サークル勧誘
「ねえ、あっちゃん。どこにも所属してないなら、うちのサークルに入らない?」
「そうだねえ」
私の席の後ろに座っていた、高田昌美こと通称<たかま>が、大学の講義の合間にこっそりそう言った。
それが、大学に入学した一回生の秋のこと。大学では、<一年><二年>なんて言わなくて、<一回生><二回生>なんていうんだって、そんなちょっとした違和感にもすぐに慣れた。まあでもそれも実は関西を中心とした西日本の一部だけらしいというも、大人になってから改めて知ったけど……
「配役はもう決まっちゃってるんだけど、音響さんがいなくてね。手が足りなくて困ってんの」
「へえ」
『そういや、半年前の入学の時にも勧誘チラシ、もらってたなあ』
思い出して、私は二つばかり頷く。演劇、っていうのにさほど興味があったわけじゃないけど、なんとなく面白そうだな、とは思ってた。
ただ私は、
『男の人、あまり多くないといいけどな…』
中学、高校と私立の女子高だったせいもあってか、男の人とうまく話が出来ない。自然にやればいい、って言われるけれど、その<自然>っていうのがそもそも分からないから、せっかく共学の大学に入ったのに、農学部っていう、男の人がほとんどの学部にも入ったのに、半年経っても一度も男の人とまともに話したことがないのだ。
『女の子となら、リラックスして話が出来るのになあ』
お父さんもお母さんも、私が男性を苦手としてるのを心配して、わざわざ実家から遠くはなれたこの大学に入れてくれたわけだし、
『いっちょ、やってみますか』
<荒療治>っていうのが必要かもしれない。それにサークルでなら、<自然>に話を出来るようになれるかもしれないし、
「じゃあ今日さ、講義が終わってからでも覗いてみようかな」
「わ、そうしてそうして!」
私が言うと、たかまは嬉しそうに頷いた。
友達付き合いって、本当にひょんなことから始まる。縮れっ毛を気にしている、私よりも一回り背の低い小柄なたかまは、だけど顔も小さくて笑うととても可愛らしい。
『それに、とてもしっかりしてるんだよね』
もともとは私の友達でもあるサチコの友達だった。親元を離れて独り暮らししてる学生が8割くらいの<地方の国立大学>だから、みんなどこか寂しがりで、すぐに仲良くなれるんだよね。
その時、
「あっちゃん、あっちゃん、ほら、当たってるよ」
「わ、ごめん! えと、すみません、いますいます! 川上亜紀、ここにいます!」
隣の席に座ってた私の大の親友の一人、<わかめちゃん>が突付いて教えてくれて、私は慌てて立ち上がる。
出席だけとって抜け出す生徒もいるから、教授だってそこのところは心得ていて、返事をしないとすぐ欠席扱いにされてしまうのだ。
「ヴィー ハイセン ズィー? イッヒ ハイセ…」
だもので、私は第二外国語にしているドイツ語の教科書を持って立ち上がり、指定された場所を読んだ。
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