第3話 遊び人、遭遇する

「あああ!腹減った!」


 ドラグロアから西へ10kmの地点に広がるダモクレアの森。

 その森の中で、ヴァルスは腹を空かせていた。

「俺の馬鹿!馬鹿!馬鹿!何で食べ物買うのを忘れたんだ。エロ本じゃ性欲は満たされても腹は膨れないのに」


 今更である。


「しかも、ここはどこだ?町に戻ろうとも出口は見つからないし」


 もうかれこれ5時間はさまよっている。

 ちなみに、このダモクレアの森は迷いの森ではない。地図さえ持っていれば、今頃森を抜け、隣接するヘブラの村に到着していたはずである。


「ああ、もういい!疲れた!ここで寝よう!」


 少し開けた場所を見つけたヴァルスは、大の字になって寝ころんだ。そして、空に広がるきれいな夜空を見て感動……することもなく、わずか30秒でイビキをかき始めた。


(……んっ?……)


 ヴァルスは何か違和感を覚えて目を覚ました。

 どれくらい寝たのだろうか。感覚で言えば、1時間程度であろうか。夜はまだ明けていない。

 周囲を見渡したが、特に寝る前と変わらない風景がそこに広がっていた。耳に入るのも風で枝葉がやや揺れる音くらいで、特段変わった様子もない。


 しかし、違和感は収まらない。


ヴァルスは魔法かばんを拾い上げると、自分の直感を信じて歩を進めた。


 しばらくすると、森の木がへし折られているような大きな音が聞こえた。

 魔法かばんから双眼鏡を取り出し、音のした方向を覗くと、一人の魔族がそこにはいた。そして、その先には膝をつくボロボロの女の子がいた。


 しかし、女の子はかわいかった。



「おい、お前何をしている!」


 ヴァルスは何も考えずに叫んでしまった。

 ……と同時に後悔もした。自分が魔族相手に勝てるとは考えられなかったからだ。

 だが、こうなっては仕方ない。ヴァルスは氷雪剣を抜き、前に向かって駆けだした。

 

……しかし、木の根っこにつまづきバランスを崩して転倒した。


 魔族は、ヴァルスに光線を放った。……が、運のいいことにヴァルスは転倒したことによって攻撃を回避した。しかも、躓いた際に手に持っていた氷雪剣はヴァルスの手を離れ、一直線に、そして勢いよく魔族に向かった。


「ぐふっ……」


 氷雪剣は魔族の喉に突き刺さった。そして、同時に剣が持つ本来の能力が発揮し、魔族を一瞬で凍結させた。


「いたたたたた……」


 強く打った膝を抑えながら、ヴァルスが起き上がった。

状況が呑み込めない。勝てる相手ではない魔族が氷漬けになっているのだ。


「えっと、大丈夫、かな?」


 ヴァルスは慎重に近づき、しばらく様子を見た。


 つん、つん、と触ってみたが、動く気配は感じなかった。


 ヴァルスは突き刺さったままの氷雪剣の柄を握ると、一気に抜いた。

 すると、氷漬けされた魔族は崩れ落ち、なぜだか燃えた。


 タラン、タッタッターン


 脳の中にレベルアップを告げる音が鳴り響いた。

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