少女の夢

第4話 少年と僕



 文化の違う世界での体験は、一種の旅行に近い感覚だったと思う。必ずしも、良い旅ではあるとは言い切れないのが残念だけど。


 夜は相変わらず僕の味方ではなく、怖い夢が多かったけど、この夢を見ると怖い場面にはならなくて、目覚めが良かった。

 僕は夢の中で厳しい事を体験したけど、この夢が嫌ではなかった。むしろ、見れてよかったと思う。



 冬の夜から、ある少女と淡い恋をする夢を見始めた。

 顔はぼんやりしててそれが奇妙だったけど、きっと、どこにでもいる普通の少女だったと思う。

 夢から覚めて特徴を思い出してみると、明るい金髪でくるくるの短い髪をしていて華奢な子だった。


 小さな町の建物の並んだ裏通りを歩いている僕に、人が行き交う中を少女は無表情で僕と並んで歩いている。

 僕はなぜここを歩いているのかが不思議だったが、どうしても町の外まで行かなくてはならなくて、少し距離のある道のりを歩いている。

 少女も行く先はわからないが、同じ方向のようだ。


 最初はわからなかったけど、少女の年齢とか歩幅からして平行に歩くのは僕が合わせているのか、あちらが早歩きなのか、同じなのはおかしかった。

 そう思った瞬間から歩く速さが違ってきた。

 背は僕の肩よりも小さい。その分、歩く速さが遅くなったようだ。

 どんどん差が開いてくると、いつの間にか違う道へ行ってしまったのか、距離が空きすぎて人の中に隠れたのか見えなくなった。



 その時になって、これは夢なんだと気が付く。

 おかしな夢を見るときには、最初はこういうぼんやりしてて現実味がない感覚から始まって、だんだんとリアルになっていく。


 この夢の場合は、少年の夢で。

 で、さっきの少女がこの少年の好きな子なんだ。


 まだはっきりと感覚が合わない部分は多いけど、その内に合ってきて、この隣で歩いているおじさんの顔もわかるようになるんだろうな。

 でも、少女の顔は見てみたかった。


 ちょっと離れるのを残念に思いながら町の外れまで行くと、目的地であった教会のような建物の中に入り、後ろの方の席に座る。

 どうやらミサのようだ。早くから来て並んで座る人たちは皆、隣合わせた人たちと談笑していたり、まじめな町の発展について熱く話し合ったりしているのが聞こえてくる。

 もちろん皆、西洋人らしい顔つきで黒髪や黒い瞳の東洋人らしい人はいなかった。

 僕には言葉はわからないけど、そういうことを話しているのだと思うのは、僕がこの少年の中にいるからだろう。

 だけど、不思議と不安とかそういうのは無くて、そこの牧師か誰かの説教を待っている。


 早く終わればいいのに。

 そういう僕がいたのは、僕が興味がない人になっているのだろうと思った。

 それまでも、こういう夢の中で僕が違う人になっていると、その人のいつも思っている事がそのままになっていたのだ。

 この日もそういうことなのだと冷静な僕だった。


 僕がミサに興味がないのは理由があって、早く友達の家と手伝いとして雇われてる店に早く行きたいからだ。

 牧師の話がつまらないとかそういうのじゃないけど、どうしても時間がもったいなく感じて、早く出たいと思ってしまう。


 牧師が檀上に立ち説教が始まると、さっきの少女が遅れて入ってきて、隣の長椅子に大人たちと座る。

 それを僕は横に座れなくて残念だと思った。

 ミサはつまらないけど、少女の事が気になってそれほど長くは感じられずに終わると話しかける。

「これからおじさんちに行くんだろ、一緒に行こうぜ。」

「いくよ。あの子たちに見つかるとまたいじめられちゃう。」

「あいつらか。そうだな。じゃあ、みんなと顔を合わさないうちに早く出て行こう。見つからなきゃ大丈夫。」

 と先にいく様促して、大人たちの間を抜けて扉の外へ出る。

 出ると、走って教会の壁沿いに目立たないようにおじさんの家へ走る。


「息が切れるね。ゆっくりいこう。」

 ここまで来れば、流石に追ってまでは来ないだろう距離にな。と歩き出す。

 少女は子供たちの中では小さいほうなのでいじめられたりもする。教会の帰りなどは、みんな集まるのでよくあることだった。

 僕は自分がほかの子たちのように少女に意地悪をしないのは、知り合いのところの子だとかそういう理由でない事がわかる。

 夢の中ではそういう気持ちになったことは初めてだけど、学校では好きな子もいる。

 でも、この子の場合はまだ幼いし、そういうものかもしれない。


 おじさんの家に着いた僕は、裏の馬小屋へ行き世話をした後、鍛冶場の掃除して炭を細かく切る。

 いつもの作業なので、いつものようにやっておけば怒られることもない。

 仕事はたくさんあるけど、これでお駄賃がもらえるなら簡単なものだ。


 おじさんのところへ行くと僕のことは「アベル」と呼んだ。用事を聞いてから、今度は薪を割る。

 どうやら親がここの家とは行き来があるらしい。気やすい関係ではあるもののおじさんは気難しい人なので、なかなか手伝いを雇うのは難しいらしく、こうやって僕が手伝うのは助かるらしいのだ。

 少女はここの子だった。

 そうした関係上、身内に近い他人の関係はいつしか兄妹のようになっていく。

 それが少女がいじめられる理由になっているところもあったのだが。

 いつもいじめてくる子達は決まっている。

 決まって少女の事をチビとか弱虫とかそんないじめ方だが、お前が強いなら、おじさんをいじめてみろ!って、そう思うと余裕が出来て笑ってしまう。

 それを話すと、少女も笑った。

 実際には大変なことになるだろうけれど。




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