第4話 遊び人、少女を観察する

(そんなことよりも……)


 ヴァルスは倒れている女の子の下に駆け寄った。

 女の子はうつ伏せに倒れており、少しも動かない。


(死んだの……かな……)


 ヴァルスはひざを折り、生きているかを確認するため女の子の首筋に手を当てようとした。

 すると、女の子は光に包まれた。


(……なんだ?)


 ヴァルスは右腕で目を隠した。光はすぐに収まり、女の子は消えた……ということもなく、うつ伏せのままそこにいた。


 しかし、何だか体が少し小さくなったようだった。それに、見ると左右の耳の上に丸みを帯びた小さな角が生えている。……女の子も魔族であった。


(変化の魔法か!)


 以前、カタリナに「お仕置き」と言われて、【女体化】させられたことをヴァルスは思い出した。


 「痴漢される身になれば悔い改めるかも」とカタリナは言っていたが、結構な美人に変化し、ジョゼが鼻の下を伸ばしてアリスにしばかれていたため、カタリナは「残念」と言って短時間で解除した。


 そういえば、解除したとき光に包まれた気がした。

 目の前の少女はやはり変化の魔法を使っていたのだろうとヴァルスは断じた。


(おっと……そんなことよりも)


 目の前で起きた現象に思考を余所に飛ばしてしまったヴァルスは、再び少女の安否を確認するために首筋に手を当てた。


(脈は……感じる!)


 ヴァルスは魔族の生態に詳しいわけではなかったが、死んではいないと判断し、剣の柄にお守り代わりに入れていたハイポーションを飲ませた。

 魔族も回復薬としてポーションを使用していることは、昔、家庭教師のクリスから聞いたことがある。おしりを触りすぎて泣かれて辞められたけど……。


 そして、仰向けに寝かせると、上着を脱ぎ、少女の上半身にかけた。


 しばらくすると、少女の顔に少しずつ血色が戻り始めた。


 ヴァルスはホッと安堵の表情をうかべると、燃え盛る炎の傍に胡坐をかいて座った。

 ……ちなみに、この炎は魔族の死体が燃え続けているものだったが、なぜか変なにおいもしなかったので、ヴァルスは気にしなかった。


(そういえば、さっきレベルが上がったな)


 少女が目を覚ますまですることがなくなったヴァルスは、急にそのことが気になった。

「ステータス」


 ヴォン、という音がしてヴァルスの目の前に半透明の青いパネルが浮かび上がった。


 ヴァルス・ナバール 【人族:18才】

 職業 遊び人

 Lv  23

 体力  159/179

 魔力 0/0


 力    27

 早さ   44

 賢さ 23

 運 200

 攻撃力 60

 守備力 50

 装備  氷雪剣 貴族の服


 昨日まで19だったレベルが4つも上がっていた。

 それだけ、相手は強力な魔族だったのだ。


 ヴァルスは心の中で首を傾げた。


(なぜ、そんな高位の魔族がこんなところにいるんだ?)


 ここドラグロア近郊は、最も近い魔族の勢力圏からはかなり遠い場所である。魔族がいること自体も珍しいのに、それが高位となると……。


(何かわけありか……だが……)


 ヴァルスは眠る少女を見つめる。思わずため息がこぼれた。


(年は10歳から12歳くらいか。背伸びした姿に変化していたのか……。う~ん……だまされた……)


 魔族と戦っている姿は17、8くらいの人族に見えたのだが……気を失った拍子でどうやら変化の呪文は解けたらしい。今は幼い顔つきの少女がそこにいた。

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