第7話 師団への編入
僕は内地の装甲師団の新兵が集まる導入大隊へ編入された。
兵役が無事に終わるまで戦地への配属がなければいいのが、今は皮肉にも戦いは激しくなっている。
すでに、ここの皆が戦場に赴くのは、時間の問題だろうと言われていた。
しばらくの間は後方で設備の建設や物資の補給で訓練する予定が、すぐにフランスへ送られる。
そこで治安維持をしながら訓練することになったのだ。
配属された街はまだ破壊されていないところだったので、住民の抵抗もないところで駐留していた。
しかし、嫌なものはたくさん見た。
駐留してすぐは街の治安維持というより搾取に近く、しばらくするとユダヤ人の弾圧も見た。
片端から連れていくのは見ていられない。
しばらくすると装甲師団へ編入され、今度こそ戦地へ赴くための部隊へ配属されてしまった。
そしてレニングラードを目指して進む軍と共に地獄を見る事となった。
僕は仲間と装甲車の護衛として、機関銃の銃架を担いで弾を持ち、射撃手の後から続く。
前方には敵がいるが、他にも敵が潜んでいないか索敵してしながら進んでいた。
突然撃たれることもあり、仲間が弾に当たって倒れると、戦車の陰に入って機関銃を据えて撃ってきた方向へ必死で弾をばらまく。
皆の容赦のない射撃に、大抵の敵の兵士は逃げ出していくが、そこへも弾を浴びせて殺してしまう。
そんな殺伐とした空気が当たり前に存在するのに慣れるまでしばらくかかった。
まだ中身は新兵と僕なのだから軟弱なのは許してほしい。
とうとうモスクワへ近づいた時、進軍が止まってしまった。
前方から敵の古い戦車や大砲がたくさん現れて、辺りは地獄になった。仲間の戦車はいくつか燃え上がり、仲間も何人か死んだ。
上官である少尉は勇敢な兵士だったので、前方の敵の歩兵の部隊を側面を突いて片付けようと、少人数で丘の裏から攻撃する作戦を立てた。
「新兵。お前も来い。」とガラの悪い少尉が命令する。
僕は弾を箱にまとめて入れて後ろから続く。
部隊が丘を過ぎた辺りから這って進んだ。
少しして敵の迫撃砲や擲弾兵なんかが行軍するのが見えてきた。
そして岩陰から側面を突くように、銃架を据えて仲間が機関銃で射撃する。
敵はあっという間にバタバタと倒れて全滅していくが、二人が抵抗を見せて物陰から打ってきた。
僕は必死に弾を補給しながら、注意深く前方以外にも撃つべき敵がいないか探していた。
すると、煙でうっすらとしか見えないが、前方の敵のずっと後ろに戦車の砲塔が見えた。
それには上官も気が付いて、退却の命令が出る。
急いで銃架を担いで岩陰から立ち去ろうとしたとき、一瞬、目の前が真っ白になって全身に衝撃を感じた。
何が起きたかわからなかったが、僕は倒れていて、ぼーっとして頭がはっきりしない。
少尉と軍曹が何か叫んでいた。
起き上がろうとした自分の足の上に、仲間が倒れているのに気が付いて、慌てて先に起こしてやる。
機関銃の射撃手である仲間は気を失っていた。
射手の向こうにいた仲間は、足が変な方向に曲がって倒れている。
僕もめまいと耳鳴りがして、脛から下の力が入らず、うまく立ち上がれない。
体中を殴られたみたいにズキズキと痛んで、這って逃げようとすると、別の仲間が2人を助けてくれた。
機関銃と共にずるずると引っ張られて退却していくが、再び爆発が近くに起きてくらくらする。
敵の戦車と兵士の銃の弾の飛んでくる音が近くでする。
さっきのが榴弾なら死んでいたかもしれない。
抵抗していた敵の兵士は、この時とばかりに撃ってきたが、逆に少尉が片付けてしまった。
「急げ!」誰かの声かわからないが、引きずられながらでも足で地面を蹴る。
丘の裏まで逃げた僕たちは、戦車からの砲撃から逃れたが、3人がさっきのところで倒れて動かないのが見える。
彼らの無念は痛いほどわかる。僕は、彼の残してきた家族に、連れて帰れないのを心の中で詫びていた。
帰って気が付いたが、ヘルメットに破片がかすった跡があって、頭皮が少し切れて、中に血が付いていた。
これくらいの傷だったから死なずに済んだが、もし端ではなく真ん中に少しずれていたら、死んでいたかもしれないと思うとゾッとする。
まるで映画の中の光景を見ているようだと思った。
不思議なことに、夢の中であるのに、彼の気持ちや触った感触があって、今もズキズキと痛む。
自由は無いけど、そうでなくても同じだろうと思える状況に、僕は彼の中にいる事への違和感がなかった。
それはどんどん強くなって、夢なのか現実なのかわからなくなってきた。
残り少なくなった師団は別の師団と合流し地獄の中を進んでいく。
敵を撃破してはモスクワへ進む。
毎日が鉄の焼ける煙に包まれた戦場を歩く。ソ連の戦車の残骸を横目に歩くこともあった。
敵とはいえ、残骸に搭乗員がいたことを想像すると悲しい気持ちになる。
索敵の任務では、機関銃を置いて小銃を持って行く。
建物の中にいる狙撃手や大砲に行く手を阻まれて、立ち往生する事なんて珍しくない。
位置を本隊に知らせて、大砲や爆撃の支援で建物ごと破壊して進む。そうした日々は、轟音と共に人を殺していく感覚を薄れさせていった。
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