39「噂の男」
下校時間は女子トークの時間でもある。互いに情報を交換し、意見も交換するのだ。
「このあいだのダンジョン。ちょっと反省だわ。次は足手まといにならないようにするから」
「ただの交流会なのだし、気にしないでね」
グランドーニ・コンチェッタはフランチェスカを誘った張本人だ。落ち込みを表情に出さない、彼女の負けん気もよく知っている。
「もしかして訓練しているの?」
「メイドに心得があって、初心者コースでね」
「ダンジョンかあ……」
メルクリオ・プリシッラは戦いとは無縁だが、少し考えるような表情になる。今度はフランチェスカが気を回した。
「私が守るから見学に来たら? まるで小説の世界よ」
「大きく出たわね。男子たちが張り切って騎士の真似をするわよ。女子は俺たちが守る! って」
コンチェッタはクレートの声色を真似し、三人は笑った。
「心配する人はやっぱりいるわ。誰か強い人が一緒に来てくれればねえ……」
「護衛の冒険者を雇うのは?」
「男子たちのプライドが許さないのよ。困った人たちねえ」
フランチェスカが加入する以前に、そのような話し合いがあった。メンバーの募集が振るわないのは、やはり危険な場所との認識があるからだ。
「ダンジョンの見学会ならどうかしら?」
「うん、話してみるかあ」
「見学だけしたい生徒はいっぱいいると思う」
フランチェスカの提案に、コンチェッタもプリシッラも乗った。
「でも早く次の日程を決めて欲しいわよね。私たちのお出かけにも影響するし――。そうそう。【ミコラーシュ】に超イケメンのバイトさんが入ったんだって。メイドたちが噂してたわ」
「へー、どれくらいかしら?」
「ヒュアキントスかナルキッソスか、くらいなんですって」
また三人は笑う。両者ともに有名な美形神ではあるが、複雑な事情も持つ。家のメイドは
「行ってみますか?」
コンチェッタ探るような目を向けた。フランチェスカはちょっと考える。
「ん~、やっぱり嫌よお。だいたい奥はどうするの?」
「選んでもらうとか?」
「見られるのよ。嫌でしょう?」
「それを好きな女子はいないかあ……」
「だいたい、あそこで働こうって男性がいるなんてね」
「もしかして気持ち悪い人なのかな?」
客の令嬢たちを狙い、特殊な趣味を持つ男が働いている。探偵コンチェッタは確信に迫る。
「イケメンが働きながら女子に近づくかしら?」
とプリシッラは疑問で返す。ほとんどの女子は二大美形神の趣味を、否定はしていない。それはつまり女子たちの害にはならず、娯楽になるからだ。
「なるほど。つまり何か考えあって、ってこと?」
「そう。採用する店も考えあって、なのかなあ」
「それでヒュアキントス?」
二人の会話にフランチェスカが突っ込む。この話題に興味を持って、来店客が増えるか? それとも敬遠する客かいるのか? 店とて考えるだろう。
「ナルキッソスだってねえ。美形の第一印象も大変よね」
「例えがそうなっちゃうし」
結局、ここでは次の来店の予定まではたたなかった。三人それぞれの揺れがある。
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