第27話 敵か?味方か?
「橘さん!?」
「はい、橘ですよ。何やら楽しそうなことをしてますね。僕も混ぜて下さい。それにしても、あの暑苦しい方はどちら様ですか?」
「いや、楽しいことをしている訳じゃ……。アーティダル王国の王子のジークさんです。いきなり、紅葉さんが現れて、リーフィス王女を目の前で殺されてしまって……」
「ほう。リーフィス王女様が目の前で殺されてしまったと。それでトワ君も『許さない』とか言って、怒って戦っていたんですね。嬉しいですね」
何が嬉しいのか全く理解できないのだが……。頭おかしいのか? それに、なぜ色々と知っているんだろう。橘さんも紅葉さん側の人間なのだろうか。
「人が殺されて嬉しいってどうかしてませんか? 僕も目の前であんな事をされて、自分や紅葉さんを許せない状態です。それと、橘さんも紅葉さん側の人間ですか? 今は敵を作りたくないんですけど」
僕の問いに橘さんは微笑みながら言った。
「あっははは。面白い。僕は君が本気で戦っている姿を見て嬉しくなったのですよ。安心してください。僕は君たちの敵ではありませんよ」
先程の紅葉さんの所為でその言葉を鵜呑みにできない僕。
「その言い方だと、味方でもないって事ですよね? 何しに来たんですか?」
「その通りです。僕は君たちの敵でも味方でもありません。何しに来た。ですか、それは君の返答次第で変わりますね。前に僕が言ったことを覚えていれば、僕が望むことが自ず《おの》として、分かってくると思いますよ」
その言い回しだと、助けて欲しいといえば助けてくれるのか?
前に言われたことは「本気でやりあおう』って部分しか思いつかない。確かにあの時は何もできずに終わってしまった。それは申し訳ないとは思っている。
試しに今の望みを言ってみようと思った矢先、技を放ち終わった、ジークさんがこちらに突っ込んでくる。
「あら、残念。彼は待ってくれないみたいです。少しの間、彼の相手は僕がやってあげます。トワ君には自分の気持ちを整理する時間をあげましょう。サービスですよ」
「あ、ありがとうございます。お願いします」
橘さんは何かを待っているように感じた。くだらないことだが、『ギルド対抗戦』で僕と戦いたいって事だろうか。まあそのことしか話した事がないのだが。
僕は気持ちを整理しながら、独り言をそっと呟く。
「僕の気持ち……か」
ジークさんはこちらに近づき、拳を構える。
「グランドウェーブ」
先に技を使ったのは、橘さんだった。
周りに地面の波が発生する。そして。
「『
ジークさんの全身を砂が囲い、ジークさんの顔と体の一部だけがはみだしている状態で閉じ込め、技名通り砂の城が完成した。高さは二メートルくらいある。
ジークさんは動けず、暴れながら唸っている。
「はい、終わりました。自分の気持ちは整理できましたか? トワ君の答えをどうぞ」
え、早い。あの暴れ回るジークさんの動きを一瞬で止めてしまった。
「じゃ、じゃあ、ドミニデスを倒すまで協力してほしいです。早くアーティダル王国を取り戻したいんです」
「分かった。いいでしょう。では、僕と取引きをしよう。協力してあげることは可能だ。まずは、僕は君の味方になれる安心材料として、君の不安要素を一つ解消してあげよう」
「取引きですか? 僕の不安要素?」
橘さんは眼鏡をクイっとあげ、扉の方を向き、
「もう、いいですよ。入ってきて下さい」
橘さんが向いた方を向いてみる。すると、一人の女性が姿を現した。
「え!? リーフィス王女!?」
「はい、リーフィスです。私死んでないんですけど……。皆様の中で勝手に死んだ事になっていて、複雑ですわ。私は橘様に助けて頂いていました」
良かった……。死んだと思っていた、リーフィス王女は生きていた!
「あー。……すみません。大変失礼な発言を……。で、でも、紅葉さんに首を切られてて、血が出てたと思うのですが、あれはどういうことですか?」
何がどうなっているかは分からないけど、橘さんは分かっていたようだ。この人が何かを仕掛けたのだろう。
「あの血は血糊ですよ。仕方ない。信頼してもらうために、説明しましょう。ビジネスにおいて一番の武器は信頼です。トワ君も覚えておくといいですよ」
「分かりました、お願いします」
「君たちが目の前で見た、紅葉君に首を切られて死んだと思われた姫様は、僕が砂と泥で作ったお人形さんです。つまり、王子もトワ君も僕が作ったお人形を壊されて怒っていたという事です。あんなに怒ってくれるとは。僕も頑張って作った甲斐がありました」
「あれが人形なのですか。でも、動いたり喋ったりしてましたよ? 動くのはなんとなく分かりますが、あの人形は話せるんですか?」
「ただの泥人形が喋るとでも? 仕組みは簡単です。僕のスキル、『
「凄いです。いつから人形と? 橘さんはずっと居て見ていたって事ですか?」
聞きたいことが多すぎて僕は質問を止めずに続けていた。
「紅葉君が大の字になった時です。その時に、僕が作った姫様人形を動かして紅葉君に近づけてさせた。彼の性格上飛びつくと思いましたし。まあ、そうなりますね。君たちがルルード王国に移動している時に、僕と紅葉君は君たちを尾行していたのです。なので、結構早い段階でここにいました」
なら、早めに助けてほしかったんだが。と、僕は強く思う。
「そうですか。長々とすみません。ありがとうございました。凄く……安心しました」
「それは良かったです。これでトワ君の不安要素を取り除けたと思います。では、交渉といきましょう。僕は君たちの味方にも敵にもなる事ができるって事は分かってくれましたか?」
「はい、理解できます」
橘さんは敵に回してはいけないタイプの人間だと確信した。
この圧倒的優勢な状況を作り出すことで、僕は橘さんの頼みを断れないようにしているのだろう。断ってしまったら敵になってしまうからだ。わざとやってると思う。この顔は確信犯だ。
ジークさんが力を込める。砂の城がメキメキと音を立てる。
「砂の城が壊れそうなので、単刀直入に言いましょう。僕は君たちに力を貸す代わりに、僕のお願いを一つ聞いてください」
「分かりました。橘さん、少し考えたのですが、そのお願いっていうのはギルド対抗戦の事ですか?」
「はい、そうです。あの時は模擬戦でしたが、僕はとても楽しみにしていました。たまたま居合わせた対戦相手がリメイク前に、最強の十人で結成された伝説のギルド【
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