19「教会の令嬢」
二人は西へ向かう車上にいた。二頭立てで操車が一人の馬車が二人乗りのベンチと荷台を引く。メルクリオ家のプリシッラ嬢と、セルモンティ家のフランチェスカ嬢が景色を眺めながら揺られていた。
「フランチェスカは忙しいわね。絵画に冒険者、そして信徒としての活動なんて。教養課の勉強がおろそかにならない?」
「広く世界を知るのが勉強です」
「本当にそうね。あんな小さな教会に、とっても素敵な神父様が来られるなんて。あそこも知るべき世界?」
プリシッラは笑いながらフランチェスカをからかう。
「話が強引ねえ。プリシッラがそれほど美形好みとはちょっと意外かな?」
「小説世界の主役ね。広く受け入れられている真理よ。じっくりと拝見させていただくわ。
「あはは……」
プリシッラは神も含め、なぜ美形が信仰の対象にすらなるのか、などに興味があった。文学の根源であり、人の感情が全てそこから発生していると考えている。その反対もまた、全ての根源でもあると。こちらはこちらで文学科の勉強である。
「我が学院の
「そこに行く?」
「文学科としては図書館の常連には好感を持ちますので。最近は来なくなったみたい。時々かな?」
「ふーん……」
「そっけないわね。子供の頃の知り合いでしょ?」
「絵画教室で一緒だっただけよ。あの人は神童、私は普通」
「ダンジョンにも来たんでしょ? 多彩ねえ」
「何でも屋さんね。飽きたら他に手を出して天才になるのよ」
「ふーん……」
今度はプリシッラが言った。
妬み、ひがみ、嫉妬とはまた違う不思議な感情。フランチェスカは遠くを見ているような目をする。
馬車が孤児院へ到着した。わっと子供たちが飛び出して来る。
「うわーっ、すげえ。肉の塊だぜっ!」
「たくさんあるから、いっぱい食べてね」
子供たちは、荷台からめざとく
「お収めさせて頂きます。我がメルクリオ家とセルモンティ家からとなります」
「両家に神のご加護を」
プリシッラが差し出した封筒を
「?」
馬車の日よけに小鳥が
フランチェスカはその行く先を見る。
運び込んだ食料を仕分けして、食事の用意に取り掛かる。腕を捲り上げ
あらかた作業が終わり、二人は子供たちのいる大部屋に戻る。
「おっ、新しい絵ね」
壁には児童たちの絵が多数貼られている。フランチェスカは目ざとくモノクロの新作を見つけた。端には作者名が書かれている。
「俺たちの冒険者パーティーさ」
肉を見つけたルキーノが誇らしげに言う。そこには五人の未来の冒険者たちが並んでいた。中央に剣士ルキーノ。右隣は女子剣士のノエミ。左は賢者サンドロと魔法少女ルフィナだ。
「あら、一人大人がいるわ」
「ああ、そいつは冒険者になりたてのド新人Fクラスさ。なかなか見どころがあるんで、面倒見ることにしたんだ」
「ウソはやめなさい。このあいだ助けてもらったんです」
剣士ルキーノは胸をそらせてから、剣士ノエミに怒られる。
「薬草泥棒さ。それぐらい当然だよ。舎弟にしてくれって言われた」
ノエミが詳しく事情を説明する。ルキーノはかなり話を盛ったとフランチェスカにも分かっていた。
「カッコイイお兄さんでした~」
とは魔法少女ルフィナの感想だ。こんな所にもまた
ルキーノの描いた子供の絵だから仕方ないが、ボーっと立っているだけの人間のような魔獣にも見える。この人がカッコイイ? フランチェスカはそのフェイクイケメンに首をかしげる。
「すごい剣を持っていました。なかなかの実力者と見ましたね」
賢者サンドロはトレードマークの眼鏡を押し上げる。確かに剣は装飾ありのように描かれている。
「あんなの偽物さ。俺には分かるんだ」
「ウソばっかり」
「ホントだよ」
「偽物の高そうな剣ってあるのですか?」
「うーん、あるわね。本物は大事にしまっておいて、そっくりに作った
「ほーら」
「でも魔獣を倒していましたよ」
「本物~」
サンドロとルフィナが追随し、ルキーノ立場が悪くなってしまった。
子供たちの世界は偽物など、夢のない話は信じたくないのだ。つい大人の回答をしてしまったと、フランチェスカは言ってから反省する。
食事の用意ができたので、謎のウソFクラスについての噂話は終わりとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます