第29話 恋のライバル!?
紅葉さんが消えたのを確認した僕たち。いよいよ、ドミニデス帝国と直接対決だ。
「よし、もう大丈夫です。リーフィス王女、お膝ありがとうございました。おかげさまで落ち着きました」
子どものように泣きじゃくっていた、ジークさんが泣き止んだようだ。それを見た、リーフィス王女は、安堵の表情を浮かべた。
「どういたしまして。ジーク様もありがとうございました」
「では、改めてご挨拶を。初めまして、ジーク王子。僕は橘と申します。以後お見知り置きを」
橘さんは軽く会釈をし、挨拶する。ジークさんも返すように、
「初めまして、アーティダル王国のジーク・アーティダルです。橘さんに助けて頂いたみたいで。本当にありがとうございます! この御恩は忘れません! 必ず報いて見せます」
「別に構いませんよ。たまたま通りかかっただけです。それに、トワ君とギルド対抗戦の約束もできましたし、楽しみが増えました」
「ギルド対抗戦、少し興味がありますね。橘さんと戦えるのであれば、手合わせ願いたいです」
リーフィス王女は立ち上がり、橘さんの方へ近づき、
「改めまして、助けて頂きありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいです。橘様は何か欲しい物はありませんか? 私にできることがありましたら、お役に立ちたいです」
「欲しい物ですか。そうですね〜。……今は思いつきませんね」
リーフィス王女はもじもじしながら、
「そうですか、何かありましたら何でも仰って下さいね。用意させて頂きますね。あと、……橘様は年下女性は……その……恋愛対象になりますか? きゃっ! 言っちゃった!」
そのリーフィス王女の言葉に、ジークさんが反応しない訳がなかった。
「リ、リーフィス王女!? それはどういった意味でしょうか!? もしかして、橘さんの事が……」
「うふふ。惚れましたわ」
「がぁぁあ。あぁぁぁ。そ……そんなぁ」
ジークさんは、この世の終わりのような顔をして、固まってしまった。
早く想いを伝えないと取られてしまうぞ!
橘さんは、顔をにんまりしながら、
「ありがたき幸せ。年下女性ですか。もちろん、恋愛対象になりますよ。とくにリーフィス王女のようなお美しい方なら特に」
橘さんは絶対ジークさんの気持ちを知りながら、わざと言ったな。橘さんの性格の悪さが滲み出ている。
橘さんはジークさんの方を向き、勝ち誇ったように鼻で笑ってみせた。
「本当ですか。橘さんに振り向いてもらえるよう、私頑張りますね」
「トワさん。橘さんとギルド対抗戦行う時は、絶対に俺も呼んでくださいね。フルボッコにして勝ってみせます!!!」
ジークさん危うし。僕はジークさんを応援しようと思う。
「分かりました。絶対に勝ちましょうね。二つの意味で」
すると、奥の方からアルダー王が姿を現し、
「皆のもの、力になれず、すまなかった。俺もまだまだ未熟だった。それで今はどういった状況かな?」
「では、
「え? 僕はトドメだけですよ。美味しい所頂いただけですし」
「おぉ。あの者を倒したのか、礼を言う。次はドミニデスという男だけか」
橘さんは続ける。
「左様でございます。そして今から、動ける者でドミニデスを倒しに行こうと思います。ドミニデスの側近が残り三人います。三人とも手練れでございますので、人数は多い方がよろしいかと」
「うむ、なら、ジーク殿に頼まれていた事もあるし、我々の群も力を貸そう。俺も少し休んだらそちらに向かう。先に向かっててくれ」
「ご理解頂き光栄です。では、参りましょう」
リーフィス王女は少し大きい声で言う。
「父上、私も一緒に行ってもよろしいですか?」
「リーフィス。気持ちは分かるが、リーフィスでは経験不足だろう。橘殿の足を引っ張ることになる」
「僕は構いません。ドミニデスと戦うのは僕とトワ君でやればいいので、問題ないでしょう」
「そうか。橘殿がそう言うのであれば構わんが。リーフィス。くれぐれも無理はするなよ」
「はい、父上! ありがとうございます」
その言葉に勢いよく声を上げた者がいた。そう、ジークさんだ。
「俺も行きます! リーフィス王女は俺が……。俺が……。次こそは守って見せます!」
「う、うむ、ジーク殿も頼んだぞ。では、橘殿、トワ殿、アーティダル王国を頼みましたぞ」
「はい!」
「えぇ」
___________
話が終わり、城内から出て僕たちはドミニデス帝国に向けて、出発しようとしていた。
「ここからだと、ドミニデス帝国はどのくらい時間かかるんですか?」
僕の質問にジークさんが答えてくれた。
「俺が近道を知っているので、そこから行きましょう。普通は一時間くらいかかるんですが、四十分くらいで着きます」
すると、橘さんは鼻で笑い、
「僕のルートだと二十分で着きます。四十分もかけられません」
「そんな、ありえない! 片道四十分でも十分早いのに、二十分で着くなんておかしい!」
「まあ、任せて下さい。こういうのは得意なんです」
「二人ともありがとうございます。早く着く方がいいですね。お願いします」
歩いて片道、四十分かかると言っているのに、二十分で着く方法なんてあるのだろうか。橘さんは大人なので何かいい考えがあるに違いない。そう思っていると、
「『グランドウェーブ』」
スキルの『グランドウェーブ』を使い、全長三メートルくらいの箱型の泥を作り出すと、大剣を使って器用に削り始めた。二、三分待っていると、泥と土で作られた、戦車のような、車が完成した。その完成度に思わず、
「かっこいいですね! 完成度たっけーっす! でも、これ動くんですか? 材料って砂と泥ですよね?」
「動きますよ。時間があれば、アイテムを使ってエンジンとか作るのですが、時間があまり残されてないので、今回はこんなものでいいでしょう。僕が動かすので気にしないでください」
「分かりました。お願いします」
ジークさんとリーフィス王女は出来上がった、車を見て、驚いた仕草を見せた。
「こんなの、初めて見ました。さすがは橘様です。頼りになります」
「この泥の……」
ジークさんが話そうとすると、橘さんはそれを遮り、
「では、みなさん乗り込んで下さい。トワ君、アーティダル王国を取り戻したら、僕たちと本気のギルド対抗戦ですよ? 忘れないで下さいね?」
「はい、もちろんです。次は負けません。まずはギルドを作る所からですね」
「約束です。では乗り込んで下さい。食事などは用意してありますので決戦の前にどうぞ」
「「ありがとうございます」」
僕は泥戦車に乗り込もうとすると、
《今の……なら、この……を使えるはずです……。きっと。この……で……を救って。……を信じて》
僕の脳内に謎の人物の言葉が響く。
(まただ。やっぱりこの前のも気のせいじゃなかったんだ。一体誰が)
「トワさん? どうかしました?」
「はい? すみませんジークさん、何か言いました?」
「いえ、急にボーッとしてたので……。大丈夫ならいいのですが、無理はしないでくださいね」
「はい、すみません、ありがとうございます」
僕たちは泥戦車に乗り込む。
「では、出発しましょう。少々荒い運転になりますので、気をつけて下さいね」
橘さんは、スキルで泥戦車を動かすと最初は遅かったのだが、どんどん加速していき、三十秒も経つとものすごいスピードになった。橘さん以外の三人は泥戦車の内部で激しくぶつかり合った。
「いたたぁ! どこが少々荒い運転ですか! どこを走っているんですか!?」
僕は思わず言った。すると、
「森の中を突っ切っています。この方が早いので」
「まじですか……」
こんな調子でドミニデス帝国に向かうのだった。
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