夢から覚める夢

第18話 転んだら起きよう



 僕は社会人になっていた。

 普通に大学を出て、普通に就職をして、普通に恋人もいる。と思う。

 まぁ・・・。その辺りの違和感は別に置いといて。


 夢は相変わらずアデルとエラの夢が出てきた。

 なぜかこの頃は同じ夢をリピートするように見た。

 何でもない日常のお茶をして、子供のためにプレゼントを買ったり、おじさんと意見し合って仕入れたり。

 全て幸せな夢だったので、全く不満もない。

 もしかしたら、夢をコントロールする・・・ができるようになったのだろうか。そう思った時もあった。


 怖い夢も見ないし、金縛りもない。



 しかし、そんな夢もある夢を境に途絶えるようになった。


 僕はエラと結婚し、子供もいた。

 両親とだけど、家も車もあって、順調だと思う。

 まだまだ国内が落ち着いたとは言えないから、収入は安定しないけど、少しづつ貯めては行けていた。


 ある日、仕事でトラブルがあった。

 輸送中の品物が届かないという事態に調査をした時に、犯罪に巻き込まれるという事件になった。

 損害はこちらには無いのだが、相手方には厳しい現実となるに違いない。

 仕事の関係上、いろんな意味でいろんな人が関わるので、まずいかもしれなかった。

 それは相手方だけではなく、こちらにも降りかかることになっていく。


 この時の取引には、それほど問題になる物品は含まれていないはずだったけど、コンテナの大きさから、他の会社の荷物も混載して運ぶ様にしてあったのが切っ掛けだ。


 コンテナに積む荷物には自社の扱う物が積まれているはずで、混載する場合は、内容を把握するような書類と証明書がないと混載は受け付けない。

 なので、今回も同じようにしたのだが、ここに不正なものが紛れ込んでいたようだ。

 荷物は検査で不正なものとして事件にまでなった。

 しかも、他のコンテナから武器と輸出禁止物品が入ってて、家宅捜査を受ける。

 もちろん、こちらのやったことではないけど、同様に調べられて、荷物の手続きがやり直しになる。


 なぜそんなものが混ざっていたのか、誰が混ぜたのかが問題で、相手方にはわからないと言うのだが、書類や封もやっていることだし、そんな訳はないはずで、大きな問題になっているはずだ。


 だが、それだけでは収まらなかった。

 一件の電話が家族を脅かす。

 電話の相手は、マフィアだった。取引の相手方にそういった商売相手がいるのは知っていたが、なにかしくじったのかもしれなかった。


 覚えのない話ではあったが、内容はこうだった。

「問題があった荷物に、武器と紙幣があったのだが、押収されたものの中身の量が合っていない。」

 というものだった。

 それならこっちはぜんぜん関係ないじゃないかと思うのだが。

 それと、誰かが、うちの名前を出して奪ったと言ったらしい。

 狂ったやつがいるものだ。

 そんな直ぐにバレるような嘘を・・・。


 僕は男と会ってもいいし、指定するならどこへでも行くと話した。

 エラには心配ないと言って、プラハまで行く。

 何もしていないし、向こうにも根拠はほとんどないから、無茶してまで追求するものでもないだろう。


 指定した場所からは別の車へ乗せられてついていく。

 連れられて行った所には、数人のロシア系の男たちがいて、簡単に挨拶を交わす。


 中にはソ連から逃げてきた時に一緒にいたソ連の村の男もいた。

 どうやらそういったソ連の人たちのマフィアらしい。


 簡単な日常会話くらいはわかるので、片言ながら

 元ドイツの兵士だった事を話していると、一部の者はその時の話を思い出していた。

 ソ連では新兵の時から遠征に行き、ハンガリーやスロバキア、チェコを後退していった事。

 一緒に逃れてきた男はその時のことを覚えていたらしく、少年兵だと勘違いしていたと言った。


「もうあれから7年経ったからね。」と言った言葉に更に、今は20になったかとか冗談を言ってくる。

 これには流石に参ったが、返って話が面白くなって盛り上がる。

 ウオッカが出てきて回して飲んだ。


 ハンガリーでの脱出の話になると、彼らの身内が犠牲になったことも分かって、涙を流しながら話す者もいた。

 情に深い者ばかりだったので、泣いたり笑ったりして話は尽きなかった。


 結局のところ、疑ってはいなかったが、確認がしたかったというところだろう。

 こちらとしても、そういう事なら別段構わない。

 むしろ、この機会に顔を広めておいて損はないし、よく商売で来る街なので、情報を集められる伝手があるのはありがたい。


 本題になるとそれまで和やかだった人たちの顔が強張るていく。

 うちの荷物に無断で混ざったのだから、こちらは被害を被った側なのだから状況ははっきり聞いておいた。

 良くない事に取引相手が不正な書類を作って、勝手にやってた事のようだった。

 それなら取引先のところへ補填してもらうよう、自分も行くからとしっかりと要求しておいた。

 きっちり話して、やるべきことはやって、引くところは引く。

 それが信頼に繋がっていくこともあるので、手を抜いたりはしない。


 悪いようには受け取られていなくて、帰りには商談があるかもしれないと、言ってもらえてうれしかった。

 トラブルはごめんだが、仕事はありがたい。

 武器等の禁止物品には別のルートを知っているからそっちに回してもらって、正規の物の輸入や普通に扱っている資材の調達は貰えるように話しておいた。


 商売は転んでもただでは起きないぞ!




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