第6話 遊び人、平手打ちされる
「へぇ……、じゃあ、リリーちゃんはその魔女さんに教えを乞うためにマジャラスカ地方からここまで来たんだ」
「はい。私はもっと強くならなくちゃいけないので」
魔族の少女はリリーと名乗った。何でも、ヘブラ村の魔女シンディに教えを乞い、魔法剣士としてもっと強くなりたいという。
魔女シンディ。ヴァルスも名前だけなら知っている。
人でありながら、先代魔王の友。30年前の人魔和平協定成立の立役者の一人。確かに彼女なら魔族であっても差別はしないだろう。聞けば、リリーの母親も昔教えを受けたそうだ。
しかし、リリーはシンディから魔法を学んだとして何に使うのだろうか?
きっと、復讐とかろくでもないことだろうな、ヴァルスはそう直感した。
「ヴァルスさん?」
「あ……いや、なんでもない」
だが、それを口にしてもリリーは反発するだけだろう。
ヴァルスはそれ以上尋ねることもなく、話題を転換させた。
森を抜けてから3時間。陽は1日の中で最も高い場所に近づきつつあるころ、ヴァルスとリリーはヘブラの村が見えるところまでやってきた。
ちなみにリリーは再び人の姿に変化している。但し、以前のように背伸びした年齢に化けず、実年齢に合わせて変化している。
単純に魔力が足りず、角などの魔族の特徴を隠すので精一杯だったからなのだが、それを見たヴァルスはがっかりしたようなホッとしたような複雑そうな表情をしていた。
そんなヴァルスが可笑しく、リリーは少しかわいいとも思った。
それからヴァルスはいろんな話をしてくれた。
公爵家の子だったこと、勇者パーティーの一員だったこと、そして、それらの思い出話など……。
聞けば、公爵家からも勇者パーティーからも一方的に放り出されたという。
しかし、ヴァルスは一切恨み言を言わなかった。
これからのことも何にも考えていないという。
でも、自暴自棄になったのではなく、なるようにしかならないと前向きだった。
家を失い、ここまで逃れてくる中、数えきれないほどの恨み言を吐き、時には後悔したリリーにとって、ヴァルスの姿はまぶしく映った。
(……それに、命の恩人だし)
魔王から直々に自分を殺すように言われて追ってきた四天王の一人・カズマに捕捉され、あと一歩で殺されるというところを救ってくれた。
意識が薄れていく中でリリーはしっかりヴァルスの姿を見た。剣を抜き、勇敢に駆けだした姿だ。
(かっこ、よかったな……)
気が付いた後、人族と知って恐怖を抱いたが、冷静になった今、あの時のヴァルスの姿を思い出すたびにリリーの胸はキュンと高鳴る。……転んだところまで見ていたら、また別の想いが浮かんだかもしれないが。
「ちなみに、その魔女さんには美人な娘さんとかお孫さんとかいないかなぁ?」
……そんなことを考えていたリリーは、その一言で意識を引き戻された。
「え?いや、確か一人暮らしと聞いた覚えが……」
ムカっと胸の奥で何かが沸いたような気がしたが、リリーは素直に答えた。
「……そう。そうだよな。こんな辺鄙な村に、美人さんがいるわけないよな」
急にやる気を失ったようにがっかりするヴァルス。
「ヴァルスさん?」
リリーは能面のような冷たい微笑を浮かべて、ヴァルスに問いかける。
やばい、とヴァルスの本能が警告を鳴らす。だから、ヴァルスは弁明の言葉を脳内から選択した。
「……え?……リリーちゃん、誤解だぞ。俺は大人の美人さんが好きであって……リリーちゃんのようなお子様体型の子には……へぶらっ!」
リリーの平手打ちがさく裂し、ヴァルスは言葉選びに失敗したことを悟った。
「お子様体型ってなによ!私だってこれからだもん!ヴァルスさんなんか知らない。フンっだ!」
「待って……リリーちゃん。ごめんだって。だから置いてかないで」
先を行くリリーの後をヴァルスは叩かれた左頬をさすりながら追いかけた。
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