第10話 帰郷



 僕のいた隊は、寒い冬から逃れるようにフランスへ移動してゆく。これまでの戦闘で車両は破壊されて、装備も消耗し、兵士も疲れていた。このままでは更に大きな損害が出てしまうと判断されたようだ。


 そんな隊にいた僕だが、決まっていた兵役の期間の2年が少し過ぎてはしまっていて、帰ることができる事になった。

 僕と同じ時に配属された奴は、熟練の兵士以外が最初の1年でみんな死んでた。


 フランスへ移動する途中の駐屯地まで一緒に行軍していき、そこで除隊の手続きをする予定だ。

 行軍するトラックの中で隊での事を思い出して、気持ちが一杯になり、涙が溢れそうになってそっと拭いた。

 この隊の皆はこれから、短いフランスへの避難からギリシャへ行く事になっている。

 このまま戦争が終わってくれたら、みんな故郷へ帰れるのに・・・なんて思った。


 除隊の手続きをすると、列車に乗って故郷の近くの街まで行きバスで町まで帰る。

 除隊と言っても、形ばかりな気がする。今は人手がどこも足りていないし、戦場へ呼び戻される可能性もある。


 だけど、やっと町に帰ってこれた。

 エラは元気だろうか?

 生まれた町に帰ってきた足は、全く疲れていないように軽く、家までの道のりを速足で歩く。

 遠くに家が見えて、家に帰ってきたと思ったら、足は止まらなくなった。


 そのままの勢いのまま家に入る。

 母がいてびっくりしていたが、しっかりと抱擁してくれた。父は出ていていなかったが、夜には戻るという。

 兵役に出たままにしてあった部屋に荷物を置くと、直ぐに家を出る。

 エラに会いたい。

 彼女の家に向かう途中で近所の、のんびり話しかけてくるおじいさんにも会ったが、あいさつもそこそこに「また寄るよ。じゃあ。」とだけ言って急いだ。

 エラは今、なにをしているだろうか?

 久しぶりに僕を見た彼女はなんて言うだろう?


 エラの家が見えてくる。僕は彼女の姿を探しながら、今更ながら何て話そうか悩み始めた。

 いろいろ話すことがあり過ぎて、どれから話そうか迷うくらいだったはずなのに、彼女と会えると思うと全部忘れてしまったようだ。

 近くまで来ると、エラが家のドアの前で何か用事をしているのが見えた。

 離れててもわかるくらい大人になって見えた。

 僕が敷地に入っていく前に、エラの方が家の外で誰かが来るのを音で気が付いたようだった。

 ドアの窓からこちらを見て驚いていた。

 彼女は急いで外に出ると口元に手を当てて、自分を何とか落ち着けようとしている。

 家の前まで来た僕は、ゆっくりとエラの元へ歩いた。


「ただいま。」

 彼女は、口に手を当てたまま泣きそうだった。

 手を取って「会いたかったよ。」

 僕の方も、それが精一杯になってた。どんなに会った時の会話を想像してたのかわからない。だけど、彼女の前だと全く意味がなくなってしまう。

「おかえりなさい・・・。」

 泣かせてしまった。


 直ぐにおじさんが出てきて助かった。が、冗談なのか本気なのか、エラを泣かせてしまった事を怒られた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る