怨念ショウタイム

ギミック・ブックス ラグナホープ

田舎に潜む怪異

第1話 帰省

8月に入りたての夏休み、今年9歳の『月詠 真月(つくよみ しんげつ)』は父親の運転するワゴンの中で眠り、揺られながら田舎道を進んでいた。彼は男の子にも女の子にも見える中性的な顔立ちをしていた。


田畑が続き、民家がほとんど見当たらない過疎地域。

山と海に挟まれ、車が無ければまともな買い物すらままならないような地域。

過疎地域の現状を知らぬ都会人の一部を除き、現代の若者が住みたいとは思えない地域だ。

現状、年々過疎化が進み、真月と近い年頃の子供は手で数える程度で、子育て世代は役所勤務か親の代から継いだ農林水産業を営む人たち。


「着いたぞ、起きろー」


父の声に反応して、瞼を開ける。

車の窓から見えたのは、古き和の趣を感じさせる巨大な屋敷「月詠邸」


この田舎町の大地主であり、地酒の生産・キャンプ場・ゴルフ場に加え、日本各地に不動産を保有し、現在では投資とその不動産による収入を主として生計を立てている。


真月の一家は田舎を離れ、都市部に移住しているが、父親が極力時間の融通が利く自営業という形をとっているため、夏休みは盆に入る前の段階で早く帰省する。

父親はこれから町の盆祭りや親族の集まりに向けて手伝いに駆り出されるのだ。


「おお、『しんちゃん』か、大きくなったなー」


邸の玄関から60歳前後の老夫婦が出迎えてくれた。真月の祖父母だ。


「どうも、お久しぶりです。おじいちゃん、おばあちゃん」


真月が祖父母に一礼をすると祖父が頭に手を当て笑いながら真月に近寄り、頭をガシガシ撫でまわす。


「かー!硬いのー。ジジババなんぞ無礼講でええんじゃ!最近の小学生はこうなんか?『光夜(こうや)』」


「親父、それ去年…いや、年末も同じこと言ってないか?」


真月の父親、『月詠 光夜』がワゴンから荷物を玄関に運びながら、呆れたように返事を返す。

彼にとってこの光景は何度も見慣れた光景であり、帰省の度繰り返されては飽きが来る。ただ、自分の親が元気な事は悪くない。真月の父、『月詠 光夜』はうっすらと笑みを浮かべる。

彼らはいそいそと車の荷物を運び終え、一息ついたころ、真月のスマホに受信音が鳴り響く。画面には『安藤 伊保』と表示されていた。

スマホに耳を当てると、受話器と背後から同時に女の子の声が響いた。


「YHEA!ひっさしぶりいいいい!!」


声の方向、すなわち背後から、バードテール型のツインテールをした、半袖短パンの女の子がとびかかってきた。


「うるせエブフォア!」


真月はくるりと振り向いて、彼女をラガーマンが相手を迎え撃つように抱きしめ、迎え入れた。

ある程度予想できたことのように、叫び声が聞こえたタイミングですぐに受話器を耳から外し、両手を広げて彼女の飛び込みを受け止めたのだが、同い年の彼女は予想より勢いが強く、危うく舌を噛むところだった。


「来ると分かってて、受け止めてくれるんだ?やっさしー」


日に焼け、褐色の彼女はボーイッシュながらも女の子だと、自然の心地よい香りが漂い、薄着の姿で密着されては、真月の・・・アレがピクリと反応を示す。

真月は両足の親指の付け根に力を籠め、幼きタケノコが隆起するのを食い止める。


「やかましい、砂利に石畳だらけの場所で飛び込んで来んじゃねえよ。俺が避けたら余計に危ないだろうが」

「ふーん・・・?」


彼女、『安藤伊保』は密着した体を更に彼に預け、覗き込むように、耳元へ口を近づける。

囁く声で、彼の聴覚を刺激するために


「受け止める時、ちょーっとにやけてたけど?うれしかったんじゃないの?」

「・・・」

「素直に喜べないなんて、ムッツリさンブ!?」


真月は、彼女の頬を片手で挟み、自分の正面へと向かせた。

じっと彼女の目を見つめて、一息ついて、彼女に微笑み返す。


「数か月ぶりに友人と再会したんだ。うれしくない訳がないでしょう?」


指を口に当て、クスクスと笑って余裕の表情を浮かべるも、心臓はバクバクと鳴り、ちょっとイラっとしてる。


「あらら、うまく躱されちゃったかな?」


対照的に伊保は、真月の手を解くと、ケラケラ笑って、作りものじゃない余裕の表情を浮かべた。


「ほら、ウチらの時間は有限なんだから、『秘密基地』に早く行こ?」


彼女は真月の右手をしっかり掴んで、邸の駐輪場へと引っ張っていく。

そこには整備された真月用の自転車と、伊保が乗ってきたであろうデコレーションされた自転車の2台が駐輪していた。


「ちょっと待ちな」


二人が振り返ると、そこには真月の祖母がお守りを持って歩み寄ってきた


「これを持っていきんしゃい」


そう言うと、二人に一つづつ小さなお守りを渡してきた。


「それさえあれば、悪いもんに目を付けられん。持っていきんしゃい」

「ありがとうございます!おばあちゃん」

「・・・ありがとうございます」


手渡された伊保は明るく無邪気に返事を返し、対して真月はペコリと頭を下げて静かに返答した。

そんな二人を見て、「怪我には気を付けて遊んできなさい」と快く二人を見送った。

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