる、っていうだけでビビッてしまって口も聞けないでいる私とは大違いで、
それがとても羨ましかった。きっともう、三人はちゃんと<友達>なんだろう。
だけど私は<男友達>なんて、きっと特別なものなんだって思い込んでいたから、
「おうぃ。疲れた疲れた」
いきなり後ろからまた声がかかって、私は思わずビクッと肩をすくめてしまった。
「お? 見慣れない顔。ひょっとして新しく入ってくれるって? 俺、奥井。工学部生応科一回生。よろしくな」
「あはは、入ってくれるかどうかまだ分からないよ、奥井君。ねえ、あきちゃん?」
「は、はあ…」
…皆、『同い年』なんだ。だったら私も<タメ口>きいて大丈夫なんだろうけど、
「よろしく、あの、お願いします…あの、川上、亜紀で、えっと、農学部、で」
「お願いしますって何よ。んで名前は? そんなボソボソ言われても聞こえないって」
私がボソボソ答えると、奥井君はちょっとしかめっ面をした。
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