第10話 遊び人、初めて魔法を使う
「……こう右手を的に向けて、【ファイア・ボール】」
エレナの右手から火の玉が勢いよく飛び出して、20m先の的に当たった。
ここはエレナの家から徒歩3分の場所にあるヘブラ村の外れにある自警団の訓練場所。
ヴァルスに魔法の練習をさせるために、エレナは問答無用でヴァルスをこの場所に連れてきた。
「さあ、ヴァルス君もやってみて」
「……」
「さあ!早く!」
「……ええと、【ファイア・ボール】?」
ボン!
火の玉がヴァルスの手から飛び出した。
だが、火は今にも消えそうなくらい小さく、ゆらゆらと揺れながら進んでいき、的の遥か手前で消えた。
ヴァルスは、初めて魔法を使えたことに感動を覚えるも、やっぱりうまくいかないなぁと思った。
しかし、エレナの見方は違っていた。
(うそ?本読んだだけなのに、いきなり発動するの?)
エレナが祖母から初めて魔法を教わったとき、発動するまで1か月以上はかかったのだ。それなのに……。
エレナはヴァルスの才能に感嘆した。
「エレナさん?」
「え?ああ、そうさね。そんな感じでもうちょっと続けよっか」
ヴァルスはエレナの指示に従い、再び右手の掌を的に向けてかざした。
「【ファイア・ボール】!」
先程よりはるかに強い火の玉が一直線で的に向かって進んだ。
「やった!」
火の玉は的の中央に当たり、炎を上げた。
ヴァルスは喜んだ。
「同じ要領で、次はウォーター・ショットを的にぶつけな」
「ああ、わかった。【ウォーター・ショット】!」
ヴァルスの右掌から今度は勢いよく水が的に向かって発射され、燃え盛る炎を瞬時に消火した。
その結果を見て、エレナは確信した。
(この子はまさしく『賢者』だ)
「ヴァルスさん!大丈夫ですか!しっかりして!」
的に視線を向けていたエレナの耳に、背後で少し離れて様子を見ていたはずのリリーの尋常ではない叫びが響いた。
振り返ると、ヴァルスは地面にうつ伏せになって倒れていた。
エレナは慌てて駆け寄った。そして、同じく駆け寄ってきたリリーを制してヴァルスの首筋に手を当てる。
(……脈はある)
次に、額に手を当てる。
尋常でない熱を発していることが分かった。
(もしや……)
「リリーちゃん、そこのベンチに置いている私のカバンを持ってきて」
「えっ?」
しかし、状況が呑み込めないリリーは、躊躇した。
「急いで!」
「あっ……はい!」
リリーは慌てて駆け出し、ベンチに置いてあったカバンを掴み、駆け戻った。
エレナはリリーからカバンを受け取ると、赤色の液体が入ったガラスの小瓶を一つ、取り出した。
そして、栓を開けて一気に口に含むと……
「……んっ……」
自らの唇をヴァルスの唇に当てて、口に含んだ液体を流し込んだ。
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