第5話 遊び人、ロリを疑われる
「う、う~ん……」
「起きたか」
傷だらけの少女は目を覚ました。聞き覚えのない声……。自分は一体……。
混雑した記憶の整理がつかないまま、少女は声が聞こえた方へ目線を動かす。
そこには、人族の青年が座っていた。
「ひ、人族!」
少女は勢いよく起き上がり、両腕で胸を隠すようにしながら後ずさりした。目の前の青年が驚きの表情を浮かべた。
(ま、待って。変化の呪文を唱えているから大丈夫。落ち着け、わたし……)
そう思いながら呼吸を整えようとしたが、腕で隠そうとした場所に、変化した時には確かにあった大きな胸がなかったことで、少女は変化が解けているという事実に気づいた。
少女はこれから自分の身に起こることを想像して青ざめた。
「おい、俺はスケベだが、ロリじゃない。だから変なことはしていないぞ」
(やっぱり、年は10歳から12歳くらいか。う~ん……だまされた……)
一方、そんな少女の思いに気づかず、少女が必死に隠そうとしている平面に近い胸を見てヴァルスはそう判定した。
ヴァルスに幼女趣味はない。だから、無防備に寝ている少女に不埒な真似は行っていない。
これが、もう少し上の女の子なら、介抱のどさくさに紛れて胸やお尻を多少は触ったかもしれないが……。
だから、やましいことをしていないにもかかわらず真っ青な表情を浮かべる少女に困惑した。
一方、少女は絶望していた。
(きっと慰み者にされて、奴隷として売られる……)
幼き頃より、人族には注意するように母から言われていた。
人族は欲望に忠実で、捕まったら何をされるかわからない。まして、女なら……。
だから、人族の勢力圏に入るとき、変化の呪文を唱えた。少し、年上に変化したのは……ただの背伸びだったが。
(手は縛られていない。逃げようか?いや……)
しかし、目の前にいるのは魔王四天王の一人・カズマを一撃で倒した猛者だ。まして、今の自分に体力、魔力は残されていない。縛られていないのは、逃げても捕まえる自信があるからだ。とてもじゃないが、逃げ切れるとは思えなかった。
少女は自らの運命を悟った。
「……っ……!」
少女の瞳から大粒の涙があふれ、頬を伝う。
「ま、まって。君は何か勘違いしている。俺は……」
ヴァルスは慌ててポケットからハンカチを探し、少女に差し出した。
しかし、少女の嗚咽は止まらない。
(上着をかけたのがいけなかったのか?そういえば、衣服が少しはだけていたような……)
幼女に手を出したら犯罪である。ヴァルスは必死に弁明を試みた。
……幼女じゃなくても、痴漢は犯罪なのだが。
「だーかーら、俺はロリじゃないから。君と少し話したいだけだからー。だから泣くのはやめて~」
「ホント?ホントにエッチなことしない?私を奴隷にしない?」
「そんなことしない。絶対にしない。約束する。だから、泣かないで~」
ヴァルスは必死に少女を宥める。しかし、中々泣き止まない。そんなやり取りがしばらく続いた。
「……で、お話ってなに?」
ヴァルスのロリ疑惑が晴れたのかわからないが、少女はようやく泣き止んだ。
「いや、大した話じゃないんだ、ぜんぜん。」
ホッと胸をなでおろしたヴァルスであったが、こんな小さな女の子に自分の悩みを打ち明けることを少しためらった。しかし、背に腹は代えられない。
「実は迷っちゃってさぁ。ここ、どこだかわかる?」
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