第19話 社会人になった僕



 夢ではない現実の僕は、金髪、青い目の美青年ではなく、地味な陰キャだ。

 頭は普通だし、背は高い方くらいかな。

 相変わらずオタクは継続中だ。


 大学を経て、僕は就職した。

 知り合いの伝手から建築設計事務所の就職先を探していた時に、デベロッパーの面接を受けてみたら受かってしまった。


 何かの間違いかと思ったら、技術職ではなくって営業職だった。

 あー。なるほど・・・。

 そうだよねー。

 しかも、運転手とカバン持ちばっかり。

 だけど、営業職って大変なんだけど、それなりに楽しい事もあるからいいんだけどね。


「今日は〇〇食品の営業所ビルの改修の件と・・・〇〇物産の自動倉庫の打ち合わせな。クライアントを乗せていくから、車はセダンを用意しといてくれよ。」

 課長がいくつか案件をまとめて仕切っているので、毎日が慌ただしい。

 設計士と構造設計士、設備設計士、電気設計士、土木建築士、いろいろすり合わせた上でクライアントとの打ち合わせになる。

 手伝ってると大変だ。

 と言っても、予定の調整やデータを送ったり、図面をプロッターで出力したりが多いのだが。


 そんな感じで、設計からは無縁だったので、ちょっとだけトイレの手直しで、CADを触らせてもらった時は嬉しかったな。


 新しい設計のゾーニングから1/200の製図が出来上がってくると、一度、プランの提案に伺うアポをとって課長の予定に入れる。

 割と勝手に予定を入れておいても、ダルブッキングしてなければ文句は言わなかった。

 基本的には営業と言っても、御用聞き的な部署だから、その辺りは適当でもいいのかもしれない。


 仕事に関して怒られると言えば、会長の運転手をしていて、片手をシフトに乗せてたらハンドルを握れとか言われたりとかかな。

 あと、缶コーヒーを差し入れた時に、自販機の残りの数が足りなくて少し変わった種類のが混ざると、普通のやつを買い直しに行かされるとか。

 そういう細かいのはいろいろあったっけ。


 入社当時から、社会人としての礼儀とか叩き込まれたのは課長だけど、軍隊の訓練さながらだった。会社の皆はここの課の事を軍隊とか、課長の事をハート〇ン軍曹とか言ってる。


 課長は元エリート自衛官で、ガラが悪いオジサンだけど、体育会系と言うか、声がやたらデカくて礼儀とかめちゃくちゃうるさかった。

 夢の中で一緒に戦った、口の悪い軍曹になんとなく似てて偶然に思えない。

 雰囲気も顔が外人ぽいというか、金髪とかカラコンにしたら白人にしか見えないだろうな。


 それから、ここの課の事務の女性でお局様的な人がいるけど、その人もガラが悪くて有名だった。

 女だけどここの設計士と殴り合いの喧嘩をして、股間を蹴り上げてグーパンでノックアウトしたらしい。

 僕も入社したての頃に連絡ミスしたら「舐めてたらタマ潰すぞ。」って低い声で言われて、小突かれた。


 どんな育ち方したら、そんなになっちゃうんですか?

 というか、人格がおかしくないですか?

 ある種の病気でしょうか?


 でも、みんな普段は明るくてひようきんで楽しい人ばかりだったので、特に不満はない。


 怒らせると股間が縮こまるけど・・・。


 仕事はもう少し設計もしてみたいけど、少しだけでも知識があると、提案するときにさくさく進められるので、無駄ではなかったと感じる。

 できるだけ詳しく企画の内容を書いて設計士に渡す。

 ちゃんと出来上がった時には感動ものだった。

 以前、臨時で書いた小さなトイレも、クライアントの社員の方に気に入ってもらえてた。


 営業してると、直接、使う人の顔が見られるのが利点だと思う。

 運転手とカバン持ちみたいな立場でも、十分、満足してる。



 ただ、彼女がいなくて、まだだった・・・。

 1回か2回、街へ遊びに行ったりした女友達と言うか、知り合いというかそういうのはいたけど、僕には合わない気がした。

 僕には大人しい子は合わない気がする。

 なぜかと言われるとわからないけど、オタクのクセに活発な女性に魅力を感じるし、どちらかと言えば、DOQN的な人の方が合うと思う。


 あっ。でも、お局様はちょっと・・・。

 僕の股間はヒュッと縮んだ。


 気になる子っていうのが、いろいろいないわけではないんですけどね。

 設備機器メーカーの受付の子とかめっちゃ美人揃いだし、ここの会社でも地味でもエロを感じる子とかいないわけでもないんだけど、基本的に陰キャのオタには違う世界に思えてしまって・・・。


 唯一、いいかなと思っている子が、コンパに来てたハーフかクオーターのDOQNな子。

 最初に見た時にはつーんとしてて、男前な発言が、そこにいた野郎共をドン引きさせてた。

 でも、女性同士の会話で時折り見せる笑顔にドキッとしたな。なんていうか、ギャップ?かわいかったな。


 なんだろう。

 僕は変態か何かだろうか?

 事務所の地味エロな子の仲間だろうか?

 ちょっと尻に敷かれてみたいというか、甘えられたいというか、嫁にしたらどんな感じだろうかとか考えてしまった。


 顔はすごく外人的で、美人の部類だけど、男前すぎてなんだろうけど、言い寄ってくる男がみんなDOQNで困るとか言ってた。

 それなら陰キャの僕でもアリですか?なんてね。


 ぼ・ぼ・ぼ・僕はあなたの事が・・好きですっ!

 って言えばいいのかな?(笑)


 それで、抱かれてキスなんかされちゃったりするんですかね?


 いや、実は逆で、大人しい僕が急に馬乗り状態に・・・

 いやいやいや、殺されそうだね。


 こんな事なら、学生の頃にもっと遊んでおけば良かったのかな。


 そういえば、夢の中の少尉と曹長は嫁が男前すぎて、喧嘩したら殺し合いになるから、絶対に言う事聞いておかないとダメなんだとか言ってたな。

 あれっ?僕は少尉や軍曹と趣味が同じ?


 少尉と曹長はモテキャラというか、金髪、青い目の男前だと思うし、自分で遊びまわってたって言ってたし。

 僕は陰キャです。あなた方とは違います。



 ふと、性格が夢の中の僕と似てきているというか、お互いに引っ張ってる気がする。

 僕は陰キャであっちは陽キャかな。

 あっちのいいところを見習ったりしたして、ほとんど同一になりかけてても、基本的なところでは変わらないので、未だに陰キャなのだ。




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