第28話 トワ=オリジン
※残酷な描写あり
【伝説の理想郷】か。また懐かしい名前が出てきたな。模擬戦をこんなにも楽しみにしてくれていたのか。橘さんはリメイク前をやっていたプレイヤーなんだろう。それは大変申し訳ない事をしてしまった。
「まあ中身を見てしまえばまだまだ二人は子ども。納得できる部分はあるから仕方ないと思うようにはしたんだけどね。だから、今度は本気でやり合いたいんだ。トワ君は色んな迷いがあるように見えるし、自分のことより他人のことを優先してしまう。そんな君の実力を引き出そうと思い、こんな回りくどい事をしたんだ。悪かったね」
「いえ、橘さんは悪くないです。橘さんはギルド対抗戦の時に、『本気でやり合おう』って言ってましたね。それなのに僕はまともに戦えなかった。その件は本当にすみません。あの時は色々迷いがありまして……。また機会を作って頂ければ、次は僕の実力を出し切って戦わせてもらいますので、今は僕たちに力を貸して下さい」
「あぁ。いいよ。交渉成立だ。とりあえずトワ君は自分にもう少し素直になっていいと思うよ。君は遠慮しすぎだ」
「分かりました。この性格も直していきます。リーフィス王女の件もありがとうございました。本当に助かりました」
「うん。とりあえず、今は早く、お姫様のキスで王子様を目覚めさせてあげよう」
「立場が逆ですね! 長いことジークさんとリーフィス王女を放置してしまいましたね。すみません」
「いえ、私は大丈夫です。ジーク様を戻すにはどうすればいいのでしょうか?」
「暴走した王子はお姫様のキスで、落ち着きを取り戻すって相場で決まっています。さぁ、キスを」
「そんな相場聞いたことがないんですけど。リーフィス王女、デタラメですよ」
それを聞いたリーフィス王女は安堵した様子だ。
「やれやれ、面白いものが見れると思ったのですが。リーフィス王女が死んだかと思って暴走したのであれば、生きていることを見せて安心させればいいのでは?」
僕もそう思う。橘さんの言葉にリーフィス王女は恐る恐るだが、ジーク王子に近づいた。
「ジーク様。私は無事ですよ。私のために戦ってくださりありがとうございます。元の優しいあなたに戻ってください」
「がぁぁぁ!!! あぁぁ。……。フィス……。いき……か」
取り乱していた、ジークさんは徐々に落ち着きを取り戻していく。城内の温度も少しずつ下がっていくのが分かる。
「そろそろ、砂の城を解除してもいいんじゃないですか? ところで、橘さんは『恩寵』について何か知っていますか?」
「王子の『太陽の恩寵』は初めて見たね。だけど、『恩寵』についてなら、少しだけ分かるよ」
「ほんとですか! 教えて下さい」
「少しだけだよ。ドミニデスも『恩寵』を使っていたからね」
「ドミニデスも恩寵を使うのですか」
「ドミニデスは『支配の恩寵』といって、条件は知らないが、ステータスがUPしていたね。あと相手の感情を支配できるらしい。そして、恩寵持ちだけが使える、特殊アクティブスキル。それが『恩寵スキル』と言われている。『太陽の恩寵』と『支配の恩寵』二つの恩寵が分かったけど、まだ色んな種類があるだろうね」
やはり、色んな恩寵があるのか、ステータス上昇量もかなり高いし、恩寵スキルって呼ばれるものもあるのか。チートのように思えてくる。結局の所、エタドリは自分でスキルなどは作れるが、新しいスキルが作成されたら、運営がお知らせにて通知してくれるのだ。それにしても知らないスキルが多すぎる。ここは僕たちが知っている、エタドリの世界ではないのかもしれない。
「なるほど、厄介ですね。情報ありがとうございます」
砂の城を解除する橘さん。ジークさんはその場に倒れ込む。気絶しているのだろうか。髪の毛も元に戻った。ジークさんを優しく抱くリーフィス王女。
「さて、王子も元に戻りましたし、ずっと放置されて可哀想な、紅葉君の話し相手になってあげましょうかね」
再び、『グランドウェーブ』を展開する。
「『
グランドウェーブの中から、砂の蛇が現れて、紅葉さんの足に噛み付き、宙に浮かせながらこちらに寄せた。
「いってっ! 足がぁ!」
「その言葉が遺言でよろしいですか?」
「いいわけねぇだろ! てか、橘! てめぇ! 裏切ったのか! 俺が一緒に国を潰そうって言ったら、『いいでしょう』って言ってたじゃねーか!」
「裏切ったとは? 確かに言いましたが国っていうのは、ドミニデス帝国の事ですよ。それに、僕は嘘はついていません」
そういえば、紅葉さんと一緒に僕たちを尾行してたって言ってたな。
「ちゃんと、あなたと一緒にルルード王国にちゃんと来たじゃありませんか。潰すっていったってルルード王国を潰すとは、僕は一言も言ってませんよ? 勝手に都合の良いように解釈しないでください。不愉快です」
「くそがっ! なら、俺が戦っている間はどこに行ってたんだ? やることがあるって言っていなくなったが」
「あぁ、それならそこの裏側で、姫様に事情を伝えて、血糊と姫様のお人形を作っていました」
「お前は最初から、ドミニデスを裏切ってたんだな。ちくってやる」
「どうぞ、ご自由に。なんならドミニデスにも側近の方々も薄々勘づいていると思いますがね」
二人の会話を聞いて、大人って怖いなと思ってしまう。
「そうかよ。お前はどうするつもりなんだ。ドミニデスを敵に回して勝てるとは思えんぞ」
「僕が勝つ必要はありません。ここにいる、トワ君が彼を倒すので、大丈夫です」
「えぇ!? いや、恩寵持ちの人に僕一人じゃむりですよ!? やれるだけやってみますが」
「こんな弱虫なガキに何ができるって言うんだよ……」
「僕は信じてますよ。彼ならやってくれるって」
「あ、ありがとうございます……」
そこまで言われてしまったら、嬉しいに決まっている。期待に応えるしかない!
そんな事を思っていると、
「あ、あれ? ここは……? 俺は何を……」
ジークさんが目を覚ましたのだ。
「ジーク様! お目覚めですか? 良かったぁ」
「リ、リーフィス王女!? そっか……俺は死んだのか……。リーフィス王女。僕がいながらあなたをお守りできなかった……。不甲斐ない僕をお許しください」
ジークさんは今の状況をいまいち飲み込めてないらしい。暴走して意識がなかったのだから、仕方ないのだが。
「私は死んでません。ジーク様も私を死んだ事にするのですね。もう知りません」
「ジークさん、意識が戻ったのですね。リーフィス王女は生きていたのですよ。ここにいる橘さんが助けてくれました」
「え? 生きて……。そうですか……。良かった。良かった。うわぁぁぁ」
意識が戻ったジークさんは泣き出してしまった。それはもう、泣きじゃくる子どものように。リーフィス王女はジークさんを慰めている。
「挨拶をしたかったのですが、まあいいでしょう。とりあえず、トドメを刺しますか」
「そのトドメ、僕にやらせてもらっていいですか?」
「ほう。構いませんが、どういった風の吹き回しですか?」
「なんていうのでしょう。まあ、自分を戒めるって意味もあり、後戻りも、できないようにする……っていう感じですかね? まあ同じような意味かもしれませんが……。僕は前に進んでいきたいんです」
「分かりました。君も前に進もうとしているのですね。僕としては嬉しいものです。どうぞ、お好きにトドメをさしてください」
「はい、ありがとうございます。では、紅葉さん。僕が前に進むための礎となって下さい」
僕はそう言うと、紅葉さんの元へ近づく。
「俺を倒したところで状況は何も変わりはしない。まあお前がドミニデスに挑むのであれば、止めはしないがな。あいつが使用する、スキルには気をつけろよ」
「なに、最後だけいいやつ風になっているんですか? ギャグですか?」
「橘さん容赦ないですね。アドバイスだけ受け取っておきます。紅葉さんには散々な目に遭わされましたからね。では、また」
僕は剣で紅葉さんの首を切断した。すると、光の粒子となって飛び散った。
もう僕は逃げない。前に進むんだ。これが僕なりの戒め。己を偽らずに本当の自分をだしていく。ここからが、僕の物語の始まりだ。
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