第30話 伝説の理想郷

 ドミニデス帝国に向かっている途中。僕はジークさんの『太陽の恩寵』について聞いてみる事にした。


「ジークさん、つかぬ事をお聞きしますが、『太陽の恩寵』ってどうやって手に入れたんですか?」


「『太陽の恩寵』? 申し訳ないけど、分からないな。半年前に同じようなことがあったんだがな。でも、詳しい事は思い出せなくて」


「そうなんですか、残念。ありがとうございます」


「お役に立てず申し訳ない。少し疲れてしまったから仮眠させてもらうよ」


「私も少し休ませて頂きますね。すみません」


「いえ、二人ともおやすみなさいです。着いたら起こしますね」


 ジークさんとリーフィス王女はすぐに眠りについた。よっぽと疲れていたのだろう。


「そういえば、橘さんは『エタドリ』経験者なんですか? 【伝説レジェンド理想オブ・アルカディア郷】の事を知っているようでしたが。前から、パラディン系統を使ってたんですか?」


「いえ、僕はエタドリはプレイした事ありませんよ? 今回のが初めてです。仕事が忙しかったですし。

 仕事が落ち着いたのと、フルダイブというのが気になって、買ってみたのですよ。まあ閉じ込められましたがね」


 嘘だぁ。エタドリやってない人が、あの最強と謳われた、『伝説の理想郷』を分かるはずがない。


 伝説の理想郷は、リメイク前の『エタドリ』の世界で、数多の『イベントクエスト』や『ギルド対抗戦』、『ギルド別イベント』、『個人イベント』まで、たった十人で、ランキング上位を独占していた。

 少数派ギルドであり、最強の十人でもある。ランキングを気にする人なら、知らない人はいないと思うほど有名な人たちである。


 実のところ、ヒロさんもギルドメンバーの一人だった。


 『ギルド対抗戦・本戦』での、優勝回数は数知れず。『ギルド対抗戦』において、勝率を九割を占めていた。


 なかには、発売当初から、イベントの個人ランキングでTOP3を維持している人もいた。


 実のところ、僕は勧誘をされたことがある。

 ギルド内に苦手な人がいたのもあるのだが、なにより目立つのを嫌い、断った。


「やってないんですか? なのに何故、伝説の理想郷の事や僕が勧誘をされていた事なんて知っているんですか? 僕が勧誘を受けていた事なんてごく一部しか知らないと思うんですが」


「それは、ドミニデスを倒した後に教えてあげますよ」


「えぇ……。わ、分かりました」


 少しモヤモヤするが仕方ない。


「では、最後にもう一つ。今、プレイヤーのレベルの上限は35だと思われます。ドミニデスがそれ以上上がらないと言ってました」


「そうなんですね。今の僕のレベルが22なので、13のレベル差があるか。厳しいかなぁ」


 橘さんはふふっと笑い。


「では、トワ君に僕からのプレゼントです。これを使って下さい」


 橘さんに渡されたアイテムを受け取る。


「これは、『経験値大量クエチケットLv2』じゃないですか。受け取れないですよ」


「トワ君、君はスキル取ってないですよね? そんな事じゃあ、ドミニデスには勝てません。ドミニデスは、相手にデバフを与えつつ攻撃してくる、厄介な相手です。

 それに一番厄介なのは、対象にした相手のレベルを1奪う『恩寵スキル』、『盗星とうせい』というスキルです」


 恩寵スキルはそんな事まで出来るのか。ステータス上昇も厄介だが、スキルの方もかなり厄介だ。レベル1奪うってもはやチートじゃん。流石にCTはあると思うが長期決戦になればなるほど、レベルを奪われてこちら側は不利になると言う事だな。


 レベル35から上がらないって言うのであれば、レベルの上限が35っていうのも頷ける。


「チートスキルじゃないですか。食らわないようにしなきゃですね。なら、ありがたくいただきますね。ありがとうございます。僕もスキル取ろうかな」


 僕は取得可能なスキル一覧を確認する。


 すると、橘さんが、


「ついに、スキルを取得をするのですね。いい方法があります」


「いい方法? なんですか?」


「僕は今まで、色んなスキルを使ってきましたよね?」


「えぇ。そうですね」


「ですが、実は僕は、二つのスキルしか取得していないのです」


「えぇ!? たった二つだけ!? なのになんで、あんなにスキルが使えるのですか?」


 橘さんは眼鏡をクイっと上げ、


「まず、僕が取得した、アクティブスキルは『グランドウェーブ』と『泥人サモン形召喚ゴーレム』の二つです。

 この世界では、自分の力で習得したスキルは、スキルポイントを消費しなくても使えるようになります。

 スキルポイントを消費して使えるようになったスキルを『取得』と呼び、自分の力で、イメージで使用できるようになったスキルを『習得』と僕は呼んでいます」


「自分で習得したスキル? 自分の頭の中でイメージしたスキルが、一度でも使ってしまったら、そのまま使えるって事ですか?」


「間違ってはないが、少し違う。僕も0からスキルを出すことも試したが、出来なかった。

 結局は基本スキルから、派生させていくイメージなんだよ。

 

 例えば、僕のスキル『グランドウェーブ』を、基本スキルと考えるんだ。

 『グランドウェーブ』を使用中に、『土の槍を相手に突き刺す』みたいなイメージを頭の中でして、技名を言うと、あら、不思議、自分のイメージした通りになるのですよ。

 まあ、器用さは必要ですがね。そのスキルは自分で『習得』した事になるのですよ。

 もちろん、習得したスキルを使うにはMPは消費するし、CT《クールタイム》も発生する」


「あーー! なるほど。一つのスキルからどんどん派生していけばいいのですね。その発見は凄いですね。ありがとうございます。僕のスキル開発に利用できそうな気がします」


 この発見は本当に凄い。スキルポイントの消費を抑えることもできるし、基本スキルの『ファイアーボール』や『ウィンドボール』などの基本スキルを取得し、そこから派生していけば、全属性の色んなスキルや魔法を使えるようになるかもしれない。


 そういった仕組みなら、新しいアイテムも開発できるかもしれない。


 僕は物を作ったりするのは好きなので、研究や開発は楽しみになってきた。


「理解してもらえて光栄です。ワクワクするでしょう? 基本スキルから派生させる。です。頑張って下さい。まあ、あくまで、僕の推理なのであしからず」


「いやいや、面白い発見ですよ! んーー。なんのスキルにしようかな。ドミニデスに対抗できるようなスキルがあるかな?」


 ぶつぶつ独り言をいいながら、スキル取得可能一覧を見ていると、ふと、一つのスキルを思い出した。


「そういえば、この前貰った、スキルの書『反撃ダメージカウンター』も基本スキルって事だよな? なら、これを派生させれば強いスキルになるんじゃ……」


「何かスキルの書を持っているのですか? スキルの書で取得できるスキルなら、派生できるかもしれませんね。何か考えがあるのですか?」


「正直できるかは分かりませんが、やってみる価値はあるかなと」


「そうですか。なら楽しみにしておきましょう」


 僕はスキルの書『反撃』をゲームパッドから取り出す、スキルの書は漢字辞書のように厚い本みたいだ。


 あれ? まず、どうやって使うんだろうか。取り出したのはいいが、本を開いても何も起こらない。


「すみません、橘さん、スキルの書はどうやって使うんですか? 取り出したんですが、使い方が分からなくて……」


「スキルの書はゲームの時のように使えますよ。ゲームパッドに直して、覚えたいスキルの書を選択して、『使用する』を押せばいいですよ。あとはスキルポイントを消費して使えるようにして下さい」


「あ、これは普通にゲームみたいに使うんですね。ありがとうございます」


 取り出したスキルの書を僕は赤面しながら、ゲームパッドに戻す。


 橘さんに言われた通りに、スキルの書を『使用する』を選択する。突然ゲームパッドから、微少の青白い光が僕に入り込む。


 僕はスキル獲得可能一覧を確認していると、『反撃』があった。スキルポイントを消費して、取得した。


 すると、使った事がないのに、何故か使い方が分かるような、懐かしいような、不思議な感覚になった。自分でも何を言っているのかは分からないのだが。


「なんだろう。この感覚。これがスキルを取得するってことなのかな。僕の初めてのスキル。なんだか嬉しいな」


 初めてのスキル、『反撃』を取得した僕は、嬉しさを噛み締める。


 泥戦車はガタガタ言わせながら、道なき道を走り続けた。

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