第11話 また前線へ
その年の秋に戦車や大砲が僕のいた師団に補充された。
配属されてすぐの頃の戦車とは違って、新しい戦車は頑丈そうで大砲も大きかった。この戦車や装甲車が頼りになる場合が多いので、新しい武器は、僕たちにとってはありがたい。
戦力が補強された後、またソ連へ行くことになった。もしかすると、ここへ来るための補充だったのかもしれない。
除隊して1年経って招集された僕は、今、冬のソ連の西部で、また知った顔の連中と装甲車の機関銃の煤を掃除している。
油を挿してボルトを引くと小気味良い機械の音がする。新しい機械は感心するほど良くできていた。
訓練の時には古臭くてめんどくさい機関銃を触っていたけど、これなら戦っていても調子を気にせずいくらでも撃てそうだと思った。
しかし、いくら武器が良くても、運が悪ければ生きて帰れない。
今は前と違って、新兵の数が多いようだし、何といってもここは、占領しているとはいえソ連の土地だ。
悪いことに、僕は輸送部隊に配属されたはずなのに、ここに来てからというものの、帰れるどころか、そのまま装甲車両の護衛の兵士になってしまっている。
なじみの軍曹に少尉が、今は僕の直接の上司ではないが、上司のような関係で装甲車に乗っている。
何処から見てもガラの悪い将兵の5人がやってくる。
そのガラの悪い顔は新兵の頃から見知った顔だった。
「よう。新兵。帰ってきたな。」
「なんだよ。アベル、死にに来たのか?」
そんなわけがない。今は予備役からの招集なので、後方のはずなのに。
少尉も曹長も冗談がきつすぎる。
「まぁ、ゆっくりやってけよ。」と酒を渡してくる。
酒場じゃないんだから・・・。
代わりに、僕は吸わないけど、背嚢に入れてたタバコを皆に渡して火をつける。そして、少尉にも渡して火をつけて、残りはそのまま渡す。
渡された酒の瓶の中身は上等なブランデーだった。おそらくは指揮官クラスの支給品か私物をくすねた物だろう。飲みやすくて、すっと体が温まっていく。
何処から見ても不良の集まりだろうけど、居心地は悪くない。
皆も僕も笑って握手した。
「お元気でしたか?」
僕は曹長に聞くと、「ああ。俺は死なんさ。お前より生きてやる。」
「殺されても死なない人だからね。」
「わはは。前に撃たれた時もその前も、帰ってきたからな。」とブランデーの瓶をひったくって飲んだら、仲間に回す。
この人は、負傷しても希望して戦地へ戻ってきてこうしている。戦うために生きているような人だ。
少尉も戦地ではなく本部でいてもおかしくない優秀な人なのに、昇格もしないで、好き好んで前線で戦っている変わった人だ。
明らかに僕とは違う人たちだけど、いくつかの作戦で一緒に生き残ったという意識から、お互いに頼りになる戦士として認めていた。
またこの人達と作戦をする仲間に入れてもらえそうだ。
そこは良いんだけど・・・。
何をやっているんだろう。
今度こそは後方で・・・と思っていたのに、また前線で戦っている。
2日前には陣地を攻撃してくる部隊を退けるために、死んだ射撃手の代わりに弾を撃ち尽くした。
輸送してきたトラックもやられて、帰りのトラックは怪我人でいっぱいだった。
そして、もっと上からの通達でここへの編入になってしまった。
生き残るためとはいえ、僕には理不尽であり、ひどく遠回りな気がする。
ここへ来てから僕の中で妙な胸騒ぎがしている。
敵の部隊が陣地付近に現れた時に、少しではあるが前に来た時に見たものではない新しい頑丈そうな戦車が見えたのだった。
こちらも新しい戦車になって心強いのだが、相手も強くなっている。もし、あの戦車がたくさん攻めてきたら、いくら師団の皆が強くても被害が大きくなるのは想像できる。今までのように、あっという間に駆逐できるように、簡単に思っててはいけないと思う。
ここの戦いは直ぐには終わらないだろう。そんな気がしてならなかった。
またエラに手紙を書いた。
今度こそは帰るんだ、と思いながらも軍に附いていくしかなくて、またしばらくかかりそうだ・・・と書いた。
それ以上はエラに心配を掛けそうで書かないでおこうと思った。
ソ連と戦って守り切れるかどうかわからない。
もし、彼らの戦車を食い止めることができたとしても、それは一時凌ぎにしかならないのはみんな思っている。
もし、彼らに捕まったとしたら、前の戦いで散々殺してきた復讐にひどい目に遭わされることだろう。
そんな手紙は書けない。
代わりに、隊の皆の話や頼りになる上官の話を書いておいた。帰ったら、流行ってるコーラやホットドックを一緒に食べようとか、そんな他愛もないことを書いた。
エラに会いに帰りたい。それだけなのに。
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