第31話 襲撃
久しぶりにアベルの夢を見た。
彼は、港の荷物を護衛して軍の基地や民間の会社、NPO等に機械や物資を届けて回っている。
少年が船で勉強に苦戦している頃だ。
誰でも最初から出来るわけではない。葛藤や失敗があってこそ、成長につながる面もあるのが当然だ。
頑張れ少年!
僕の方は港から北へ街の方へ向かっている。
街には僕が狙っているマフィアがいて、襲撃する作戦は立ててある。
作戦と言っても、夜になって、3ヶ所あるアジトや屋敷に侵入して葬っていくだけと言うものだが。
下調べもある程度してあるので、タイミングを伺うだけになってる。
と言っても、荷物の輸送もあるので、タイミングは限られてくるのが大変だ。
失敗して逃げられたら、仕切り直しになる。
だけど、その心配はなくなったようだ。
「あー。あれは族かな。」軍曹が気が付いて言う。
街に着く前に、輸送トラックの前方に襲撃者らしいバンが何台か見えてくる。
無線の通信で曹長がスコープで確認して伝えている。
「見えた。あれか。テクニカル1、ロケット4、車両5、歩兵20」
ギラギラとした眼のエッカルトが無線で命令する。
「全隊止まれ。」
まだ1キロ少し先だが、車を脇に止めて対峙する。
あちらはテクニカルがいるので、近づくのは良くない。
こちらにもあるが、わざわざ張り合う事もないから、射程外から撃つ。
海賊の時にも使う手だが、そうした方がいいに決まっている。
周囲に敵がいないか索敵しながら対空砲で狙う。
向こうは対空砲には気が付いていないらしくて、ただ、機関銃を付けたテクニカルで張り合おうとしていると思っているようだ。まさか、この距離で当てるなんて思ってもいないだろうから。
他の皆も高価な光学レンズを付けたライフルで距離の調節をして狙いをつける。
「撃たせるなよ。高射砲はテクニカルと車両をすべて破壊しろ。」
「俺はロケットをやらせろ。」
と凶暴な事を言うのは、ブルクハルトだった。
大砲が得意だが、スナイピングも一流だ。
僕も、木に隠れる様にして立った歩兵に狙いを付けて待つ。
「やれ。」短い命令で始める。
ものの10秒もかからないうちに皆殺しになった。
周囲の何も知らない現地民が慌てて声を上げて逃げ出したけど、「拡声器で大丈夫。終わりました。直ぐに立ち去ります。」と言いながら族のところまで行って確認する。
歩兵は地元の武装した民兵のようだけど、白人が10人いて、狙っていたマフィアだった。
この他には2人街にいるはずなので、それらを殺せば終わりのはずである。
それにしても、舐められたものだ。先日、400人を皆殺しにしたばかりの傭兵団を、正面から30人で襲うなど自殺行為だろう。
武器の壊れていない物は、道端で火をかけて燃やした。
「ご近所様のご迷惑になるゴミは片付けましよう。」
と真剣な顔の曹長が傭兵と一緒に、売り物のバックホーで屑鉄になったトラックを道の端っこに避けた。
死体をそのまま道端に埋めて石を乗せる。
そして、何事も無かったようにトラックに積み直した。
傭兵の一人が「軍に任せたら良かったのに・・・」というと曹長が「早く言えよ。」と言い返している。
皆、爆笑してしまった。
「中佐、聞いてますか?州都から40キロのところで襲撃を受けた。標的と一緒に殲滅したので後はよろしく。」
と軍に連絡している。
そんなところまで根回しが済んでるのかと感心する。
マフィアに襲撃に失敗したことを知らせる方法も無いだろうけど、マフィアのアジトの2が慌てて逃げ出そうと荷物をまとめている。
おそらくは、仲間が帰って来ない事からの判断だろう。
荷物と言っても、金と麻薬と銃しか無いのだが。
車に積み込んだ荷物はいっぱいだ。
夜間暗視光学レンズで見るマフィアの姿は、汗だくで必死に逃げようとしている。
しかし、銃口を向けられた奴にはもう時間切れだった。
サプレッサーの空気を抑える音がして一人が玄関で倒れる。
もう一回音がすると、今度は、洗面所で倒れた。
僕は玄関の入り口で倒れた一人を中に引きずり込むと、ポケットを漁って、車のカギを出す。
そして、洗面所で倒れたマフィアの心臓に1発撃ち込んでアジトを出て、マフィアの車を走らせる。
そして、皆の待つ軍の駐屯地へ行き、エッカルトと軍の指揮官の名前を出して通った。
予想以上の資金にみんな驚いていたが、前金で大金を貰っていたので、目の前にある大金も仕事として見れている。
後は、軍の指揮官の良心に任せよう。
これだけ金があったとしても、軍備やインフラに使ってしまえば、そう大きなことを出来るものではないのだが。
よし。ようやくここは片付いた。
あと少し。
トラックに戻った僕は、ビールを持って、宿泊先のホテルへ向かう。
皆は先に祝杯を揚げているはずだ。
僕はホテルのフロントで支配人に会っていた。
持ってきたビールを買ってもらうためだ。
支配人はイタリア人の元軍人らしくて、僕の硝煙の臭いに気が付いて警戒されてしまう。
このままではどうにもならないと思って、さっきまで軍事行動してた事を話すと納得したようだ。
さっき何人かまとまってチェックインした客の仲間だと知ると警戒した雰囲気は消えてエッカルトの話で盛り上がった。
エッカルトの率いる傭兵隊が、このホテルの従業員達を守って戦ったらしくて、感謝されていたのだった。
なんとかビールはうまく売れそうだ。
ありがたいよ。エッカルト。
後はビールを売りながら淡々と仕事を片付けよう。
それから、バックホーをトラックの残骸を避けるのに使った事を謝らないと・・・。
それから、明日のアポを・・・
やることは一杯だった。
次の日は僕は書類をまとめて軍の応接室にいる。
軍の物資ではないが、運搬には軍の協力が無くて運べるものではなかった。
掘削機を内陸部へ送るための企画書と空港の使用許可は政府からもらっている。
後は内陸部へ送った後の空港からの警備を頼みたかった。そこそこ高価だし、技術者が後から来るので、それの護衛も頼みたい。
どうなる事かと思っていたけど、この国の政府としては何としてもクリアしたい案件なので、根回しはしていたようだ。
挨拶が済むと、具体的な護衛の方法やスケジュールの打ち合わせになって、特に障害になるものは見当たらない。
しかし、野盗のごとく武装勢力が暴れている事を考えると、心配でならなかった。
エッカルトの言うには、必ず妨害しに来るから阻止しないといけない・・・とか。
彼は、襲って来る奴を一々対処してたら間に合わないからと、キャンプを襲撃する計画を立てている。
そのキャンプの割り出しに軍が動いていて、把握しつつある情報を元に殲滅していく。
重要な人物なら必ず仕留めるし、狂った奴を野放しにはしない。
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