第2話 集合

自転車を漕ぐこと30分弱、現在では既に廃統合され、放置状態となった小学校にたどり着いた。

そこにはもう一台の自転車が既に止まっており、校舎の木陰で涼む黒髪ロングで白いワンピースを来た女の子がいた。


「おかえりなさい。『しんくん』」


真月の事を『しんくん』と呼ぶ彼女は、ひざ元に置いていた麦わら帽子を被り、スクっと立ち上がる。

白い肌に風に靡く長髪とワンピースの共演は、ドラマか映画を見ているように美しい。

彼女の名は『伊武 尋桃(いぶ つと)』


「・・・久しぶり」


同い年ながらも、年上に見える彼女の姿を直視できず、視線をずらし、頬を染めながら返事を返す。


「あららー?ウチの時とはえらい違いやねー?」

「オーケー、君のおかげで冷静になれたよ」


プププと口を押えながらニマニマと伊保が笑いかけてくる。

その姿に確かな苛立ちを覚え、ドギマギする感情は一瞬にして冷え込んだ。


「伊保ちゃん?優しさに付け込んで、しんくんをあまり虐めないの」

「優しいんじゃなくて、襲う度胸が無いだけでsyイタタタタタ!?」


尋桃は伊保が真月を更に煽ろうとした時、その頬を思いっ切り抓り、ニコニコ笑いながらも、額にうっすら青筋を立てていた。


「ごひぇ、ごひぇんっへ!」


尋桃に抓られた頬は赤みを帯び、決して見てくれだけのお仕置きではないことを表していた。


「痛った~…そこまで怒る事~?こんな事『しんげっちゃん』以外にはやらないって」

「余計に質が悪いのよ!そのうち痛い目見るよ!?」


尋桃は最後に伊保の頭にゴチンとげんこつを加える。


「いいよ、別に。できればそれよりも『新ゲッター』みたいなあだ名は何とかならんかね?」


美少女に言い寄られるのは、苛立ちがあったとしても決して悪い気はしない。

今の関係に心地よさを感じている真月は、このまま彼女の行動を咎める気は無いようだ。


「あら?だったら下の名前で呼ぼうか?『真月』?」

「おや?思ったよりうれしいね。かわいい子に名前呼びされるのは。なあ?『伊保』?」


お互い顔を覗き込むように近づいて、笑い飛ばしながら煽るように下の名を呼ぶ。

何か取り決めているわけではないが、お互いに褒め合い、認め合い、その上でどちらが余裕を持って見下ろせるかのゲームをしている。

そんな共通認識が、この二人には出来上がっていた。

平気な顔で「かわいい」だの「かっこいい」だのを飛ばし合い、ケタケタ笑う姿はとても小学生じゃない。

そんな二人を見つめて尋桃はため息交じりに頭を抱える。


「それより、他の連中は?」


真月は尋桃に視線を移しながら周囲にも目をやる。

そこにはガランとした廃校の姿だけで、人影は見当たらない。


「まだ宿題が終わってないのよ。これから毎日祭りだなんだで、遊び惚けてたら終わらないでしょ?だからお祭りまでに自由研究以外終わらせるように命令したの」

「ウチら二人は最初の1週間で終わらせたのにねー」

「尋桃ちゃんはともかく、伊保も頭いいのはなんで?」

「やかましいわ」


伊保は真月の脇腹をゲシゲシ殴り、不満を表現し、真月は「わりいわりい」と軽く流す。

二人のやり取りを見ている尋桃は少し寂しそうにゆっくりと真月に近づいた


「ねえ。伊保ちゃんだけ呼び捨てなのは寂しいな。私も下の名前で呼び捨てにしてくれない?私もそうするからさ」

「ん”ッ!?」


上目遣いで覗き込む不意打ちと名前呼びの提案、そして脇腹へのクリーンヒットが重なり、へんな声が出る。

伊保は腹を抱えて爆笑し、真月は脇腹を抑え、座り込みながら呼吸不全気味に陥る。

尋桃も腰を降ろして視線を合わせると「ダメ?」を首をかしげながら聞いてくる。

心臓は今にも飛び出しそうで、顔が真っ赤に蒸発しそうで、後ろの伊保が指さしで笑う姿がうざすぎて落ち着いた。


「いいよ。僕も下の名で呼ぶね、『尋桃』」

「ふふ、よろしくね?『真月』」


真月は彼女の手を借りて起き上がった。


「『ん”ッ!?』って何やねん!『ん”ッ!?』って!?あひゃひゃひゃん”ッ!?」


尋桃の素早い手刀が伊保の脇腹を捉え、真月と同じような変な声が出た。

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