第33話 ヒロの必死の説得


※ヒロサイド


 私はドミニデスと対峙した。ドミニデスは首をポキポキ鳴らすと、


「お前らが、オボロンが言っていた、ネズミか? 女一人で俺に勝てると思っているのか?」


ドミニデスは間延びした話し方をしており、どこか切なく、沈んだ表情を浮かべている。ステータスを見てみる。


名前 ドミニデス レベル35

職業 ウォリアー


ステータス

HP 4000

MP 350

物攻 480

物防 350

魔攻 200

魔防 300

素早さ 180


「勝てなくても、時間を稼げればそれでいいんだよね。ドミグラス! 私と勝負だ!」


「時間稼ぎねぇ。あんまりおすすめはしないな。俺の足止めをしたからといって、姫たちの身柄が無事だとは限らないだろ? あと、ドミニデスな」


 ザーハックさんたちと合流したと連絡がらきたので、私は安心しきっていた。


「確かにそうだね。残りの二人が攻めてきたらやばいかもしれないけど、ドミノデスが一番やばそうだからね。それと、なんでこんなひどい事をするのか聞いたら教えてくれる?」


「ドミニデスだ。まあ名前なんかどうでもいいか。別に隠す必要はないし。いいぜ。簡単なことさ。俺はただ強くなりたい。こんな俺を慕ってくれる、あいつらを、この手で守れるくらいにな」


「強くなりたいからって、関係のない人を巻き込んで自由を奪っていい理由になるわけないよ! レベルも高いし強いでしょ! それに、そんな優しい気持ちがあるなら、なんでここの人たちは傷つけるの?」


「レベルが高いから、必ず強いとは限らない。最初は、この世界に閉じ込められて苦しむ人たちが、ログアウトできるまで、ここで安心して暮らせるようにしてやりたい、そう思った。

 俺はレベルを上げて、スキルを取って強くなった。しかし、ある村に滞在していた時、ある鎧を被った男が攻めてきた。俺はその男に敗北した。悔しかった。惨めだったよ。その村はのちに焼き尽くされ、村人たちは逃げ惑った。俺たちは守れなかった。絶望したよ、己の弱さに」


 話を聞く限りは根はいい人に見える。誰かを守りたいって気持ちは私たちに似ている部分がある。負けた悔しさからおかしくなったのかもしれない。どうにか説得できないかな? と思う。元々の人柄がいいから他の人も着いてきているのかもしれない。


「本当は優しいんだね。でも、そんなの一人で背負うことなんてないよ! 一人でできないことはみんなで協力しあおうよ! みんなでログアウトできる方法を見つけよう? 現住民の人に、話を聞けば帰れる方法を知っている人がいるかもしれないよ? こんなこともうやめようよ。誰も得なんかしない。自分が不幸になるだけだよ。強くなる方法なんかいっぱいあるよ!」


「優しさだけで人は救えない、守れないと思っていたが、みんなと協力か……確かにそうだな。だがもう、手遅れだ。それに俺は不幸ではない。俺は俺のやり方で強くなってみせる」


「手遅れなんかない! 最初は許してもらえないかもしれないし、信用されないかもしれないけど、ちゃんと反省して、みんなに『ごめんなさい』して、国も元通りに返して、村や国の復興を手伝えば、いつかは許してくれるよ。その時は、私も一緒に謝ってあげる。

 それに、俺は不幸じゃないって? じゃあなんで、そんな悲しげな顔をしてるの?」


「ふんっ、変わったやつだなお前は。何も悪いことしてないのに、謝るなんてな。そんな都合いけばいいな。悲しい顔か……。そう見えるのか」


「まあね! 変わったやつとはよく言われるからね! うん。そう見えるね。だから、今は一緒にやり直そう?」


 最初は許せない! とか思っていたけど、いつのまにか、そんな気持ちは薄れていた。みんなを傷つけたことは怒ってはいるし、許せないんだけど、これ以上被害をださずに、反省して心を入れ替えてくらるなら、いいなと思った。


「やり直そう……か。それも悪くないかもしれないな。だが、お前が俺らを助ける義理なんてないだろう。これ以上の被害をだしたくないというのは、察するが。そこまでする理由が分からん」


「困った時はお互い様だと思うよ。それに私はお節介かもしれないけど、困っている人がいたら助けてあげたいの。今回は私があなたたちを助けるから、いつか、私が困った時はあなたが、私を助けてくれたら嬉しいな。

現実リアルでは、何もできない私だけど、この世界だったらなんだってできる気がするの。せっかく『エタドリ』の世界なんだから、常識の範囲内でみんなで競い合いながら、強くなろうよ」


「お前のように優しいやつもいるんだな。…………分かった。帝国を元の国に返そう。戦いも終わりにしよう。最後に聞きたい。お前の名前はなんだ」


 その言葉を聞いて私は安心した。話せば分かる人で良かった。早くみんなに知らせたい。


「ありがとう。分かってくれて嬉しいよ。私の名前は、ヒロだよ。覚えていてね」


「ヒロか。覚えておこう。俺の名前もちゃんと覚えてくれよ。迷惑をかけてすまなか……。うぅっ。あぁぁ。まただ……くる。ヒロ、俺から離れろ。遠くへ逃げろ」


 突如現れた、黒いオーラがドミニデスを包み込んでいく。訳が分からない私は呼びかける。


「ドミニデス! どうしたの!? 気をしっかり! 何が起こっているの?」


「……っ。これは『支配の恩寵』といって……。恩寵スキルの一つだ。はぁ。はぁ。俺は負けたあの男に強くなりたい、俺を鍛えてくれと言ったら、『気に入った、この力をお前に授けよう。この力を制御できれば、お前は最強になれる。この力は支配することによって強くなる』って言われてな。俺は強くなったが、時々、我を忘れる事があるんだ。自我が戻った時に、この国を支配していた。俺も制御できない。だから、逃げろ。俺が俺であるうちに」


 ドミニデスは苦しそうに話す。『支配の恩寵』とか言われても私には分からない。ドミニデスを騙した男がいるって事は分かった。そいつが本当の黒幕だと思う。支配する事によって強くなるってのはどういうことなのかな?


「苦しそうだけど、どうすれば元に戻せるの?」


「分からない……。気づいたら自我が戻っている。ぐあぁぁぁあ!!!」


 ドミニデスはそう言い残すと、黒いオーラが完全に包み込んだ。少しの間モクモクとオーラはその場に残った。

 黒いオーラは少しずつ、面積を減らしていく。ドミニデスの姿が見えるようになった時には、体は黒く光っていた。


「ガハハハっ! さぁ、支配の時間だ!」

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