20「令嬢の告白」
午後は教会礼拝とミサだ。本来ミサは司教以上が執り行うが、ここでは若き神父がその任につく。小さな教会ではあるが、これは組織において出世コースの乗っていることを意味した。
令嬢の二人は村人たちに席を譲って、最後列の端に座る。
いつもは一人で祈っている神父も、今日は数人の
もちろん老神父と、若きイケメン神父では息抜きの格が違う。それほどの逸材がここにはいる。フランチェスカ、プリシッラ両名共に認定している逸材だ。
「やっぱりカッコいいわね……」
プリシッラの耳打ちにフランチェスカは小さく頷いた。これは純然たる事実だからだ。その神父は神話時代の神殿を抜けだして、この教会にやって来たように見えた。少し恥ずかしそうにはにかみ、そして信徒たちの目をみて語りかける。
二人ごとに各自持ち寄った小さなグラスを持ち祭壇に行に行くと、
その後ほとんどの信徒か帰るが、一部は席順に告解の小部屋に進む。
人間関係における罪の赦しを得る者もいれば、魔力酔いよる精神の不安を訴える者もいる。
「お話ししていく?」
「うん……」
「分かった。外で待ってるわ」
気を利かせたプリシッラは聖堂をあとにした。フランチェスカは順番を静かに待つ。
小部屋の中は格子とレースで仕切られ、神父の表情は判然としない。
「フランチェスカ様。本日はどのようなご相談ですかな?」
名前を覚えられていると知り、少し感激した。それなりの金額を寄進しているのだし当然だと思いつき赤面する。
「いつも誰かに見られているような気がします。これは――」
「神はいつも人々を見守っておられますよ」
「いえ、誰かが私を見ております。時には心の中にまで入り込もうと……。これは気のせいでしょうか?」
「ふむ、想いの反射ですね。自然に張られた結界が、気持ちを自身に跳ね返す現象があります。あなたの潜在スキルは
「そんなはずは……。」
「もしくは本当に単なる気のせいかもしれません。我々は自身が何者かも知らずに生きております。御存知なのは天界の神々だけ……。今はどうですか?」
「今も感じます……」
「ふむ」
台上の小窓からラファエロ神父の手が出てきた。フランチェスカの目の前に小さなペンダントが置かれる。トップには小さな金属板に魔核がはめ込まれていた。
「ならばこれをどうぞ。つけてみて下さい」
「はい」
白くて細いうなじに無機質にチェーンが光る。
「差し上げます」
「そんな、頂けませんわ。大切な物でしょうに……」
「そうではありませんよ。少々魔力を込めました。さてこれまでとしますか」
フランチェスカはおもてに出て景色を眺めた。胸に手を当てて息を吸い込む。隣に神父が並び立つ。
「今はどうですか?」
「不思議。消えました……」
「気の持ちようですね。なあに、若いうちは誰にでも少しは経験があります。気しないで……」
ラファエロ神父はそう言って笑った。やっぱり評判のイケメン神父だ。
遠くの森から冒険者たちが出てきた。周囲を見回しながら何やら相談している。
「はしたない女性たちですね。それを傍らに置く男性も同罪だ」
「え?」
それが女性冒険者の衣装についてだと分かり少し動転する。
「フランチェスカ様もあのような姿になられるのですかな?」
「いっいえ、あれは戦う力を持つ女性特有の姿だと聞きました。私にはそのような力はございませんので」
「そうですか。かく信心深くありたいものです」
「でも女神様の中にもあのような姿を――」
「あれは俗人が神の姿をもてあそんだ結果の俗説です」
「はい……」
それはその通りだとフランチェスカは思った。実際に会ったこともないのに、人は神々の姿を描き、大勢がそれを神だと信じているからだ。
「女性たちは知らず知らずのうちに、あれを強要されているのですよ」
真面目な神父様なのだろう。男性の好奇にさらさられる心を心配していた。
あれが女神の姿に利用され、聖職者として憤るのは当然の感情だと、フランチェスカは思った。
「不幸とは思いませんか?」
「なんとも、私にはよく分からない話です……」
「これもまた、自身の殻に想いが反射しているのですね」
フランチェスカには意味がよく分からなかった。信仰とはとはまた別の世界だとは理解する。
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