21「東の救世界軍・序」
デメトリアから書状が届いた。東の教会で魔獣討伐にてこずっているとのことだ。フィオレンツァ家の小切手も入っていた。
シルヴェリオは学院を休みとし早朝に屋敷を出立した。
荷馬車に同乗し、王都へ向かう街道を途中下車。森の道を北へと進んだ。そして同じ目的地へ行く救世界軍の輸送隊に合流する。
学院と芸術の都ヘルミネンからは東。王都エルヴァスティからは北西に位置する開拓地に到着した。
そして、しばし教会の休憩所に待機となる。シルヴェリオ以外は全て若い
「あの……。どうぞこちらへ」
「ありがとう」
声をかけられたシルヴェリオはさわやかな笑顔で返す。
「騎士様なのですか?」
「いいえ、残念ながら学生です。兼業冒険者なのですよ」
皆は複雑な表情だ。ただの学生よりは、マシな程度だろう。もっともこの
「戦いは厳しいのでしょうか?」
「私も呼ばれて来たばかりです。状況は分かりません」
(まずいな……)
「なあに。信頼できる仲間が戦っております。私を呼べば十分との判断なのでしょう。これでも強いのですよ。そう見えませんか?」
軽い口調で言うシルヴェリオは自信があると装った。まだあどけさの残る娘たちはホッとした表情になる。
「貴族様とお見受けしましたが……」
「はい、騎士ではないですが、騎士修練は積んでおります。ご安心を」
その騎士修練は十歳の頃の話で、シルヴェリオは一ヵ月で投げ出している。
「婚約者はいるのですか?」
わっと場が盛り上がった。これだけ女子がいれば、一人ぐらいはこんな質問をする。
「残念ながらおりません」
葬送のような場が少し明るさを取り戻す。
「何を騒いでいるのですか! ここは聖戦の場ですよ」
開け放たれた扉の外に年配のマザーが立っていた。両脇に
「
マザーが両脇に目配せし、娘たちはさっとおもてに出た。シルヴェリオも立ち上がる。
「あなたは?」
「仲間の救援要請で参りました。シルヴェリオと申します」
「仲間……」
外から叫びが聞こえた。こちらに近づいてくる。
「シルヴェリオ様、シルヴェリオ様はどちらに――」
「ここだっ。デメトリア!」
「間に合われましたか……」
現れたデメトリアの姿はボロボロだった。銀髪はホコリまみれで輝きを失い、白い顔肌は泥だらけで擦り傷もある。鎧も傷だらけで白装束は土と草色に染まる。
「少し休んだらどうだ」
「そうはいきません。ここが勝負所ですから」
「手続きをしましょうか。すぐ済みますから」
「宣誓にサインを」
「はい」
シルヴェリオは中身も読まずにサインする。教会側は一切の責任を負わないなど、通り一遍の文言が書いてあるだけだ。
「些少ですが協力させて頂きます。お収め下さい」
懐から封筒を差出す。
「こんなに! それにこの小切手は。あなたはいったい?」
「フィオレンツァ・シルヴェリオと申します。父がいつもお世話になっております」
「おお…… 。あのような仕打ちにも、フィオレンツァ卿はまだご助力頂けるのですね。それも大切なご子息を送って頂けるとは――。ありがたい……」
二人は村の道を歩く。畑は荒らされ家屋は一部半壊も見られた。
「一人の援軍でなんとかなるのか?」
「はい。強力な魔獣は一体。他の数名と追いますがスピードが合いません。一人では無駄だと控えています。挟撃ならば討伐も可能かと。とにかく逃げ足が速くて……」
「そのボスが小物を呼び寄せているのか」
上位魔獣は下位の魔獣を統率できる、いわば群れのリーダーのような存在だ。この地でそれを作り出そうとしているのかもしれない。
「それにしても、話が見えんな」
「そうですねえ。当初は軍との共同作戦だったのですが、偵察の結果脅威はそれほどではないと判断されたのです。教会と救世界軍だけでやるとこちらが言い出してしまって――」
ここは教会直轄領として開拓がはじまった地だ。軍に借りを作りたくない、さりとて。
「戦力は多い方が良いとの、フィオレンツァ卿の骨折りを無下にしてしまったのです。そして開始時期を前倒しして強行した」
「強力魔獣はイレギュラー。予備戦力もなしに始めてしまったか……」
「予定通りならカールラとチェレステも参加できたのですよ。家業もあって今回は来れませんでした」
「それで親父殿は私に行けと。これは政治の問題だな」
「申し訳ございません。私がご報告しました。」
「いや、教会についても知りたい。よく声をかけてくれたな」
「おそれいります」
「我が家が悪者でない話なら、大歓迎だよ。気にするな」
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