第26話 武装勢力の殲滅
夜は静かに更けていく。
僕たちは、久しぶりに全員で船で休んでいた。
明日からの戦いに向けて一時の休みを取ろうという事になったのだった。
食堂で集まった皆と酒を飲む。
曹長が先に酔っ払い出して、女の話で盛り上がる。
エラには悪いけど、男は皆こうだからね。
傭兵の一人が僕らの仲間のバルドゥルにここの隊の始まりを聞いていた。
そのあまりにも数奇な脱出戦やドイツ兵の僕や個々の活躍に驚いた。
軍曹の下でいつも働いていた彼は、白兵戦で突撃した丘で、軍曹と彼しか生きていない陣地を守っていた時に自軍の救援に来たのがエッカルトが率いる僕らの隊だったようだ。
そして隊は、数々の武勇で有名になっていく。
僕もこの頃には軍隊に慣れてきて、少尉のところで無茶をする新兵として、言われるようになってたのを思い出す。
軍では浮いていたし、上から注意を処罰を受けようが、全く堪えていない様に振舞うので疎まれていたに違いない。
本陣から隊に戻ったエッカルトが、時々、機嫌が悪くて、その憂さを晴らすように敵を蹴散らすのを見ていた。
色んな偶然が重なり、動く度に戦果を揚げるので、他の兵からは特別視されて、より難易度の高い作戦へ配置されていく。
そういう経緯を抜きにして武勇伝を話すと、神話的な英雄なのだが、ここにいるエッカルトを見ると、単に狂気すら感じる程戦いが好きな奴なのだ。
そして、エッカルトが衝撃的な事を話出す。
何度も襲ってきた海賊が、懲りずにまた襲って来るだろうと。
それは、この船にダイヤモンドが積んであって、女もいるからだという。
何処に?
皆は顔を見合わせていて、突然、何を言い出すんだという顔だ。
何人かは直ぐに気が付いて、なるほどって顔になっている。
貨物船ジュエル・フライア号
宝石・女性だよな。
エッカルトがニヤニヤしながら
「貴族の女が乗った、ダイヤモンドを積んだ貨物船が、フランスからカメルーンに向かって航行する。って、日程を流しておいた。」
食堂がどよどよし出す。
今に始まった事ではないし、敵を誘い出したり嵌めたりするのは、彼の得意分野なので驚かない。
だけど、この航海で何度襲撃に遭った事か。
誘い方がクレイジー過ぎる。
その上で「手応えがない」とか言ってたよな。
「コテンパンに撃破しておけば、帰りが楽だろう?」
いやいや。後の報復とかそういう心配だってあるんだから・・・。
しかも、今度はテロリストの軍を殲滅なんてどうかしてるよ。
もう一つ気になるのが、船室にいる人と書類の束だ。
どう見ても一般人で、軍人や政府の人間ではなさそうだ。書類は何かわからないが、金庫に入れるほどの物だ、重要な書類なのだろう。
これに関しては何も語られないし、わからない事が多すぎる。
一般人に見えるスラブ系の男性。それしかわからない。
この後にもエッカルトの無双ぶりにみんな呆れ果てて解散になった。
朝が来てから、武装勢力のキャンプに動きがあると軍が知らせてきた。
僕たちは甲板に集合して荷下ろしをしながら警戒する班と、昨日仕掛けたIEDや砲撃位置の観測をする班、別動隊に分かれて作業する。
エッカルトが観測班に、詳しい情報や何やら捜索している人物とかの特徴を話している。
該当する人物は、できるだけ保護するように話していた。
聞いていた者たちからは、エッカルトが探してるやつなら弾が避けて飛ぶから大丈夫等と冗談を言って蹴飛ばされている。
僕は積み荷の確認もあるので、陸上で物資の確認作業をしている。
積み荷に間違いがないのは船でもやったので良いのだが、空荷のコンテナや余剰物資もあるので、分けないといけない。
特に機械類は行き先が違うものも混載されていて検査の後に分けないといけなかった。
急いでいるわけではないけど、作業が多くて忙しい。
船のすぐ横で傭兵が、降ろしたトラックに対空砲や機関銃を取り付けている。
物資の輸送の護衛に使うつもりで、軍にそのまま引き渡す予定の物だ。
簡単に付けただけのものだが、強力な銃火器を取り付けた移動の速いトラックは脅威になる事は知っている。
昼が来る頃に、敵が10キロ手前をこちらに向けてきているという連絡が来る。
もう少しで作戦の射程距離になるので、作業を中断して臨戦態勢になる。
作業員は少し離れた場所へ軍のトラックで逃げてもらった。
作業員で残りたいと言った奴がいたけど、面倒なので軍に連れて行ってもらった。潜入した武装勢力のスパイだったら困るし。
高射砲と対空砲を爆破地点へ向けて据える。
射程距離は余裕で届くけど、あまり遠いと貫通力が足りない場合があるが、2キロや3キロの距離になると装甲車でも撃ちぬける。
おそらくはいないと思うが、戦車がいた場合には観測班が対戦車ライフルで仕留めるか、榴弾で片付けなくてはいけない。
対空砲を取り付けたトラックは道の陰に隠れて配置する。もし、港に近づく影が見えたらすべて撃つ段取りだ。
正式な戦いならば、敵同士で向かい合って騎士道に則って口上を述べてから始めるけど、この場合は単なる強盗の殲滅だからいらない。
エッカルトが艦橋からにやけっぱなしの顔が見える。
にやけたまま放送で距離をカウントし始める。
距離、3650 来たぞ。
距離、3050 用意。
距離、2600 やれ。
対岸の林の向こうで、木々を超える爆破の炎と煙に混ざって、いろんなものが200メートルに渡って噴き上がる。
今の爆破で道路はほじくり返され、大きな口を開けた地面に、トラックや人、武器の残骸が降り注ぐ。
トラックの列の後ろ半分が、今の爆発で吹き飛んだだろう。
高射砲 砲撃開始。
榴弾がトラックの列の前半に撃ち込まれる。
車列の見える場所から観測班が正確な位置を知らせて、榴弾を降らせる。
それでも当たる確率はそう高くないので、車列は榴弾で数が減りつつもこちらに向かってくる。
1.5キロの地点で、小さな丘に差し掛かって高射砲の射角の陰になる所に来た時、トラックの列がそこに溜まる様に集まってくる。
高射砲の弾が届く範囲で、上からの射撃で榴弾を落とす事が出来るのだが、敢えて撃たないで措く。
そこの地面には大量の爆薬と重油が埋められているからだ。
高射砲の射撃を止めてしばらく待つと、車列の全てが丘の後ろへ隠れた。
そこへ密集してトラックが停められて、こちらの様子を伺っている。
そして小出しにトラックが出るようになった。
丘の後ろ。IED爆破。
続けて高射砲射撃開始。
丘の向こうで大きな爆発があり、黒い煙がもくもくと揚っている。
丘の向こうでは地獄が広がっていた。
トラックの集まっている真ん中に大穴が空いて、燃えている。
250キロの爆薬と、200リットルの重油が爆発した跡は、高温で焼かれたトラックや人武器が散乱して転がる。
爆発がトラックの真下だったので、爆発が上に上がらずに横へ広がった。
更に燃えた燃料が重油だったため、熱量が多くて、一瞬で広い範囲を燃やしてしまった。
トラックの荷台の兵員やトラックから降りた乗務員は焼かれて倒れる。
そして、運よく免れた者へ、高射砲の榴弾が降ってくる。
壊滅状態のトラックの車列は、逃げようとするが、指揮官の銃声に追い立てられて前進する。
動く車両は6両になっていた。
しかも、爆発で生き残った兵員は半分程だった。トラックの荷台に、仲間の死体を乗せたまま、怯えながら揺られる。
生きた心地はしないだろうが、運が悪かったと思うしか無かろう。
どうせなら、指揮官を殺して逃げれば助かる確率もあったのだが、そのような事もできないだろうな。
その後ろで指揮官が、火傷を堪えながらピックアップトラックに乗り、引き返そうとしていた。
トラックの兵員を囮にして逃げようというところだろうか。
そこへスナイパーの射撃がトラックの運転席を狙う。
シートの背の部分を貫通して指揮官の腹で弾が止まる。
そのまま林に突っ込んで止まった。
直ぐ近くで潜んでいた別動隊が、ピックアップを調べるために向かっていく。
そして、指揮官を見つけると写真を撮って、擲弾でトラックごと爆破した。
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