第30話 兵士と僕と僕
船に来てから見るものすべてと言っていいくらい、見たことのないモノばかりだった。シャワーは温かいし、石鹸はいい匂いがした。
朝と夕方の後は自由にシャワーが使えて、2回入った。
服が替えが無いかと思ったら、兵士のフェリクスが持ってきてくれた。どうやら、フランス製の服みたいだ。
少し大きいけど、それが流行りだとか言ってた。
本当かな?
ご飯は、村では朝晩だけだったけど、3回食べる。
何が出てきても見たことが無い物ばっかりで、変わった味の物が多かったけど、おいしくていくらでも食べれる。
あちこち痛かったのが2日も経てば痛くなくなってた。
そしたら、いろいろと見て回った。
一番驚いたのが、船はすごく大きくて、端にいる人が小さく見える程だった。
そして、大きな鉄の箱を運ぶクレーンは物語の巨人の手みたいで、次々と船から降ろしていた。
船の倉庫はぎっしりと穀物が積まれていて、機械が船から吸い取って袋に詰めていってる。下ではトラックが袋を積んで運んでるけど、いつになったら終わるのかと思うほど船にはある。
毎日これを食べても、何年分あるだろう?
昨日の柔らかいパンを思い出して、よだれが出てきた。
ほとんどの積み荷がコンテナに詰められてて、それ以外はこの穀物と少しの木箱だった。
コンテナが降ろし終わる頃。
エッカルトがしばらく何人かと船を離れる様だ。
予定表に遭った通りの動きをしていて、キビキビとした行動はかっこ良かった。
もし、軍人になるなら、あんな兵士にならないといけないなと思う。
離れている間に勉強をするように言われた。
フランス語と英語だったけど、なんとなく読める部分と、全くわからないところとあって自分ではどうにもならなさそうだった。
飽きてくるのは直ぐだったけど、この船の船長が別のフランス語の本を読んでくれるとそれが面白くて、聞き入ってしまった。
ちょっと間抜けな騎士の話だったけど、それが船長の話し方が感情がこもってて楽しい。
それを写して書いて勉強した。
数学も勉強したけど、全く意味が解らなくって、1ページ読んだら眠くなってしまう。
これにはアベルという兵士がビスケットで手品をしながら教えてくれた。
手品とかで数を当てる勝負に、最初は騙されて負けるのを必死で勝とうと数えていたら、200まで数えれるようになってた。
引き算、掛け算、割り算も意味が解らなかったけど、覚えてアベルに勝とうと思った。
エッカルトの仲間がどこかへ行った後、仕事を手伝ってこずかいを貰う事になった。
銃の薬きょうを洗って磨いた後で、火薬を詰めて弾を押し込む。
重さを正確に測るのが大変で、間違うとやり直しになる。
一つづつ出来上がった数でこずかいになるので、必死でやった。
厳しくてやり直しもたくさん出て悔しかったけど、たくさんもらえてうれしい。
ずっとこの仕事があったらいいのに。
次は、小麦の袋にリストと同じ数になる様に、タグをつける仕事だった。
リストの数だけタグを作って、袋に着けていく。
足し算とか、掛け算とかがこれ程大事なのかと思った。
やってもやっても終わらないけど、これが終わったら掛け算ができるようになってアベルに勝てるかな?
タグが間違ってて怒られて怖かったけど、何度でも数え直して正確に仕事をするのが当たり前なのだと教えられた。
これは納得がいくところがあって、教えてくれた兵士の人には感謝だ。
必ず2回。違ったら数え直す・・・。
間違わなくなった褒美に、釣り糸をくれた。
かなり使い古しだったけど、仕掛けがもうついてて、餌を付けたら使えるようになってた。
船の上ですることがなくなった時は、これで暇つぶしをするらしい。
暇が潰せて、美味しい魚が捕れて2度うれしいとか言ってた。
毎日の勉強が楽しくなってくる。
もともと、勉強が好きなのかもしれない。
本は読めるようになったし、読めるようになったので、数学の本がわかる様になった。
船に残っていた人たちで海に泳ぎに行った。
初めての海は、見た目よりいいモノではなかったけど、小さい池しか入ったことのない僕だったので、思いっきり泳げたのが楽しかった。
やっぱり、海は好きかもしれない。
夜になったら岸壁でカニを捕ったりした。
美味しかったけど、危ないからと港湾職員の皆に怒られてしまった。自分たちも捕ってたくせに!
そうしているうちにエッカルト達が返ってきた。
みんな疲れているようだったけど、エッカルトは逆にギラギラしてて、次の作戦の話をしてた。
朝起きた時に僕は少年の記憶が少しある事に気が付いて、メモに残しておく。
でも、いくら思い出そうとしても、漠然とした感想がほとんどで、優しい人の記憶と食べ物の記憶、お金をもらった記憶だけ(笑)が鮮明なのは、子供特有だなと思った。
ぜんぜん人の事は言えないんだけどね。
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