第11話 遊び人、口説かれる
「賢者?まさかぁ~。エレナさん、俺をからかっているでしょ。俺は『遊び人』だよ。ほら、ステータスだって……」
そういいながら、ヴァルスは「ステータス」と唱え、透明の青いパネルが浮かび上がらせた。
ヴァルス・ナバール 【人族:18才】
職業 賢者
Lv 1
体力 89/89
魔力 5/5
力 14
早さ 22
賢さ 40
運 100
攻撃力 47
守備力 28
装備 氷雪剣 貴族の服
魔法 火魔法:LV1 水魔法:LV1 風魔法:LV1
「えっ?あれ?」
「どうやら理解したようだね。ついでにいうとね、あんたが昨日倒れたのは、魔力の枯渇が原因さ……」
エレナはそう言って、マグカップを手に取り、優雅に口をつけた。
しかし、ヴァルスは狼狽していた。
「お、お、おれの……運が……半分に……。運の良さだけが生命線だったのに……。もう、カジノで遊べないんだ。どうしよう……これから……何を楽しみに生きていけば……」
(この子、おもしろいな)
エレナは、賢者になって喜ぶよりもカジノ遊びができなくなることを嘆くヴァルスに好感を持った。
(あの人もこうだったらよかったのに……)
窓の外に視線を向け、誰かを思い出しながら、またマグカップに口をつけた。
一方、リリーはそれどころではなかった。
さっきからマグカップに口をつけるエレナの唇を見るたびに体温が上がり、心がざわついた。
(キスした……キスした……キスした……)
自分の目の前でエレナはヴァルスにキスをした。
知識としては理解している。あれは魔力回復薬を口移しで飲ましただけだろうし、あの場では仕方なかったことも。
でも、何だかとっても許せなかった。
「…………」
「リリーちゃん?ホントにどうしたの?」
まあ、なってしまったのはしょうがないと、落ち着きを取り戻したヴァルスにリリーは声を掛けられた。何か返事しなくては、と思い口を開こうとしたが……
「なんでもない!」
ヴァルスの唇を見た瞬間にカッとしてしまい、リリーは当たるかのように強く反応してしまった。
(これは、何かやらかしたな……)
ヴァルスは本能的に悟った。だが、だからこそ、それ以上踏み込んでしまってはいけない。
気にはなるが、そんな気がした。
「さて……ここからが本題なんだけどね」
エレナは不機嫌さを隠そうとしないリリーに目をくれようともせず、真剣な表情でヴァルスに向き合った。
「あんたは、賢者の卵だ……。それを前提としての話何だけどね」
「はい……」
ヴァルスは、緊張のあまり目の前のマグカップを手に取り、口をつけた。
エレナは、にっこり笑みを浮かべ……
「……あんた、わたしのものにならない?」
……と、爆弾級の発言をした。
ヴァルスだけでなく、リリーまでも口に含んだ紅茶を盛大に噴出した。
「この色情魔!不潔です!キ、キ、キ、キスだけじゃ飽き足らず……ふ、ふしだらな!」
リリーはガタリと立ち上がって、エレナを罵った。
幸いにも『キス』の部分はヴァルスには聞こえなかった。
「あらあら、おチビさん。妬いてるのかい?」
しかし、エレナは大人の貫録を見せつけ、相手にしていない。
そして、腕組みをして、大きな胸を強調した。
「妬いてなんかないもん!そ、そ、それに……私にだって……変身したら……負けてないもん」
圧倒的な戦力差を見せつけられ、最後の方は勢いを失ったかのように小声となったが、リリーはそれでも精いっぱい感情的に反論した。
エレナは、盛大に笑い出した。
「ハハハ……やだやだ、冗談よ、冗談。……まあ、ヴァルス君が欲しいのは事実だけど、勘違いしないで。私が言いたいのは、私の研究のために手足となって働いてくれない?という意味よ」
「研究への協力?」
信じられないと不信感満開な表情でエレナを睨みつけるリリーを余所に、ヴァルスはエレナの言葉に反応した。
「そうよ。私は魔法薬を研究しているんだけどね。何かと優秀な冒険者じゃないと入手できない素材もあるのよ。この村、田舎でしょ?人が足りないのよ」
「つまり、俺がエレナさんの求めるその素材を取りに行くっていうこと?」
ヴァルスは、エレナの真意を理解した。
エレナは、ヴァルスの目を見つめて、
「あんたが賢者なら、楽勝だろ?」
……と、唇をそり返すようにニッと笑った。
そして、一瞬、視線をリリーに向けると、テーブルの上においてあった『悟りの書』に右手を添えた。
「報酬は、この『悟りの書』をこの家で読む権利だ。
レベルが上がれば、今は白紙のページだけど……そこに記されているはずの魔法を覚えることができるはず。
あんたは強くなり力を手に入れる。私は研究で成果を上げ、お金持ちになれる。
どうだい?ウィンウィンの関係じゃないかい?
それに、協力したいんだろ?リリーちゃんの願いに」
かなわないな……と、ヴァルスは頭をポリポリかいた。
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