第8話 厳しい戦場を生き抜く



 途中で通りかかる村は、洪水でもあったのか、辺りは氷に覆われた上に雪が積もっている。

 隊は薄い氷の上を進めず迂回する。目前に広がる真っ白い大地が、うんざりするほど僕らを阻んで歩みを止めたがる。

 冬は苦手だ。

 僕はどちらかと言えば痩せている方だし、ブーツの靴底や持った機械が浸みる様に冷たい。

 仲間の中には元々、体調の良くないものがいて、手足がひどい凍傷になってた。

 僕の服はところどころに破片で破れた穴から冷たい空気が入ってきて、支給される食料の袋で塞いだりして凌いでいる。

 支給されてくる物の中にキルトの服や手袋が欲しかったけど、そういった物は入ってくることが少なくて、僕らには当たらなかった。


 モスクワに近づく度に、だんだんと皆は疲れが酷くなっているのに、敵は増えるような気がする。

 そしてとうとう僕のいる隊が劣勢になり、敵の勢いをつけて迫る兵士たちに追われるように逃げた。


 隊の列は敵の大砲の弾が落ちてくる中を、後ろへ何十キロも下がってゆき、あくる日も移動していった。

 それは街へ移動してからも続き、更に仲間を失いながら後退してゆく。

 途中で装甲車もやられて、僕のいた隊の皆は、後ろから追ってくる敵と戦いながら後退していく。

 毎日、塹壕を掘ったり、待ち伏せして騎兵と戦ったりして何とか生き残る。敵の飛行機から爆弾を落としてきて、辺りには誰もいなくなることもあった。


「いつまで続くんだ・・・こんなこと。」

 やっと追って来なくなったのは、年が明けてからだった。



 春になって空に味方の飛行機が飛んでいると、皆パニックにならずに敵と戦えた。

 後方の補給部隊の護衛が主な任務になった。

 トラックを守っていると、よく民兵と出くわして銃撃戦になって、逃げていく敵の兵士を後ろから追いかける。殲滅しておかないと、また同じ奴と撃ち合いをしなくてはならない。

 補充の隊員が来ると初めて下の階級の者が隊に入ってきた。まだ18歳だと聞いてびっくりした。

 これでも1年は本土で訓練とか建設現場とかやってたらしいから、ずいぶんと若い時から従軍しているんだなと思った。


 夏になると仲間はすっかり減っていて、冬に一度、兵士たちの回復のためにフランスへと移動する事になったらしい。

 また治安維持になるのかと思うと、やっと生き残ったのにも関わらず、また嫌な気持になるのかと憂鬱になる。

 この気持ちは僕が、半分は現代の日本人だからかもしれなかったが、彼の気持ちもあったのはわかった。

 いくらそんな教育を受けようと、目の当たりにすれば違った物になってしまっていた。


 それから、僕は兵役からもうすぐ2年が経つ。

 2年を過ぎてまだここに留まっている事に、エラとの約束を破るような気持になった。

 手紙にあと少しだって・・・そんな事を書いて謝ろう。

 行った先でひどい光景を見たことも、敵を撃った事も書けなかったが、まだ無事で生きていることだけは伝えようと思った。




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