53「反撃の学院」

 シルヴェリオは慌てた様子で前に出る。人垣も慌てて割れた。張本人が突然に現われたのだ。

「ガストーネ。これは困る。約束違反ではないか」

「いえね。発端は【ラヴキュア】がらみの批判でしょ? だったらコレを公開すれば万事解決だってね。皆で相談したのですよ」

「私のためだとは理解するが――」

 シルヴェリオは後ろを振り返った。【貴公子親衛隊】は十歩ほど下がって頭も下げていた。恐縮しきりだ。

 オリヴィエラと絵画サークルメンバーもやって来た。問題の絵画に見入る。

「おかしな奴らも消えましたよ。今度また来たら、また僕らがカウンターを仕掛けてやります」

「絵画サークルもやろう。こんなに素晴らしい絵が蔑視だなんて、言いがかりにもほどがある」

「そうよ。私たちの学院を守りましょう」

「「「そうだっ!」」」

 ガストーネの提案に絵画サークルも乗り、異種サークルの間にも不思議な一体感が産まれた。絵画と魔導具はこの世界を動かしている両輪だ。

 一方シルヴェリオとしては自身低評価の絵が、他人高評価なので少々複雑な心境だった。

(鑑賞するのは私ではないのなら、これは仕方なしとするか)

「やれやれ。仕方ないわねえ」

「巻き込んでしまったな。申し訳ない」

「貸しにしておくわ」

 オリヴィエラもこれで騒動が収まるのなら良かったと思っていた。もう一方の当事者となった令嬢が、おずおずと前に出て来る。

「生徒会にはご迷惑をかけてしまいました。調査委員会には出席させて頂きますので、どうぞお手柔らかに」

 立ち上がる委員会は便宜上生徒会が主体となり、座長は生徒会長のジョルダーノ・ロレーナ嬢が務める。

「こちらこそご迷惑をおかけしました。委員会はもちろん公平公正に行いますので。今後このようなことが続けば、生徒会としても毅然と対応いたします」

「ほう……」

「理事会に働きかけている貴族の影がありますわ。委員会でどこまで判別するのか……」

「ヤツらが引くなら深追いはしない方が良い。学院は政争の場にはふさわしくはないので」

「心得ておりますわ」

 ジョルダーノ家とて百戦錬磨の有力貴族だ。当然心得ている。

「ところでこの絵ですが、色々と事情があり描きました。この三人を特別視したわけではありませんので」

「そのあたりの事情・・も色々とお伺いしたいわ。調査委員会は公平公正・・・・ですので」

 女帝ロレーナはニッコリと微笑む。その後ろで、親衛隊の女子たちもニッコリと微笑む。シルヴェリオは絶対に敵に回してはいけない相手を理解した。

「この絵はしばらく魔導具研究会前の廊下に展示しますよ。もっと周知したいから」

「どうぞ。そこは生徒会の管轄外ですから、校則に違反しないのならご自由に。ああ、この大きな掲示板は無許可なのですよ。早くバラバラにして綺麗サッパリ撤去したいですわ」

 ロレーナは再びニッコリと微笑む。味方にするならば、心強い笑いだ。

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