14「謎の宿敵」

「ふう、お腹いっぱいニャン」

 そう言ってチェレステはワインを飲み干した。

「ワインで悪かったな。ホッピーは飲まなかったのか?」

「学生さんに付き合って飲んだニャン。盗み聞きに忙しくて、料理は少しだけだったニャン」

 今度ホッピーを飲んでやるぞ、とシルヴェリオは心に誓った。フランチェスカも飲んだというだけで、極上の酒は至福に変化するだろう。

(まるで、これからの二人のようだな)

 含み笑いしつつ安物のワインを傾ける。映像の愛だけを目で追った。

「ここニャンッ」

「!!」

「令嬢の重大発言ニャン」

「巻き戻しだっ!」

 そして再度映像を動かす。隣の友人が酔った勢いで何かを言い、フランチェスカは慌ててそれをやめさせようとする。軽く口を押さえようとする手を、学生友人はさえぎる。あきらめて両手で顔を覆った。そのあと言い訳がましく色々しゃべっているようだ。これほど豊かな表情を初めて見たシルヴェリオである。

「何を話したんだ?」

「この友達は、お隣さんのコンチェッタニャン」

「交友関係も重要な情報だ。で、何を?」

「他に幼なじみのプリシッラもいるニャン」

「そういえば三人で下校が多いな……。で?」

「……」

「仲良し三人組か。貴重な情報だが、報酬をご返却願おうかな?」

「婚約者がいるニャン。幼なじみの男ニャン」

 デメトリアとカールラは顔を見合わせた。シルヴェリオは――。

「なんだ。そんな話か……」

 明晰頭脳が一瞬停止する。口がパクパクと動いてから、シルヴェリオはフリーズし凍り付いた。

「やっぱり言わない方がよかったニャンねー」

 近所、幼なじみ、仲良しの単語がグルグルと回りながら再起動。結論が出る。

「大変な問題ではないか……」

「詳しく話したのか?」

「どのような人物なのですか?」

 放心したように天井を仰ぐシルヴェリオ。デメトリアとカールラは身を乗り出す。

「小さいころ親同士が決めたとか、口約束って言ってたニャン」

「よくある話じゃん」

「正式な婚約でないかぎり破棄案件にもなりません。さほど問題では……」

「いや、未だにそんな話がでるのは、相手がこだわっているからだ。しつこい貴族はやっかいだぞ」

 相手が底辺貴族ならそんな話を蒸し返されたりはしない。セルモンティ伯爵家の政治力と経済力で一蹴できる。逆にその気があれば、とっくに本物の婚約に進んでいるはずだ。つまり――。

「やっと捕まえたぞ。そいつが敵か……」

 シルヴェリオはワイン飲み干し、空のグラスを横に出す。ヴァレンテうやうやしく注いだ。

「本日は対応する臨時パーティーの結成式とする」

「はあ?」

「めんどくせーっ」

「ニャンのことですかあ?」

 三人娘はだらけきってしまう。

「お前たち。やる気を出さんかっ! これからも私の手足となって働いてもらうぞ」

「フィオレンツァ家から受けた依頼は、そんな話ではなかったんですけどねえ」

「超個人的な話じゃん!」

「やる気、どっか行ったニャン……」

「つべこべ言うな。この私の人生がかかっているのだ。いいな! 報酬は私が支払う」

「仕方ありませんね。分りました」

「しょうがねぇなあ」

「ふっかけるニャン」

 三人娘には同じようにし、イデアがワインを注いだ。

「お前たちの困り事にも相談に乗るぞ。ウィンウィンだ」

 四人は立ち上がりグラスを掲げる。

「フィオレンツァ公国の興廃はこの一戦にあり! 必ず令嬢を手に入れる」

「はあ……」

「やっぱ、めんどくせーっ」

「勝手にニャンニャンしてニャン」

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