第24話 海の上の炎



 海賊はまた迫って来る。

 どうやら、船の装備の違いに気が付いていないらしく、相手の用意してきた装備は、前回と大して変わらない。

 警戒はしているだろうが、随分と舐めてかかられたものだ。


「あれから2日しか経ってませんよ。早すぎませんか?」

 僕は隣で機関銃のカバーの端を握っている元特殊部隊のバルトルトに話しかける。

 彼は特殊部隊をクビになった後で傭兵になったところでエッカルトの部下になったらしい。


 ここの傭兵からは、エッカルトは弾が避けて飛び、そばにいると死なないと思われている。

 実際は怖がらないだけで、直ぐ近くで死んだ奴はたくさんいる。

 遠くからの流れ弾で、彼にだけ当たらずに周りだけ死んだとか、榴弾で彼だけ生き残るとか、不死身かと思う場面は確かにあったが。


「確かにな。そんなにいいモノを積んでるとは思えないけどな。やっぱり、アレかな。」

 ポルトガルで乗船してきた男と書類の事を挿しているのだろう。


 あれは非常に怪しい。

「アレですね。きっと。」


 彼はうんうん言いながら続ける。

「欲に目が眩んで相手が見えない様じゃ死ぬだけなんだけどな。」


 その通りだと思う。

 今回も少しは違うかもしれないが、皆、死ぬだろう。

 こちらも命が掛かっているから、手を抜いてやるわけにはいかない。


 後方、3キロに迫った時に数がはっきりとわかってきた。


 今度は数が3倍はいる。

 確かに、数で押せば何とかなる場合もあるにはあるので、無理やり押して通るつもりらしい。


 しかし、前回で予行演習の出来たこの船の乗組員は、エッカルトの「いつも通りだ」の一言で、前回と同じだと悟ってしまう。

 ただ、今回は数が多いので、車輪の付いた20ミリの機関砲を両舷に出してカバーで隠している。


 右舷から機関砲の付いた船が3隻、漁船が9隻、早いボートが3隻。

 左舷から漁船が9隻、早いボートが5隻、拡声器を持ったボートが1隻。

 後ろから漁船が5隻、早いボートが1隻。


 軍曹は艦橋から、スナイパーライフルを構えながら、機銃の射手に照準を合わせている。


 もうすぐ、こちらの射程に入るので、攻撃の合図を待っている状態だ。

 そのエッカルトもスナイパーライフルを直ぐに構えられる状態のまま、マイクも持っている。


 軍曹は構えたまま、エッカルトに話しかける。

「全く、数だけは圧倒的だな。」


「気を抜くなよ。絶対に逃がすな。」


 今回は少し早めにボートが停船命令を出してくる。

 威嚇射撃は空に向かって散弾を撃つだけだった。

 要は、皆殺しにしてから奪うつもりなのだろう。

 なら、構う必要はない。


 そして放送が船内に響き渡る。

「スナイパー。射程に入ったら撃て。

 対空砲は船の列が乱れたら順番に始末していけ。」


 容赦のない命令が響く。

 そして直ぐに射撃が始まった。



 距離は1000メートル。

 風が強くて弾が流されるけど、腕がいいのでかなりの確率で当たる。

 スナイパーが機銃を付けたボートの射撃手と操舵手を打つと射撃が一斉に始まる。

 向こうはほとんど何もできずに、船の上が無人になり、燃え上がっていく。


 所どころで燃え上がった漁船のロケットランチャーが暴発して、更に燃え上がっている。

 この調子だと、せっかく用意した機関砲は出る幕が無い様だ。


 一隻だけ、右舷から突っ込んでくるが、ほぼ無人の状態で近づいてくる。体当たりでもするつもりなのか。

 しかし、それもこちらの発射したロケットランチャーに破壊されて燃え上がる。


「手応えがないな。もっとこう・・・ないのか。」

 放送でしゃべるような話ではないと思うが、エッカルトの話す言葉に嫌な予感がする。


 その時に左舷からヘリが来るのが見える。

 何人かが気が付いて、エッカルトに合図を送っていた。

 気が付いた時には、もう4キロもない距離にいたので、こちらも慌てて対応しないといけない。

 速度の速いへりだと時速200キロにもなるので、あっという間に距離を詰められてしまう。


 これが敵の用意した対抗策だったのかもしれないな。

 少尉、お望み通りになりましたかね?


 エッカルトはそちらを先に叩く判断をして放送する。

「対空砲、機関砲はヘリを落とせ。」

「スナイパーは続けて船を襲え。」


 それとは別に軍曹へもヘリを狙うように指示を出す。

 対空砲が航行不能の船を撃つのを止めて、方向を変えて榴弾を撃ち始める。

 機関砲もカバーを外して、構えている。


 距離があるので、こちらも向こうもまともに狙える距離ではない。付近へ弾をバラ撒いて、当たれば儲けものというところの距離だ。


 しかし、ヘリはおそらくこちらの対空砲にパニックになりかけている事だろう。

 真っ直ぐ来るものの、まだ搭載してある武器の射程外から榴弾の破片にボロボロにされかかっている。


 更に耐えて、近づいてからヘリからの射程に入ろうという時、今度は機関砲の射撃も加わる。


 ヘリから機関銃で銃撃してくるが、こちらの攻撃が激しくて、まともに撃てないのをいいことに、弾を浴びせまくっている。

 何とか機体の外に出た機関銃を撃とうとしたクルーがスナイパーの弾に倒れる。

 2発目はパイロットの肩に当たって、ヘリがぐらぐらしている。

 遠にボロボロのヘリだが、とうとう対空砲が命中し、エンジンから煙を吐きながらて落ちていった。


 そして、その頃にはほとんどの船が航行不能となって、全滅と言っていい状態になっていた。


 尚もスナイパーが敵を殲滅しようと凶弾を放っていて、残りの海賊を恐怖の底へ突き落している。


 エッカルトはやっと攻撃を中止した。

 後に残ったのは、遠くで燃える漁船だけが浮かんで、煙で空を曇らせている。

 岸からは煙が観測できているはずなので、おそらくは救助されるだろうが、残っていても少人数だろう。



 そして、海の香を吸おうとして、深呼吸をしたとたんに夢から急に覚めた。

 夢ははっきりと覚えていて、僕が撃った銃の感覚は無いものの、船の上で倒れていく人やヘリに弾が当って落ちる光景の衝撃で、朝まで興奮が治まらなかった。




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