参道手前の交差点

きくらげ

第1話

その日は家を出るのが、いつもより1分遅かった。

自転車で駅まで行って、そこから電車に乗って高校へ行く。田舎なので、朝でも電車の本数が多いわけじゃない。

いつもの電車に乗り遅れたら、追加料金を払って特急で追いかけるか、完全に遅刻になるが大人しく次の便に乗るかだ。

家から駅までの、真ん中あたりに大きい交差点がある。右に曲がれば、地元で1番大きな神社へ続く参道だ。

この参道手前の交差点、大きいだけに1度赤になると、かなり時間をとられる。だから、僕は悪い事だと分かっていながら、時々、信号無視をしていた。もちろん、自分なりに左右の確認はして。

同じ電車を利用している学生は大勢いたので、駅に着く前に一緒になる同級生もいる。Iさんは同じ中学校だった同級生の女子で、よくこの交差点で一緒になっていた。そして、僕と同じように時々、信号無視をしていた。

その日、交差点に差し掛かる前の脇道からIさんが出てきて、僕の自転車に重なるぐらい、少しだけ後ろを走っていた。同級生だが、わざわざ声をかける程、親しいわけではない。目が合えば挨拶ぐらいはする、その程度の仲だ。

今日は、いつもより1分遅い。だけど、電車には間に合うだろう。あの交差点が見えている。横断歩道の青信号が点滅している。間もなく赤に変わる。

良いタイミングで赤に変わった信号に、舌打ちをして僕は止まった。


Iさんは止まらなかった。


分かりきったことだが、進行方向の信号は赤で、左右からは車がきていた。右から来た車にIさんはぶつかって、自転車ごと倒れた。

ドラマで見るような綺麗な事故だった。

その現場を避けて、青になった交差点を僕は渡った。

振り返ると、フラフラと起き上がる姿が見えたので、命に別状はないのだろう。神社に近いだけに、神の御加護でもあったのだろうか。


僕の読み通り、信号をきちんと守っても電車には間に合った。途中の駅から付き合っている彼女が乗り込んでくるので、乗っている車両をラインしておく。

「今日、時間やばかったから、親に車で送ってもらったら、途中でIが事故ってるの見かけたわ。」

彼は、付き合いの長い僕の友人で、高校は違うが二駅ほど同じ電車に乗っている。

「お前も駅の手前で見かけたけど、今日は大丈夫だったの?ほとんど毎日、待ち伏せされてんじゃん。」

「交差点で一緒になったけど、Iさんが信号無視して事故っちゃったんだよ。びっくりしたけど立ち上がってたから、大丈夫かなっと思って、僕はそのまま駅に来たよ。」

一緒に通学してる訳ではないし、事故った時の面倒まで見なくていいだろう。

「いいんじゃね?あいつ、お前の彼女の悪口とか酷いもんな。」


信号無視で電車に間に合った時にだけIさんに

「お互い間に合って良かったね」

等と、駅の改札口で声をかけていた。彼女と話すのはそれぐらいだ。

あとは、信号無視をする前に舌打ちする癖も今日で止めだ。本当に癖になったら困る。けれど、Iさんは立ち上がっていたから、次の手を考えなければいけない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

参道手前の交差点 きくらげ @momo-aya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ