第16話 自由への解放

 解放


 アメリカとイタリア、フランス間をアメリカ軍の貨物船に乗って往復するうちに、2年が過ぎてゆく。

 この頃には軍の物資よりも民間の物資が増えていて、戦争の後始末が少しずつ進んでいるようだ。

 何度も、何度も船の積み下ろしをしても、尽きることのない物資が港に溢れかえる。一体、どこへ消えるのだろうかと思うほどだ。

 ある時は急な追加が来て、船がひっくり返りそうなくらい積んで、いつもよりゆっくり進んだ。

 普段は嵐でもひっくり返ることは無いくらい大きさの船だけど、それには皆、ビクビクしながら乗っていた。


 僕の乗っていた船は軍の貨物船だったが、ある時、民間に払い下げられた。

 戦争による被害を免れていた船だったけど、古くて所々ガタがきていたからだった。


 それを聞いた時には、また違うところへ移されるだけかと思ったが、船に残って正規の雇用で仕事を続けられる事も可能だったし、辞めることもできた。


「船は払い下げになったが、どうする?」

 軍の事務所で唐突に言い渡される。

「へっ?」

 その時、捕虜から解放されたのだった。

 隣の仲間と顔を見合わせて抱き合って喜んだ。

 迷わず僕達は故郷に帰る事を選んだ。

 捕虜の仲間とは別れるのが惜しかったが、帰れることに比べようがない。

 みんな揃って故郷へ帰る事にした。

 みんなそれぞれバラバラだったが、西ドイツ、東ドイツ、ブルガリア、オーストリアと方向は大体同じなので揃って帰る事にした。


 アメリカからの客船に乗るには金が乏しかったから、フランスまで仕事を手伝いながら、貨物船に乗せてもらった。

 陸路を故郷に行くまでの費用がどれくらいかかるか見当もつかなかったから、できるだけ残しておきたかったのもある。


 フランスからは列車で行こうとしたけれど、どこも途中で壊れてて、乗り継いで行かなければならなかった。

 途切れているところは、バスでも探して行けるところまでは行こう。それでも駄目なら歩くしかないだろうけど。

 しかし、もっと大変だったのが、まだまだ国内は混乱していて、物が何もないし、食べる物が無い事だった。

 村で食べ物と持ち物を交換しながら歩いて峠を越える何ていう事もあった。


 国境を越えてまた列車に乗って、また歩いて、そんな旅をしながらドレスデンまで戻った時は、街の姿に驚いた。

 あれほど美しかった街は破壊され、瓦礫の山が残る通りには、子供の頃に行ったことのあるレストランもお菓子屋もあったはずだ。

 あるのはひたすら続く、瓦礫の山が道の脇に積まれて一応、交通の復旧をした後だった。


 人々は食べ物を求めて闇市に溢れていた。僕もその中に混ざって、パンを買った。

 軍のトラックが闇市を解散させようと何人も捕まえていたが、どうせまたここに闇市は無くならないだろう。それくらい食べ物がなかった。

 配給なんて足りるわけがない。


 何処に行っても、やはりというか、占領軍の中に粗行の悪い者がいるものだ。

 暴行や略奪が頻繁に起きていて、そういった事を避けるために、軍の車両から身を隠しながら歩くのに慣れてしまった。

 隠れてないとこれまで見たように、暴行を受けた女性や殺された一家みたいに、理不尽な最期を迎えるかもしれない。

 隠れている間に銃声が響いて、車両だけが賑やかに去っていく事が当たり前の様だった。


 やっとのことで、街に知り合いがいるのを見つけて、そこから馬車で町まで乗せてもらう。

 歩いても行けなくはないけど、知り合いに会えたのがうれしくて乗せてもらった。



 あれからの町の話を噂で聞いていたけど、大変だったようだった。

 ソ連軍が町のそばを通って行軍するという事で、みんな逃げたらしい。

 それはどこでも同じ様な話だったけど、誰もいない町でも動けない者もいる。そういう弱い年寄りは殺されて、逃げた人々も山狩りに遭ったらしい。


 もちろん家は荒らされて、何もなかったという事だ。

 まあ・・・、農具までは取らないだろうけど、家財道具なんかをひっくり返されたり、燃やされたりしたらそう言いたくもなるよね。

 そうしつこいものではなかったようだが、彼らからすると一日中山を越えて追いかけてきた、野蛮な獣みたいな話になっていた。事実はどうかわからないけど、捕まって殺されたり暴行受けたりした者もいただろう。


 そういう話を聞くと容易に想像が出来てしまう分、家族やエラが増々心配になってきた。

 言っていた山の中の小屋はプラハに近いところにあるらしくて、国境を越えて逃げて隠れれば・・・何とか言ってたような気がする。

 うまくいってるといいが。




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