37「薬草の謎」

 下層から戻った冒険者たちが加わり、第二階層のメインホールは乱戦となっていた。外界に魔獣を出さないのが、ここで戦う冒険者の義務でもある。

【サンクチュアリ】はひとかたまりになり防戦していた。魔物に突っ込まれその守りが崩れる。フランチェスカは何とかしようと前に出るが戦闘力が足りない。

「きゃっ!」

 可愛らしいウサギ魔獣に弾き飛ばされ、無様にも尻もちをつく。男子たちは他の女子を助けつつ必死の援護に入る。

「くっ……」

 シルヴェリオは後方の魔獣を切りまくり、間接的に援護する。直接助けられないのが歯がゆかった。


 さら下方からの応援が加わり、戦況は一気に安定。残敵掃討となった。

【サンクチュアリ】のメンバーは皆ヘトヘトになっていた。小物とはいえ、こう連続して魔力を使っては体力が削がれる。

 フランチェスカはあまりの情けなさに涙目になっていた。持ち前の負けん気が顔を出したはいいが、ただ助けられるだけの結果となってしまった。

(良い経験になったな)

 皆で相談しつつ、引き上げ準備に入ったようだ。

「さて、帰るか。かまわんかな?」

「ええ、今日は楽しませてもらったわ。たまには来ようかな?」


「う~~ん……」

 帰り道、オリヴィエラは思いっ切り背伸びをした。

「やっぱり一気に放出するのは気持ちかいいわ」

「そうなのか?」

「人によるかな? 私は攻撃系スキルが強いから……」

「私のスキルは――」

「絵でしょ? それ・・を使ってね」

「よく分からないな。対象の意識は分散してどれが本物やら……」

 ストーク捕食したであろう記憶を使っての人格形成が、反射でシルヴェリオに流れ込む。それがアトリエ兼寝室に住まうフランチェスカたちの正体だ。

「あのお嬢さんね。絵画教室のころから追いかけていたし。上手にやりなさいな」

「なぜ、ああもムラがあるのだ?」

「喜怒哀楽は誰にでもあるわよ。都合良くこれに来て欲しいなんて、勝手な理屈なのよねえ……」

「……」

「だから、どの人とも上手にやりなさいな」

 シルヴェリオは難しい問題だと考えてしまった。


「ん?」

 傍らの雑草に気が付く。それはお馴染みさんであった。

「どうしたの?」

「これは雑草だが未分類なのだ」

「へえ……。これ、希少なのよ。だから分類なしなの」

「特別な効果はあるのか?」

「香りの良いお茶よ。解熱効果が多少あるくらい。知っている人なんてあまりいないわね」

「だから薬草ではない、か……」

「頂いていくわ」

 オリヴィエラはそれを摘んで胸の内ポケットに入れた。

「魔獣がいるな……」

「掃討していきましょう」

 そのまま森の中へと入っていく。シルヴェリオはたいした脅威ではないと思ったが、オリヴィエラはやる気だ。立ち止まり木々の間から空を見上げる。

「上にいるわね。これ、持ってて」

 空を見上げながら、上着を脱いでシルヴェリオに渡す。

 静は力を溜める。動は力を操る動作だ。剣を抜いてゆっくりとかざす。長い手足が空気を攪拌した。柔肌から魔力が螺旋のように巻き上がる。きらめきと共に天に向かう。

(神話画がこれを女神に描くのも理解出来るな)

 空にいくつかの十字魔力が出現し、問題の魔獣が落ちてきた。

吸血蝙蝠ブラッディバットよ。珍しいわ」

 体が弾け、オリヴィエラは魔核を拾い上げた

「獣なのに鳥なんて難しい魔獣よね」

「たいしたものだよ」

「またあったわ」

 上着を掛けられたオリヴィエラはめざとくお茶を見つける。

「抽出方法で効果の違いはあるのか?」

「うーん。なんとも言えないわね。やり方は昔から確立しているし、ないと思うわ」

 二人はしばし薬草などを採取した。


「それじゃあ。私はこれを出してくる。助かったよ」

「薬草屋さんね。今日は楽しかったわ。また誘って」

「ああ」

 シルヴェリオはオリヴィエラを見送り、いつもの場所に向かう。


「おうっ、お客さん見ない顔だね」

 会うのは三度目の業者はトボける。初対面を装った。

「薬草だ。引き取ってくれ……」

「はいよっ」

「例の件について知り合いに聞いた」

「ふーん。で?」

「本物とよく似た偽物があるようだな、私なら探せるかもしれん……」

「ほうっ――。ほう、ほう、ほうっ。なら俺の所に持って来な。他に持って行ったら、コレだぜ、コレ」

 といって両手首を合わせて見せる。

「その知り合い。モノホンだねえ。アンタは信用できそうだ」

 親指をビシッと立てて見せた。

「その効果のほどは? その人にプロに聞けと言われたよ――」

 シルヴェリオはブラフをかけた。何かしらの情報を引き出したい。

「――あなたはプロとお見受けするが?」

「まあなあ、オレはプロだぜ。ふふふっ……」

 と不敵に笑って見せた。

「効果は……」

 男は人差し指を立て低い位置に置いた。

「ヒュッ」

 と口を鳴らして高く上げる。

「?」

「ヒュルル」

 と口を鳴らし水平に動かす。

「??」

「こんな感じだな……」

「なるほど」

 シルヴェリオが頷くと男も満足したように何度も頷く。

(何が何やらまったく分からない……)

 分からないと言えば警戒されるから話を合わせるしかないシルヴェリオであった。

「ところでこれは何か知ってるか」

 ふところから草を取り出す。一本だけオリヴィエラから拝借したのだ。

「珍しいな。香りが珍しいお茶さ。普通に干して煎じて入れるんだ。試してみるといいぜ」

「そうか……」

 反応が普通すぎでシルヴェリオは落胆した。

「ほいよ。一千万メッツァだ。安いなんて言うなよ。相場だからな」

 業者はそう言って報酬を握らせる。一千万はシルヴェリオの一カ月の小遣い相当だ。もちろん買取額は千メッツァである。

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