第32話 ユナ救出作戦


※ヒロサイド


 ユナちゃんを連れ去られてしまった。私たちは急いで外に出るために走り出した。


「くそっ。不甲斐ない俺が許せません」


「いえ、わたくしの目の前にいながら連れ去られてしまったのです。わたくしの責任です。グーファーさんは悪くありません」


「いえ、ルナ様のせいではありません。護衛の俺の責任です」


 二人のせいではないのは分かっている。私が感知スキルを使用して、周りにいなかったからと安心し切っていた私の責任。そう思いながら、


「二人は悪くないよ。感知スキルを使ったのは私だし、それで引っかからなかったから、周りにいないって言った私が悪いよ。ごめんね」


「いえ、ヒロ様はわたくしたちのために、スキルまで使用してくださりました。お気になさらないで下さい」


「そうですよ! 今は早く、ユナ様を取り戻しましょう!」


「だね。ユナちゃんを取り戻すのが先だね。ありがとう。さっきのオボロンはアクティブスキルの『隠密』を使ってたのかもしれない。だから、私の感知スキルに引っかからなかったのかも」


「確か、アーチャー系の得意分野でしたね。俺はナイトですから、よく分かりませんが。隠密が得意ならまた、どこから現れるか分かりませんね」


「うん、気をつけよう」


 そんな事を言っていると、突然。


 何かが爆発した音がした。


 誰かが戦闘をしているのかもしれない。


「中庭の方ですわ。こちらです」


 ルナちゃんの案内にかわり、迷宮のような場所を駆け回る。


 中庭に到着した私たち。崩れて溢れ出ている噴水、壊れてそこら中に散らばった花がそこにはあった。近づくと、誰かの話し声が聞こえてきた。


「ドミニデスさん。チビ姫を連れてきたぜぇ。このチビをどうするつもりなんだ?」


「あぁ、オボロンか。ご苦労だったな。そいつは、逃げた元国王たちを誘き寄せる餌さ。民間人とともに、どこかへ行方を眩ませたからな。それと、オボロン。最近休んでないだろ? 休んでいいぞ」


「なるほどぉ。まあなんでもいいけどよ。ありがたい話しだけど、それどころじゃないんだよな。他に、三匹のネズミが王国に侵入してるんだよ。もう一人は、ここの娘らしいけどな」


「そうか。橘と紅葉はどうした? ルルード王国に行ったきり戻ってこないみたいだが。交代して休ませたいんだが。いないなら、西と東を守っているジュラとデリシャスの三人でそいつらを捕まえろ」


「あいよー」


 先程のオボロンとボスのドミニデス。オボロンがいるっていうことは、近くにユナちゃんがいるって事だ。

 周りにはその二人しかいないように見える。オボロンは周りをキョロキョロと見渡している。


 後ろ姿だが、筋肉質で長身。黒い髪に所々に赤い線が入った大男が立っている。あれがドミニデスか。


「いやだ! 離して! お姉様の所に戻して!」


 ユナちゃんの声だ! でも、オボロンは何も抱えていない。すると、グーファーさんが小声で、


「ユナ様だ!」


「え? どこ?」


 私にはどこにいるのか分からなかったので聞き返す。


「あいつらがいるところの電灯の上です」


 指をさされた場所を見てみると、電灯にユナちゃんが括り付けられているのが見えた。


 ルナちゃんは見てられないのか手で自分の顔を隠した。


 早く助けたいけど、動けない。頭が真っ白になって何をするべきなのかが分からない。行っても、ドミニデスに見つかってやられるだけだ。ユナちゃんを助けてグーファーさんとルナちゃんで逃げてもらって私が戦うのもありだけど、他に仲間がいる事を仄めかしていたからリスクが大きい。


 すると、オボロンが私たちがいる方向へ歩いて向かってくる。


 内心ドキドキしながら、時が過ぎるのを待つ。私たちを探しているのだろう。相手がどんなスキルを持っているのか分からない以上、こちらも迂闊に手を出せない。

 ボイスチャットで何かを話しながら、私たちの横を通り過ぎて、城内に入っていった。


 どうするべきか、考える。……そして、私は二人に提案をした。


「私が弓でユナちゃんに括り付けられている紐を切るから、二人はユナちゃんを助けたあと、すぐに逃げて。ドミニデスは私が戦う」


 私の提案に二人はあまりいい反応はしなかった。


「ヒロ様でもさすがに無茶ですわ。みんなで戦った方がいいですわ」


「そうですよ! ヒロさんだけで戦うだなんて。俺が身代わりになりますよ!」


 でも、ここは私がやるしかない。そう思った。二人は死んでしまったらどうなるか分からない。私は死んだとしてもデスペナルティを受けて、一定時間が経てば復活ができる。二人はそう思ってはいないだろうけど、ユナちゃんが連れ去られたのも私の責任だし。


「大丈夫。時間を稼ぐだけだから。二人の方がこの国に詳しいでしょ? 私は一度来たことがあるし、ある程度道は把握しているつもり。大丈夫。心配しないで」


 ルナちゃんは心配そうに私を見つめ。


「分かりました。心苦しいですが、よろしくお願いします。無理はしないでください」


「うん。大丈夫。ユナちゃんの近くに着いたら、私にメッセージ頂戴」


「分かりましたわ」


「俺も腹をくくります。ヒロさん、よろしく頼みます。ルナ様行きましょう」


「よし! 作戦開始だぁ! 頑張ろう!」


「「はい」」


 二人と別れ、私は職業を『ウィザード』から『スナイパー』に変更した。


 一分くらい待っていると、ルナちゃんから、着きました。とのメッセージがきた。私は十秒後に仕掛ける。と送った。


 私は心の中で数える。

 十、九、八、七、六、五。あと少し。弓を構える。四、括り付けられている紐に狙いをすます。   三、二、一、零! 発射! 私が放った矢は紐に命中し、ユナちゃんが悲鳴をあげながら落ちてくる。


「きゃぁぁ!」


 その隙に職業をウィザードに変更し、無心で走る。ドミニデスはユナちゃんの方を見る。私は魔法で先制する。


トゥインクルめくスター!」


 私の声に、ドミニデスが反応した。

 よし、これでいい。このまま私と勝負だ!


 煌めく星がドミニデスに命中し煙をあげる。煙が晴れると、ドミニデスは首元を掻いている姿が見えた。


 全然効いていない。だけど、私にヘイトが向けばそれでいい。すかさず次の攻撃を仕掛ける。


「スパイラルマジック!」


 杖から、赤紫色をした螺旋状のオーラを放出する。ドミニデスは高くジャンプして避ける。私は次の攻撃に備えスキルを準備する。スキルにはCT《クールタイム》がある。一度使用した、スキルは一定時間が経たないと再び使用することは出来ない。その事を踏まえ、時間調整をしながら魔法を使っている。


 ふと、ルナちゃんたちがいた場所を目視すると、 そこには誰の姿もなかった。無事に逃げることができたのかな? 良かった、と安心していると、一通のメッセージが飛んできた。

 ルナちゃんからだ。今、ザーハックさんと防衛警備団の人たちと合流できたらしい。ザーハックさんが私のところにきてくれるみたいだ。余裕はないので返信はできないけど。


 ドミニデスは私の近くに着地する。ドミニデスは静かに私を見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る