第20話 罠



 また荷物の届かない事件が起きる。

 今度もコンテナに違うものが混入して差し止めに遭っていた。


 以前の取引先が会社ごと無くなってしまってから、しばらくはこの会社が相手だったのだが、途中から怪しい行動が目立つようになってきた。

 買収されたのか、売却したのかはわからなかったが、代表が変わってから書類の粗が目立つようになり、悪い噂が立つようになった。

 おそらくは、密造銃だとか不正物品のせどりなのだろうけどやるなら他所でやって欲しかった。


 今回は輸出品目だったので、引き取りに行く。

 取引客に早く納品しないと、相手の工場の稼働が遅れてしまう。


 今頃は家宅捜索をされていると思うが、それは父に任せておいて、僕は書類とコンテナを受け取りに港まで来た。

 しばらく待つと、コンテナの中身は別の倉庫に入れられて、すべて外に出して調べられた後だった。

 説明を聞いてみると、機械部品に混ざって、輸出が出来ない産業分野の物が入っていたらしい。


 どうやら機械の工場から出た後で、コンテナに混ぜる品物の箱の中に、そういった物を入れてたようだ。


 うちにとっては、書類の作り直しと送る費用を取れないくらいの損害だが、税関に目を付けられてやりにくくなる。


「これだ。覚えはありますか?」

 検査官が少し威圧的に話しかけてくる。

 僕に言われても困るけど、荷物の主がうちの会社である以上は対応しなくてはいけない。


「はい。ケースには見覚えがありますが、中身はサーバーコンピューターの部品って聞いてます。」

 問題の品物を見ると、そこには電子部品の入ったケースが入っていた。ちょっと見ただけでは何かの制御基板かなと思うくらいで、何だかわからない。


「本当にサーバーの部品って聞いてますか?もっと違うもので聞いていませんか?」

 職員も仕事なので聞く必要もあるだろう。しかし、そうとしか聞いていないので、そのまま言うしかない。

「いいや。そんなことは無い。書類でも書いたが、サーバー用の部品と聞いている。」


 職員がケースの下から、ちょっと他とは梱包の違う基盤を出してくる。その基盤だけ造りが頑丈そうで、一般のサーバー用の部品ではなく、良い品だとわかる。

「じゃあ。こちらの基盤は見覚えがありますか?」

 と疑うように質問してくる。

「いいえ。ありません。全部見たつもりですが、そんなのは入っていなかったと思います。」

 と言いながら、僕は少し焦ってくる。もしも、これが輸出禁止規制品だとしたら、罰金や懲役もあり得るようになってくる。

 責任の所在がはっきりしないと、大変なことになりそうだ。


「そうですか。でも、実際にコンテナの中に入ってましたよ。で、これがサーバーの部品なら問題ないのですが、我々は違うと思っています。なんだと思いますか?」

 かなり嫌味がきついが逆らっても意味がないし、時間ばかりが進んで面倒になってきていた。

 この時点で、もうすでに処遇について何か決まっていたような対応だと思った。


 こうなっては、今からどうもこうもならないのでね半分諦めかかっている。

 僕は職員のじっと威圧的に見てくる視線を無視して、知らんぷりして言う。

「このくらいの破れた白い紙を見ませんか?どうやら落としてしまったようで・・・。」


「なんだ?知らんぞ。」


「そうですか。無いですかね。ああ。そうでした。さぁ?兵器かなんかですか?」

 ここで保留になるのだから、そういう物しかないだろう。


「知っていたんじゃないですか?」

 ほら、言いやがったと言わんばかりだ。


「言いたそうな顔していたので代わり言いました。何と言おうが、私が見た時には、この基盤はありませんでした。後で混入したとしか思えません。」


「誰かが後から入れとでもいうのか?」


「そうだろうな。コンテナの扉を閉めてもいいか?」

 言い終わる前にコンテナに手を伸ばす。


「なんだ?おい!勝手にするなよ!」

 慌てて止めようとする検査官にも構わず、コンテナの扉を閉めてロックする。


「貴様!動くな!」

 警備が駆けつけてきて腕をつかむが、逆につかんだ手を押して扉にたたきつける。

「うがっ」


「まて。これを見ろ。」

 と手に持った写真を見せる。

 コンテナの扉の写真だが、番号からこの目の前のコンテナだとわかる。

 それに、その日の新聞が映っている。

 これまでの経緯から、高価なカメラを買って、コンテナの写真を撮るようにしておいたのだ。


「ここを見ろ。」

 と扉の合わせ目の上の方に白いシールが貼ってあるのがわかる。

「見たな。このコンテナを見ろ。封が破かれて真ん中が半分がなくなっている。」


 検査官がぽかんとしているが続ける。

「わかるか?開けた奴が破り捨てたはずだ。ここに無いなら、別のところで開けられている。」


「まてまて。何なんだいきなり。説明しろ。」

 別の警備の男が慌てて言う。


 検査官が何か言いたげに、青くなりながら口をぱくぱくさせている。


 僕は、コンテナの封と写真説明を警備にすると、検査官とどこかに消えていく。

 しばらく待っていると、違う職員が現れて、そろそろ荷を持って帰れと言われるのかと思ったら、明日また荷物を取りに来いと言われた。


 おい。

 こっちは別の運送会社のコンテナを手配して待たせてるんだぞ!

 全く、迷惑な話だ。


 職員も詳しくは言わなかったので、詳細はわからず終いだが、止められたという事は兵器だとか、そういった類のものなのだろう。

 心配になって家に電話を掛けと、待っていたかのように父が電話に出た。

 家宅捜査ではすべての書類が押収されていったらしい。

「もう。なんなのよ。片付けて行きなさいよ。」

 エラが少しヒステリックになって電話の向こうで話している。

 エラに電話を代わってもらうと、機関銃のような愚痴の応酬に遭った。

 女性の取締官が来て、寝室を足で蹴りまくって汚して帰ったと怒っている。

 そのうえ、男性の取締官が家具をひっくり返したり壁を壊して調べたりで、酷い有様なようだ。


 この借りはしっかり取ってもらうぞ。


 僕もそう思った。こんなのどこかに怒りをぶつけないとやってられっか!

 っと、どうしてか、夢の中で久しぶりに自分の意志がはっきり感じる。手を握り絞める感覚とかがはっきりと感じられるのは、本当に久しぶりだ。


 だけど、その感覚を味わおうと深呼吸したとたんにすーっと夢から覚めて、28歳の結婚してパパになった自分に戻った。

 もっと続きを見ていたかったけど、たまに良くわからないパターンがあるから、気を付けなければいけないと思った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る