第15話 戦争では無い戦い
ある時、乗っていた船がアドリア海で海賊に遭遇した。
僕は機関室で石炭をくべていたから、異変に気付くのが遅くて、襲われている事に気付くのが乗り込んできてしまってからだった。
全く運がないと思った。
今までやっと戦いのない時代にまで生き残れたのにと思っていたのに全くツイてないと、自分を呪ってしまいそうになる。
さっきから聞こえてくる警備兵の銃と違う音が7つだと思う。
警備もそのくらいだろうか。
しかし、相手の方が優勢で、だんだんこちらの数が減っているのがわかる。
「動くな。下で静かになるまで待ってろ。」
気付いて上に上がろうとしたとき、船の警備兵に怒鳴り付けられたが、その警備兵が目の前で通路の向こうにいた海賊の男に撃たれて死んだ。
警備兵の持っていた拳銃が、倒れた勢いで目の前に転がってきた。
僕は階段の踊り場にいたから、海賊からは見えなかったろう。しかし、こちらに誰かいるのは警備の怒鳴る声でわかったはずなので、海賊の足音がこちらに向かってくるのがわかる。
それも、慎重に構えながら・・・。
またこちらに殺意を剥きだしてやってくる。あの戦場での殺意を思い出していた。
僕は銃を拾うと、階段の踊り場の上の配管にぶら下がって、入り口から見えないように隠れた。
こちらからは階段に来れば上から見えるのだが、上を向かれると見つかるだろう。
静かに待っていると、真下にライフルを構えた男が来た。
僕は海賊に向かって銃を撃つ。発射音が階段中に響き、血が僕の方まで飛んできた。
声も上げずにドサッと倒れた。
海賊の銃はこの船の警備よりもいいものを使っていた。こちらは拳銃かボルトアクションライフルなのに、この男はアサルトライフルを使っている。
軍よりいいものを使ってるんだな。
僕は男のアサルトライフルを奪って、警備兵の弾を漁ってポケットに入れた。
返り血を浴びてしまったし、言い逃れできないところまで来たので、もう腹を括るしかない。
急いで階段を下りて、ボイラー室の皆に声を掛ける。
「大変だ。海賊が侵入したみたいだぞ。」
「何?嘘だろ?さっきの音、撃たれたのか?」
皆は元が兵士なので、そういうところは順応は早かった。
「いや、警備兵がやられたけど、一人殺した。」
「他の警備のやつは?艦橋へ逃げたのか?」
「わからない。でも、撃ち合ってる。早く始末しないとやられてしまうだろう。」
「何やってんだ、あいつら。アメリカ野郎め!ちゃんとしろよ。」
「いいから行くぞ。船を着けてるだろうから、見張りから片付けよう。」と言うと銃を渡した。
機関室でいる仲間も呼んで、船底から海賊のいなさそうな居住区を通って、今度は救命ボートのあるタラップまで慎重に進む。
おそらくはそこから乗り込んだはずだ。
救命ボートが見えるところまで行くと、下には漁船らしき船が横づけされていて、船体に傷が付いてて、強引に乗り込んだようだ。さらにロープで2隻の小舟が着けられていた。
廊下は海賊と警備兵の死体がごろごろしていて、まるで戦争だった。
その死体を漁る男ともう一人の見張りがいた。
手で合図を送って、2人で同時に撃ち出す。
僕と仲間は廊下にいるその2人の男を撃つと、小舟に残っていた男達と撃ち合いになる。
「僕は艦橋のやつが扉から出てくるのを殺る。撃ち漏らしたらここに来るから、そこの門で待ち伏せして始末してくれ。」
同時に、ここに来るであろう海賊を、銃を拾った仲間と待ち伏せするために移動する。
「わかった。ドジるなよ。」
「抜かせ。お前こそ船のやつを片付けとけよ。」
廊下とは別に、艦橋の内側の階段から、激しい撃ち合いが聞こえる。
何処から廊下へ来るかはわかっている。
それほど通路は無いし、艦橋の下のドアが近い。そうでなければ、船尾の方から来るだろう。
銃撃の音からして、4人以上は警備兵と戦っているようだ。
狭い階段で撃ち合っているから、聞こえてくるのはそんなものだが、もっといるかもしれない。
おそらくは、先ほど廊下でたくさん死んでいたことから、海賊はここまで抵抗されるとは思っていなかったに違いない。
ロケット弾か何かで脅迫して、降伏させてから乗り込んで制圧するのが当たり前だと思う。
何が起きたのかわからないが、滅ぼし合いの死闘になってしまっていた。
どちらも数に余裕がないらしく、撃ち合っている状況はさっきから変わっていないと思う。
変わったのは、少し撃ち合いが減った分がこちらに来ている事だろう。
僕はコンテナの屋根に、誰もいないのを確認して上り、怒鳴り声のする艦橋の入り口の方向に、銃をフルオートにして構えて待った。
ドアが開いて出てきたのは3人だった。
1人はこちらに気が付いて銃を向けるけど、こちらはそれよりも早く狙いをつけていたので、その男ともう一人を同時に片付けた。
一人は素早く身を隠して逃げた。行先もそれほど多くない船の中では、行く方向と目的地はわかる。
男の向かった先は、逃げるために救命ボートの方へ向かったのだろう。
コンテナから降りると、急いで仲間のいる艦橋へ行き、ドアを内側からロックする。これで、中で戦っている者たちだけになった。
階段の前に警備兵が階段下に転がっていて、銃声が階段からしている。
指令室と階段下からの挟み撃ちの形で、下から狙って撃つとあっという間に4人を制圧した。
下から海賊を撃ったのが捕虜の僕だと知った艦長らは、初めは何が起きたか理解できず、バカみたいにぽかんとしていた。
「おい。撃つなよ。そっち行くから。」
まさか、連れていた捕虜に、この窮地を助けられるなんて予想もしていなかったろう。
銃を床に置いて、武器を持っていない事を見せながら艦橋を登ると、船倉の近くと廊下、艦橋の下で海賊を殺したことを話す。
「あと海賊の船と、さっき逃げた奴だけになったはずだ。後は外にいるやつが始末するだろう。」
ここで何が起きたのか聞こうとしたが、皆、黙ったままだった。
外で銃声がしていたが、止んで静かになった。おそらくは、仲間が片付けたのだろう。
船内にいる警備兵はみんなやられてしまったらしく、6人で船に登ってくる海賊を半分にしたらしいのだが、残ったのは艦橋にいる1人だけらしい。
今は船長、副船長と警備兵1人、機関士と撃たれて怪我をした航海士との5人と捕虜4人だけになったようだ。
副船長は捕虜の割合が多くなってしまった事が脅威だと主張して、僕を拘束するように言い始めたけど、そうはならなかった。
僕は警備兵と甲板に降りて、仲間の捕虜に武器を捨てさせて食堂に集まった。
仲間もここで船を乗っ取って逃げたとしても、待っているのは逃亡生活になってしまうだけだとわかっている。
片付けは大変だった。
船の環境は元から良くない。船のペンキの臭いと血の臭いとが混ざって、船内に充満して吐き気がした。
血の掃除は捕虜の仕事であったが、今回は船員も死体を片付けた。
弔いもあるし、この惨劇を早く終わりにしたかったようだ。
僕たちも並んで、警備兵を海葬にした。
海賊も同様に海葬にして、ボロボロになった海賊の船は油をかけて燃やして沈めることになった。
目的地までの間は、捕虜の誰か一人が、船尾付近の見張りに就いた。
もう流石に来ないだろうと思うけど、先日の報復に現れる可能性があるとして、一応は警戒をするようだ。
アメリカに渡る前に、イギリスの港へ寄港して聴取を受けた。
船は警備兵を補充してまた目的地へ。
この件以来、少しだけ食事が多くなって、量だけはまともになった。死ぬ者もいなくなった。
運の悪い事件だったが、僕たちにとっては、今までよりも環境が良くなった出来事だった。
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