第23話 出航



 そろそろ船の積み荷が集まり終わる頃なので、最終的なチェックと積み込みをしている。

 ここでは積み込みのための検査を受けながら積み込んでゆく。

 ほとんどの荷物はチェックが終わっているので、船に積み込まれるコンテナの番号とか、渡航先へ輸出可能な物品かをリスト上でチェックする程度だった。

 武器等はここの港に着く前に、改修工事という名目で造船所に入って、こっそり積み込んであった。

 こういった改造や武器の積み込みは正規のルートではできないが、軍や政治の絡んだ話ならすんなり通るらしい。

 もちろん、金はかかるが。

 それだけ重要視されてかかっている仕事であるとも言える。

 そもそも論で、どこからこんな仕事が来たんだろう。

 とってもヤバい仕事なのは確かだ。


 食料品や酒などの船内での食事用の検査が済んで、食品の木箱が積まれた食堂で集まっている。

 ギリギリの日程でようやく用意が整った事もあって、物資の用意をしていた人たちの予定に合わせて集まるとこうなってしまった。


 それぞれ思い思いに椅子に座り、僕の買ってきたビールを冷蔵庫から出して飲んでいる。

 一応、売り物なんだけど・・・。

 仕方ない。1ケース(12ダース)分はサービスしとくか。

 エッカルトがニヤニヤしながら見ている。

 小声で「ありがとな。」と言ってくる。


 少し多めにもらってるし、このくらいは現地で取り戻して見せるさ。リストの他に、必要そうなものを隙間を埋めるように積んできた。

 リストには大まかに必要な物を書いているだけで、附随しないといけない物や工具の先端が入っていなかった。

 この辺りで大きく品物が増えることになり、予算的に膨れ上がってしまった。

 輸出自体が難しい分野の物も多くあって、書類を通すのに苦労した。その苦労した分後で、相手先から非常に感謝される事になるのだった。


 全員が集められているという事で、簡単な食事も街で買ってきて、食べながら自己紹介となった。


 ここにはあの時のメンバーの他に、元特殊部隊やスナイパー、歴戦の傭兵が集められている。


 その中でのトップがエッカルトだった。

 雇い主と言うわけではないが、この警備隊のリーダーで、傭兵達からは、隊長という呼び方になっていた。


 僕等には少尉が馴染みだが、そろそろ言い方を変えないといけないな。

 皆、得意分野を話していると、見事なくらい分かれているのが解かる。


 特殊部隊の4人は小火器、爆薬やロケットランチャー、機関砲が得意そうなので、僕と近いものがある。

 傭兵達は、トラックや装甲車、重機、とスナイプが得意らしい。

 少尉や曹長はスナイプが得意だったはず。

 軍曹は何でもできるけど、最近ではヘリも乗れるようになったらしい。超人だね。

 他の昔のメンバーは、機関銃と大砲で目覚ましい戦果を挙げた戦士だった。


 船での配置では、元ドイツ兵が対空砲をやることになった。

 3人づつ交代で見張りをする。

 それ以外は何かあるまで自由なので、暇を持て余すようになる。



「来ますかね?」と曹長がエッカルトに話しかける。

 エッカルトはニヤっとして地図を広げ始める。

 楽しそうに広げている姿は、悪魔か何かに見えるのは気のせいだろうか。


「みんな聞け。」とテーブルに集める。


「相手はアフリカの奴だけじゃないから、何が来ても迷わず撃て。大砲を積んだ船が近づいて来たら、そいつは敵だ。」


「なっ・・・。本気で言ってますか?」


 エッカルトは無視して話す。

「ここを出て5日でアフリカだが、その前には出る可能性は少ない。

 そこから3日以内に出る確率は25%だな。


 アフリカの西の端まで行くと、そこから必ず出てくるだろう。

 何処でとは俺も見当がつかないが、近くになるに連れて出てくる確率は高い。

 おそらくは1度じゃなくて、何度も出てくるかもしれん。


 対空砲は空に撃つための物だが、遠慮はいらん。

 見えるもの全てにぶち込め。

 ああ。飛んでるやつもな。


 すれ違う商船にも気を付けろ。海賊の船かもしれん。

 何が来ても沈められるように、大砲もロケット砲も積んできた。


 舐められたら終わりだ。一言も喋る前に、先に沈めてしまえ。」


 清々しいくらいの演説にみんな黙る。

 エッカルトらしいというか、一体何と喧嘩したらこうなるんだろうかと思う。

 戦争が始まったと言っていいくらいの状況に、明るいブルクハルトでさえ一切笑えない。


「ブッ。エッカルトらしいな。」と軍曹が笑い出す。

 この状況で笑っていられるのはこの人くらいだろうけど。


「あははは・・・はぁ。」

 どよどよっとした笑いが起きて、ため息を吐く。

 エッカルトはこういう人だから仕方ないとみんな諦めた。


「フフフ。久しぶりに遣り応えのある戦いが出来そうだぜ。」

 とエッカルトが付け加えると、皆、引いている。


 それ言っちゃダメです。と言いたくなるのを抑えながらビールを飲んだ。

 どうにでもなれ!



 で、この荷物はどこで何かるための物だ?

 と言う質問には、


「支援物資・・・。何に使うかは興味ない。」

 と呆けたような答えだった。

 要は戦場で戦いたいだけなのかもしれない。



 そして、必ず来るのかと思うと、皆で力を合わせて準備に取り掛かる。

 もうすでにコンテナは積み終わっているが、余った時間で追加で空のコンテナを周囲に積み込んだ。

 撃たれた時には、空のコンテナが弾避けになるだろう。

 そして、補強のための鉄板をコンテナの間に置いてワイヤーで括った。大砲でも当たらなければ、荷物にダメージは無いだろう。


 出航は滞りなく港を出て、ポルトガルで補給をして受けている。最後の積み荷はここにあった。


 燃料を帰りの分まで積んで沖へ出て待っていると、ボートが来て荷物が届いた。

 人と書類だった。

 何だか嫌な予感しかしないが、これが仕事だと思うしかない。客室に金庫を溶接したのはこのためだったか。


 そして、その危ない旅が再開される。


 その危ない内容とは別にではあるが、今回の旅では石炭を使わないし、掃除も船員の掃除係がするので楽ができると思うと嬉しい。

 設備もシャワーがあるし、旅行にでも来てるのかと思うほど快適だった。

 そういえば、まともに旅行へ出たことがない僕は、家族の皆に旅行へ連れて行っていない事に気が付いてしまった。

 落ち着いたらみんなで旅行へ行く計画を、エラと立ててみようかと思った。



 ポルトガルから沖へ少し出てから大きく回るようにカナリア諸島の外を回っていく。

 この美しい海のどこかに、この船を狙っている奴がいると思うと信じられない気もするが、僕の勘が進むにつれて警鐘を鳴らしている。


 その警鐘が皆にも届いているように、だんだんと緊張していく。

 船には対空砲と重機関銃が設置され、待機する部屋の隅には対戦車ライフルやロケット砲が転がっている。

 備えはすでに臨戦態勢になった。


 船はアフリカの西、カーボベルデとダカールの間を通る地点まで来た。

 島々を遠目に見える位置で通っていた時に警報が鳴る。

 警報の主は右舷後方から迫っていた。

 哨戒艇のように速度の速い、機関銃を正面に据えた5人乗りが1艇、10メートルの漁船が7隻、速度の速いボートが3隻。


 距離はまだ2キロはあるが、大体の装備が見えてくる。

 無線を積んだ船が漁船にもいて、連絡を陸と取り合っているようだ。

 おそらくは補足して拿捕に掛かる報告だろうけど、今回は退場願おう。

 海の底へ。


 対空砲は直前まで隠すように、カバーが掛けられている。それまでは、アサルトライフルを持って警戒している。

 向こうの射程距離に入る前の、少しの間に殲滅してしまえば、弾の無駄なく葬り去れる。取り逃がしもしないだろう。


「間抜け野郎が来るぞ。数は11。」


「左右舷の砲は機銃を乗っけた奴を一番に狙え。」


「スナイパーは舵を持ってる奴、ロケットを持つ奴は生かすな。」


 とエッカルトが放送で叫ぶ。



 機銃を付けた船が大きく回り込むように右舷に出て行く。

 そして、たくさん人が乗った漁船が両舷から迫って来る。


 それを待っていたかのように、早いボートが寄ってきて、フランス語で停船を命令してきた。


 おそらくは、このまま機銃の船が近づいてきて、撃って威嚇するだろう。

 その後で、漁船からロケット弾をちらつかせて停船させるつもりでいる。

 させてたまるか!



 機銃の付いた船が右舷から射程距離に入ろうとしてくるが、こちらはすでに全ての船が射程内だ。

 同時にスナイパーが漁船やボートの操舵手を狙う。


「殲滅だ。撃て。」と船内放送が響く。

 一瞬でカバーが取り払われて、対空砲が2機、両舷の艦橋の前に現れる。

 そして、それを見たボートや漁船が慌てだす。

 逃げようとする船に向かって、相手の射程外から連射して船体に大きな穴を空け、エンジンを破壊する徹甲弾が飛んでいく。


 ドンドンドン!

 ドンドンドン!

 3発づつ2連で船がちらちらと燃えるのが見える。

 機銃の付いた船は直ぐに止まり、静かになった。


 早いのボートの方も僕たちの射撃で数秒で大人しくなっていく。


 漁船の方はパニックになり、慌てて舵を取って逃げようとするが、対空砲のの水平射撃で船がバラバラになって、燃料に引火した船は燃え上がった。


 完全に船内がパニックになった漁船は、舵を握ろうとすると撃たれ、ロケットで反撃しようと構えると撃たれた。


 そのうち大砲の弾がエンジンを、舵を、無線を吹き飛ばし、船体がボロボロになっていく。

 弾に当たって即死なら運がいい。

 足や腕に当たると、無くなってどこにあるかわからないままのたうち回る事になる。


 ロケット弾の誘爆で燃え上がって船が沈んでいく。

 丁寧にスナイパーが仕留めて残る者はいなくなった。


 その圧倒的な戦いに、相手はどう出てくるだろう。

 これに対応した戦力で来るとしたら、何が出てくるというのか。


 エッカルトはすべての船を沈めて、静かになった海をみて笑っている。

 彼を見ていると、頼もしいやら怖いやらで堪らなかった。




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