地獄の戦地へ赴く夢
第6話 訓練兵
少女の夢からすぐに夢の続きを見たようだ。
招集された街の警察署の前に支給されたいっぱいの荷物を詰めてある背嚢を横に置いて立っている。
ここに集められた人たちと、訓練所まで移動するために、皆と並んでトラックを待っているのだった。
厳しい訓練所へ行くという緊張が、皆から伝わってくる。
街での兵役のための適正検査を受けていた時に思ったのが、集められた人たちの何人かは招集されずに済む様な、適合していないであろう人も混ざっていたことだった。
やっぱり、集められた人は体格は良い方の人が多かったし、中には兵隊の経験もありそうな人もいた。
僕は身長は大きい方では無かったし痩せてはいたから、訓練所ではいっそう鍛えられるだろうと厳しく言われた。
、体力は無い方では無いし、器用なほうだと思う。故郷の町の同じ年の悪ガキ共と比べるとバカではないと思っている。
輸送とか大砲とかの部隊に配属が当たればいいと思っていた。
簡単に言うと、最前線で小銃を担いで突撃する兵隊でない事を祈っていた。
そんなことは甘いと後でわかるのだが。
トラックに乗り込んでしばらくすると、自分は後備役なのだという人が話し始めた。
前の大戦では何とか生きて帰ったがまた呼び出されたと、英雄のように自慢している。後備役として呼び出されたから、今度は後方の補給部隊にでも行く可能性もあるというのだ。
そんなことがあるのかと思ったが、編入の事はよくわからない。その男も、浅い夢で終わるのではないかと思う。
何時間も揺られて着いた先で、上官らしき者の命令で慌ててトラックから降りて並ぶ。
これからこの上官にしごかれて鍛えられるのかと思うと憂鬱になるが、しばらくの辛抱だと自分に言い聞かせるしかない。
ここのキャンプでは、体力や精神を鍛えるための訓練の他に、年齢の若いものは専門分野の勉強もさせられる。
8ヶ月の訓練は思った以上に厳しく、体力のない者や勉強の苦手な者にはつらい場所だ。
特にみんなと同じ様な勉強だったが、僕にとってはそれほど難しくもない。現代の中学生の勉強より簡単だったし、同じ部屋の奴にも教えてやった。
つらいのは厳しい上官と一日中、監視されているような生活をしなくてはならず窮屈なこと、訓練で穴掘りばっかりさせられる事。
それから現実の僕には、そういう体育会系の人たちが苦手だった。
訓練兵の中には逃げ出そうとする者がいて、捕まって懲罰を受けている者がいる。彼らにとっては耐え難いものだったのだろうが、もう少し我慢すれば済むのにと思う。
兵役を逃れても帰る所も無ければ肩身の狭い生活をしなければならず、結局のところ、つらい思いをするのは同じだと思う。
兵役が嫌だった僕でさえそう思う。
逃げ出そうとした彼らの中に何が理由なのか聞いてみたが、自由とか戦争への不満は理解できても、僕の中の兵役に対する気持ちはどちらへも動かなかった。
愛国としての気持ちも全く無いではないが、誰が間違ってて、誰が正しいのかも良くわからない。
ただ生きて帰りたい。それだけだった。
仲良くなった同じ部屋の人達と短い自由時間を談笑していると、いつも故郷の女の話や編入先で女を引っかける話になる。
僕もエラの話をした時は、遅れてるとバカにされてしまうかと思ったが、逆に励まされてしまった。
なんか悔しいが、話してしまった後だからどうしようもない。
訓練の最後の方になると、僕には装甲歩兵師団の装甲車や機関銃の操作、基礎学力の勉強が課程にプラスされた。
どうやら、配属直後はどこかの装甲車や歩兵の機関銃の操者として編入されるみたいだ。
そんな生活は訓練が厳しくなるばかりで慣れはしなかったが、編入が決まると急に上官が優しくなり、仲間は涙を流して自身の配属先へと巣立っていく。
しかし、この頃までは僕の意思と行動が一致していたけれど、だんだんと彼の意志が強くなるように、僕は見ているだけになっていく。
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