第22話 貨物船



 我々が送る荷物は本当に多かった。

 送られてきたリストには、ギリギリセーフの科学薬品や医薬品。食料、ポンプ、掘削機、建設重機、鋼材、ボーリングマシン、ウエルダー、発電機、トラック等・・・。

 貨物船に一杯になる量だった。

 要は何かのプラントを作ろうとしているのかもしれない。

 アフリカの資源の掘削とかそんな感じだろうか。

 また、手付金として振り込まれた額も大金だった。


 急いでリストから書類を作っていく。

 山のような書類と格闘しながら、荷物の確認のためにコンテナの手配している業者へも確認を取る。

 手違いが無いか確認が取れない物は、仲間と連絡を取って手伝ってもらった。


 久しぶりの仲間は、皆、それぞれ自分の道を歩んでいたが、少尉の言葉に動かされて集まっていた。

 やっとの平穏は彼らに落ち着きをもたらした半面、まだ戦争の影を残していて、今も戦いへの衝動が消えずにいたようだ。


 荷物の確認のために一度、港に積まれたコンテナの中身を確認に来ていた。これから封をするという直前になったが、量が多くて間に合っていない。

 場所も足りてないくらいだった。


 来たついでに、海賊と渡り合うための船の下見をして措こうという事になり、元曹長と来ている。

 船は元イギリス軍の貨物船だった。

 しかも、補強されてこっそり対空砲が積めるようにしたものだった。

 これだけでも、相当ヤバい仕事だとわかる。


 船内は僕が乗り込んでいた貨物船とよく似ていた。

 下にボイラー室があり、そこで石炭をくべていたのが重油になっていた。

 船室は客船ほどではないが、広くなっていて、しばらく乗っても問題はなさそうだ。

 曹長は不満そうだったが。


「女は連れて行けそうにないな。」

「ええっ。それは・・・。」

 僕はその言葉にコーヒーを吹きそうになった。

「少尉の仕事で連れて行けるわけがないでしょう。」


「それもそうだな。だけどさ、アフリカだぜ。暇でしょうがないだろ。」

 船の上で3週間くらい乗ってないといけないから、解らない分けでもないけど。


 そうこうしているうちに、積み込みが始まり、準備が整っていく。

 エラが心配そうだったが、これも無事に故郷へ帰るためだと言って宥めた。

 僕も心配でないわけではない。

 いない間の守りに関しては、警備会社に頼るしかなかったから限界があった。


 早く片付けて帰ろう。

 また戦場に行く気分はエラの事で一杯だった。

 今度は娘と息子の事も増えていたが。



 それからしばらくは貨物船とコンテナの荷物の確認のために大忙しだった。

 書類が途中で止まっていないか確認したり、漏れた品物が無いか、納品はまだかと、苦戦する日々が続く。



 そんなある日、曹長から出先のホテルへ電話がある。

 部屋にいた時にフロントから知らせが来て、電話に出ると曹長の上機嫌な声が聞こえる。

 何やらかなり飲んでいるらしい。

「おい。準備はまだか?早くアフリカへ連れていけよー・・・」


「バカ。お前、飲み過ぎだ。」

 と隣で違う声がする。軍曹だ。

 彼は、軍曹より軍隊経験が長く、立場は下でも、武勲も腕もすごかった。


「軍曹。何やってるんですか?」

「ああ。よく聞け。お前の家族の避難先がバレてるぞ。」


「えーっ。もうバレてるんですか?」

 早すぎる。また引っ越しかと思えば、憂鬱になってくる。

 荷物はそれほどないのだが、子供の事もエラの事も、また地元に馴染むためにいろいろと用意がいる。


「またどこか探さないとな・・・。」


「船に乗せるか?」


「いや、それはちょっと・・・」

 子供の教育に悪いことが日々繰り返される事を想像して寒気がする。


「帰るころにはほとんど片付いてるぞ。それに、アフリカ旅行だ。楽しめよ。」


「流石にそれは止めときます。子供がいるから、船には乗せられない。」

 船をけなすわけではない。旅行ならどんな船でも楽しめると思うが、目的が目的なだけに勧められたものではない。


「あ。子供がいたんだっけな。そりゃ・・・悪かった。それなら、西側の国はどうだ?しばらくならパスも取れるだろ。」


「ありがとうございます。それは考えてるのですが、いいところが見つからなくて。」


「そうか。・・・。あるといいな。」

 と言いながら、電話の向こうで騒いでる人の声が聞こえる方に向かって「貸せる家持ってる奴いるか。」と大声で言っている。

 酔っ払いに向かって、聞いてもなぁ・・・。


 だけど、反応は良いようで、いろいろと聞こえてくる。内容がちょっとアレなのだが。


「あるぜ。納屋だけどな。」

「バカ。子供がいるんだぞ。納屋に住めるか。」


「モーテルならいいとこあるぜー。えへへへ。」

「隣のじいさんの家なら死にそうだからもうすぐ空くぞー。」

 酔っ払いばっかりで話すとこうなるっていう見本だな。


 その中でも、ちょっとまともそうなのもあるにはある。

「俺んちはどうだ。ババぁうるさいけどな。」

「ああ。ブルクハルト。お前んちはどこだっけ?」

「んあ?田舎だぜ畑しか無くてな。

 ビールと芋しかないからブクブク太らねえようにしないとな。わはは。」


「だから、どこだよ。」

「ヴァルツフート。」

「どこだそれ?」

「みろよ。しらねえだって。だから嫌だったんだよ。」

「あれだ・・・。えーっとチューリッヒの近くだろ。」

「スイスじゃねえか。」

「バカ。ライン川のこっちだよ。」

「危なくなったらスイスの叔父のところでもいいぜ。戦争の時でもそうしても良かったけど、俺は戦いたかったからな。」


「アベル。奴のところなら、いいんじゃないのか?」

 軍曹の言うように、いいかもしれない。

 気候も良いし、良いところそうだ。

 ブルクハルトと呼ばれたそいつは、良い奴で、僕と似たような田舎育ちの、天真爛漫で明るいやつだ。

 確か、大昔は貴族の家だったとか言っていた気がする。


「アベルー。田舎に行くなら、俺の部屋の荷物も持ってってくれよー。頼むぜー。わははは。

 聞こえたかな。荷物なんて無いけどなー。」


 あはは。聞こえてるわ!


 早速、連絡をしたらしく、ブルクハルトの方から連絡が来た。

 言っていたライン川の近くの村にある、実家の離れに住めることになった。

 もしかしたら、そこにいれば大丈夫かもしれないと思う。


 引っ越しには大きな荷物を持っては行かなかった。

 おそらくは2か月程だろうという事で、旅行気分の娘と息子を連れていく。ブルクハルトの両親は快く迎え入れてくれて、食事にも招いてくれた。


 土産に会社で取り扱っている機械類の在庫から、ポンプを持ってきていて、井戸のポンプを交換した。

 ついでに、フィルターも電磁式の新しいものにしておいた。安全を提供してくれているのだ。このくらいはしても良いだろう。


 しばらくはエラにも苦労を掛けるが、子供達は旅行に来た気分ではしゃいでいた。


「キャンプ場があるって言ってた!ねえ。いいでしょう?」

「おじいちゃんが焚火の仕方を教えてくれるよ。もしかしたら、釣りもできるかもね。」

「おいおい。それだけじゃないぞ。わしの焚火の料理は母さんにも負けんからな。」

「こら。その前にちゃんと勉強はしないと連れて行かないんだから。」


 絵にかいたような、幸せな家族の団らんに、心が和んでいく。

 逃げてきたという悲壮感がないのは、悪くないかもしれない。

 両親もその方が気が楽でいい。


 この団らんを守るためにもやり遂げて帰らないといけない。

 先ずは積み荷と渡航。物資輸送と護衛。

 そして、殲滅。

 僕の中のやる気は頂点に達していく。




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