16「もう一人の捕食者」
それから庶民街を離れ、貴族街との中間ほどにある広い路地に入る。そして一軒の店に入った。護衛たちは離れて散らばる。
シルヴェリオたちはさら離れて建物の陰に隠れた。数人の女性が店から出て来る。そして何人かが入る。
「店名は【ミコラーシュ】。雑貨と小物の店――か……。知ってるか?」
「ううん。
「私は絵画だ。雑貨となると、ちょっと……」
「繁盛しているのね」
客の出入りが多い。こぢんまりとした店だが奥行きがあるようだ。
「街の装いだが、あれはほとんど貴族だよ。雰囲気で分かる」
「言われてみればそうねえ……」
ほどなくして令嬢たちは外に出てきた。
続いて公園のベンチで女子会を継続。シルヴェリオたちは離れた場所に陣取り見守る。
「ん? これかな。悪意があるようなスキル。これって男かしら?」
「そう、男だろう。フランチェスカを追っているんだ。場所はずいぶん離れて行った。そのうちに消えるだろう」
「もてるお嬢さんなのね。ライバルが多くて大変だ」
「悪意だよ。セルモンティはウチと違って恨みを買うような家ではないのだがなあ……。そちらからも調べてみるか」
三令嬢が立ち上がった。お帰りのようだ。もう一人の追跡者の気配も消えた。
自称婚約者本人ではないと思うが、雇われ者かもしれない。注意は必要だろう。
「
「これから予定はあるの? ちょっと酒場に行きましょうよ」
「予定はない。勉強させてもらった礼だ。ごちそうする」
「やった! チェレステに例の店を聞いておいた。ホッピーを飲もうぜ」
カールラは髪を後ろで縛りポニーテールになった。
少し遠回りして雑貨と小物の店【ミコラーシュ】に戻る。ショーウィンドーと窓越しに店内を眺める。客入りはかわらず良い。商品はバッグやポーチ、ベルトなど雑貨全般にアクセサリー類。張り紙には修理も請け負うと書かれていた。
「品物からして庶民向きではないかなあ。ちょっとだけ高めって感じね」
「デザインは一流工房の雰囲気があるな。しかしブランドの銘はなしか」
「入ってみる?」
「混んでいるし冷やかしはやめておこうか。中は女ばかりだ」
(ここでは目立てんしな……)
「男の客が入ったら目立わね」
「そうだ」
二人は居酒屋に向かう。
まだ早い時間で店は閑散としていた。二人はサンクチュアリが使っていたテーブルに座る。シルヴェリオはフランチェスカが座っていた席だ。
(合席を楽しませてもらうぞっ!)
「その隣に座っていたのがコンチェッタ。青い髪でご近所、ダンジョンにも来た娘ね。今日いたもう一人がプリシッラ。幼なじみで黒髪」
「仲が良いようだ」
「ところで次はどうするの? こっちの予定もあるしなー」
「教会だ。ダンジョンイベントがあれば我らも行く」
「冒険者登録してみたらどうかな? 何かと便利だしー」
「確かに」
戦いの世界はカールラが先輩だ。ここは素直に従おうと決める。
ウエイトレスがホッピーを運んできた。見た目はビールである。二人は乾杯した。
「これはただの、ビール?」
「そう、醸造に失敗してアルコール度数が低いビールに、蒸留酒を足して強くしたんだ。安酒な」
「そうだったのか……」
「おっと、今日はサボってデートかい?」
冒険者のパーティーが入店する。この店はそういう店で、【サンクチュアリ】もそんな雰囲気を楽しんでいた。
「違うよ、
「ああ……」
先日ダンジョンで遭遇した冒険者たちだ。シルヴェリオの顔を見て納得する。
「魔獣はどう?」
「変わらずだな。平和なモンさ」
ここは情報交換の場でもある。
「例の魔力はボチボチ情報を集めるよ。そっちが怖い」
カールラは顔を寄せて小声で言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます