第3話 噂話
廃校の静かな教室
昼下がりの日差しが懐かしさと物悲しさを演じている。
セミの鳴き声が、全開にした教室の窓から騒がしく響き渡る。
秘密基地というには大きく、そして秘密になっていない廃校だが、かえってある意味『組織のアジト』っぽくて残り少ない村の子供の遊び場となった。
一応表向きには月詠家、真月の祖父母が私財でこの廃校の管理をやっており、子供たち優先の遊び場として開放している。電気・水道も一部で使えるように開放しており、村と連携して警備もしている。
廃校の視聴覚室に3人は集まり、巨大なモニターを使って持ち込んだ対戦系のビデオゲームをしていた。
視聴覚室の机には各々が持ち込んだお菓子、飲み物が並べられ、プロジェクターやスピーカーも完備。さらには音楽室から運んできた学校保有のギターやトランペットが壁に並べられている。
ゲーム以外にも、真月が持ってきたタブレット端末経由による映画鑑賞や、演奏、フ最小限の机以外は片づけられた広いローリングの床を使ったダンスパーティなど、なんでもできる。
体育館、運動場も開放されていて、遊び場には事欠かない。
「ねえ、最下位の人は一位の人のいう事をなんでも聞く罰ゲームしない?」
伊保が唐突にニシシと笑いながら、煽るように提案してきた。
伊保と尋桃に挟まれていた真月はびくっと体を跳ねらせ、目を点にして、すぐに返しの言葉が思いつかなかった。
「・・・法に触れない事、人の尊厳を破壊しない事を条件にね?」
「尋桃ちゃんマジメ~。安心してよ、真月が酷いことするわけないでしょ?ね?」
「伊保ちゃんに言ってるのよ、バカタレ」
「む~・・・」
「くっくっく残念・・・えーっと・・・うん・・・残念」
伊保は真月の頬を突きながら、ニマニマと彼の顔を覗き込み、尋桃は眉間に指を当てて皺を寄せながらため息を吐く。真月は固まったまま表情のまま、静かにゴニョゴニョとつぶやく事しかできなかった。
「アハハ、結局何も言い返せないの、ざぁこざぁこ♡」
「伊保にはパシリ命令しか出さんわ」
「ひっでえ!」
なのに不思議と伊保の絡みはすぐに落ち着きを取り戻してくれる。
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「ちょ、おま!ウチばっか狙わんといてな!!」
「ふふふ、言い出しっぺはちゃんとヘイト管理しないとだめだよ」
「・・・なんとなく予想してた」
複数人対戦ゲームにおいて、一人狙いというのは必ず付きまとう。
ダメージが多いから、狙いやすい位置にいるから、1位を独走しているから・・・様々な要因があるが、今回の場合は罰ゲームを持ってきた張本人なのだから、まずは言い出しっぺの法則が当てはまった。
結果として真月が1位、伊保が最下位という結果になった。
「むー・・・」
「真月から命令どうぞ♪」
「あー、じゃあ、何か面白い話してよ」
『面白い話』人によって価値観はマチマチであるため、こういう罰ゲームで出されるお題としては中々鬼畜。
人によっては、やることが明記される買い出しのパシリの等の方がよかったと思えるだろう。
『酷いこと』ではないが『辛いこと』の塩梅を考えるとこの辺が妥当な命令になるだろうか。
「あーどうしよっか・・・そうねえ・・・あ、そうそう去年・・・いや今年か。年始に真月が帰った後にさ、尋桃ちゃんの体重4kg増えてたわ」
「伊保オオオオオ!?」
「ブフゥ!?」
まさかの流れ弾に尋桃が顔を真っ赤にしてしかめっ面をして伊保を睨む。
真月もまさか隣にいる異性の体事情を暴露されるとは思っておらず、不意に吹き出してしまった。
「いや、すまん。大丈夫。尋桃は十分可愛いから。てか成長期だから4kgなんて誤差だよ誤差」
「うるさいうるさい!!それとこれとは話が別!!」
「あばばばばば」
若干錯乱気味に真月の両肩をつかみ、前後に激しく揺らす。
「というか何で私が辱め受けてんのよ!伊保ちゃんの罰ゲームでしょ!?」
「んー・・・といってもウチ体重変わってないしなあ」
「体重から離れなさいよ!!」
「あ、そうだ。最近下の毛が生え始めたんだけど見る?」
「え゛ン゛!?」
伊保は何の恥じらいも無く、唐突に短パンに手をかけ、ソレを降ろそうと力を込める。その姿に真月は流石に思考が停止した。
「シュッ」
「ぐぼあ!?」
光の速さで尋桃が伊保にボディブローを叩き込み、なんとか露出行為を防ぐことに成功したが、尋桃の目は冷ややかだった。
真月は思考停止の末、鼻血を垂らしていた。目をパチパチさせながら現状を整理すると、ただ無言、無表情でポケットティッシュを取り出し止血を始める。
「うん、ごめん。これはウチがやりすぎたわ。真月相手だと無防備でも安心できるって言うか・・・」
お腹を押さえ、床にへばりつきながら、何とか声を絞り出す。
「なんで彼と私しかいない時はこうもネジが外れるのよ・・・」
一応彼女は誰かれ構わず煽っているわけではなく、お互いに許し合える真月相手にのみタガを外した接し方をする。
「俺も悪かった。でも、本当に僕以外にはやるなよ?洒落じゃ済まんから・・・」
ティッシュを両方の鼻の穴に突っ込んでいる彼の姿はある意味説得力の塊だった。
「あ、そうだ。この学校の裏山の噂話知ってる?」
回復したのか、ケロっと何事もなかったかのように彼女は立ち上がり、話題を変えた。
「・・・『シラコ様』の話ならじいちゃんに聞いたことがある」
「それなら話が早い」
『シラコ様』限界集落特有のオカルト話
この廃校の裏山にはこんな言い伝えがある
細い山道に並ぶ小さな祠に続く無数の鳥居の中には入ってはいけないよ。祠には触れることなく戻りなさい。触れてしまえば白き女に黄泉の国へと引きずり込まれるから
しかし、そんな鳥居が存在するなんて見たことも聞いたことも無い。
この裏山は村の所有であるが、月詠家の出資で軽いピクニックができる程度の公園を整備している。
山道から鳥居に続く道は見たことが無い。
そもそも、連続する鳥居なんてグーグルマップでこの周辺を開けば簡単に見つかりそうだが、それらしき建造物は見当たらないのだ。
だが、火のない場所に煙は立たないという。『シラコ様』とは何者なのか、どういう経緯でそんな怪異の話が出来上がったのか、誰から流布された話なのかすら分からない。
なのにこの村人達は皆知っているお話。
おとぎ話ではなく、踏み入ってはならない場所としてのカルト話で。
「ねえ、散歩がてら探してみない?」
「軽い運動ついでに付き合うよ」
「日が沈むまでには引き上げるわよ?」
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