第25話 悲痛な叫び
※残酷な描写あり
光が晴れ爆風が収まると、一面は黒く焦げていた。
紅葉さんが投げたのはどうやら爆弾だったようだ。
アルダー王とリーフィス王女は無事なんだろうか。
「リーフィス王女! アルダー王! 大丈夫ですか!?」
ジークさんはアルダー王とリーフィス王女の元へと駆けつける。
「父上! 父上! しっかりしてください! 父上ーー!! 私が近づかなければ……こんなことには……すみません、父上。私のせいで」
「……うぅ。リー……フィス……大丈夫……か? 突き飛ばしてすまな……かった……。気にするな。お前が無事なら……それでいい」
「がーはっはっはー! やっぱりな! 自分の娘は可愛いよなぁ! これがお前の最大の弱点だ! 思った通りに物事が進むと気持ちがいいぜ!」
なんて性格の悪さだ。
僕もゲームパッドから回復薬を取り出しながら近づく。
「アルダー王! 酷い怪我だ。意識をしっかり持ってください」
「ジークさん! これをアルダー王とリーフィスさんに飲ませてください。回復アイテムです。飲ませたら、安全なところまで避難してください」
回復薬をジークさんに二本渡し、剣を構える。
「トワさん。ありがとうございます。恩に切ります。安全な場所に移動させたら俺も戦います。アルダー王。これを飲んでください」
「橘になにもできなかった、ガキに今更何ができる。実はもう一個爆弾はあるんだぜ? 次はアーティダル王国の王子も纏めてぶち込んでやるぜ! あ! 今はドミニデス帝国だったな! 元! アーティダル王国だな! がっははは」
爆弾の件とその言葉に僕の怒りは頂点に達した。
こんなに人に怒りを覚えたのは久しぶりだ。だが、怒った時ほど、冷静にならないといけないって事は、昔やらかした時から肝に銘じている。
怒ったり焦っている時、人は冷静さを失い判断力が鈍る。
「許せない。僕が相手だ!」
「別に許してくれなくていいさ。さて、HPの回復も済ませたところだし、ガキの相手でもしてやるか」
「プリセット変更! プリセットNo.《ナンバー》3!」
僕はそう叫ぶと、プリセット3に登録していた、装備に変わる。
名前 TOWA レベル19
職業 ナイト
装備枠1
武器 黒曜の剣
頭 黒曜の兜
体 黒曜の鎧
脚 黒曜の重靴
装飾品 魔法使いの指輪
自分がMPを消費する時、消費量を少し減らす。
ステータス
HP 2600
MP 220
物攻 380
物防 410+10
魔攻 200
魔防 310
素早さ 110
次のレベルまであと2100
パッシブスキル
物理ダメージ軽減Lv3
物理ダメージを受ける時ダメージを10%軽減する。
熱耐性Lv3
火属性耐性が7上がる。さらに、かなりの寒さを凌ぐことができる。
物理防御上昇Lv2
物理防御力が10上昇する。
黒曜の守りLv4
火属性の被ダメージを10%軽減し、受けたダメージに応じて自分のMPを回復する。
「これが今の僕の全力のステータスです。紅葉さんには劣りますが、少しはましになったかと思いますよ」
「ステータスだけは普通だな。それに装備を強化する事とスキルの事は理解しているようだな。いくぞ!」
黒曜シリーズ。初心者にオススメでき、生存スキルが盛られた防具である。
ゲームの世界では採掘を行う事で手に入れることができた、鉱石などを使用し作成できるものだ。
見た目はゴツゴツした黒い鎧である。端の方に赤い線があり、少し熱を帯びている。
とりあえずデスペナルティを受けることを減らすために防御面にステータスを振ってみた。
デメリットとしては重いので素早さが下がってしまう。
フルダイブで装備してよく分かるのだが、ゴツゴツしているので動きにくい。それにちゃんと重さもある。
僕一人では紅葉さんを倒せるとは思えない。ジークさんがこちらに来るまでの時間稼ぎをするつもりだ。
「一応、ゲームは好きですからね。そんな基本なところは抑えてるつもりです」
アクティブスキルは何一つ取っていないので、攻撃スキルなどは使えないけども。紅葉さんは物理で火属性を好んで使う。なので、黒曜シリーズとの相性は悪くない。
紅葉さんは剣を構えながらこちらに走ってくる。
ゲームパッドからアイテム、『
「さぁ! この俺の攻撃をいつまで耐えられるかな? 『
剣から鋭い炎の刃が現れる。紅葉さんとの距離は大体三メートル。技を仕掛けるにはまだ遠い。もう少し引きつけよう。
二メートル、一メートル、よし! 今だ!
先程手にしていた、閃光石を紅葉さんの足元に叩きつける。叩きつけられた閃光石は眩い白い光を放つ!
僕は、目を腕で押さえる。
「うわっ、、!? 眩しいぃ。アイテムなんて卑怯だぞ! 正々堂々戦えよ!」
「爆弾を使った紅葉さんには言われたくないですね。すみませんね、僕は元々卑怯者なので。どんな手を使ってでも勝ちたいんですよ。勝たなければならないんです」
紅葉さんの視力が回復する前に僕は、背後に回り込み切り裂く。
「ぐっっ? くそがぁぁ!」
視力が戻っていない、紅葉さんは後ろを振り向き適当に剣を振り回す。何も見えてない状態で背後から攻撃されたらそういった行動するしかない。だからよみやすい。
僕はまた後ろに回り込み剣を突き刺すと、紅葉さんは吹き飛んだ。
鎧が硬くて貫通しなかった。だが、ダメージはある。物理攻撃が当たらないのであれば、紅葉さんが次に繰り出す攻撃は……『爆炎熱波』だろう。
僕はゲームパッドから自分のMPを消費して攻撃できるアイテム、『
「くそぉ。ちょこまかとぉ。『爆炎熱波』!』
やはりな。そうくると思っていた。迫り来る炎の中、『魔法放出砲』のスイッチを押す。すると、僕のMPがどんどん減っていく。消費するMPが多いほど、相手にダメージを大きく与えるのだ。この攻撃は自分のステータスや相手のステータスに関係なくダメージを与える。固定ダメージに近い仕様だ。
「マジック・パワー・ディスチャージ!」
『魔法放出』砲の穴から紫色の光が溢れ出す。
「何をするつもりだ!? スキルもろくに使えねーガキに何ができるって言うんだ!」
「スキルを習得しなくても、レベルが低くても、工夫すれば戦えるんですよ。まあ臆病者だとか卑怯者だとか言われますけどね。では、いきます」
炎がこちらに近づいてくるのを確認し。
「ファイヤーーーーーー!!!」
紫色の光が紅葉さんに向かって発射される。
僕は『爆炎熱波』のダメージを受ける。僕はそれを狙っていたのだ。
パッシブスキル『黒曜の守り』の効果で僕は火属性のダメージを10%軽減しつつ、受けたダメージに応じてMPを回復するので、『魔法放出砲』を放ちながらMPを回復する事ができる。
回復した分もエネルギーに変わるのでダメージが上がるのだ。
「やっと目が見えてきた。な、なんだこれは!? ぐわぁぁぁっっ!?」
紅葉さんに直撃した、『魔法放出砲』は紫色で円形状に広がるように轟音とともに爆発する。城内は黒煙に包まれる。
まあ僕の職業はナイトでMPは低い方なのでダメージは期待はできないのだが。『魔法放出砲』は使い捨てアイテムなので壊れてしまった。
「トワさん! 凄い爆発でしたが大丈夫ですか? あ、あれ? トワさんがやったんですか?」
「そうですが、アイテムの力です。今の僕はスキルがないのでアイテムを使わないとろくに戦えないんですよ。アルダー王とリーフィス王女はご無事ですか?」
「はい。トワさんから頂いた回復薬で回復したようです。まだ戦えるほどではありませんが」
「命に別状がなければ良かったです。今の攻撃でも倒せてはないと思うので二人で戦いましょう」
「分かりました。アルダー王の仇は俺が取ります」
アルダー王まだ死んでないわ! っとツッコミたい。
黒煙が晴れ、紅葉さんは立ち上がっているのが見え始めた。
「い、いてぇなぁ。なんなんだいまのは。光が見えたと思ったら爆発しやがった。HP回復してて良かったぜ」
ジークさんは、紅葉さんの姿を見るとすぐに、槍を構え走り出す。
「 お前は許さない。俺が倒す! 『ウィンド・ダッシュ』!」
ジークさんの
あっという間に、紅葉さんの背後に回り込み、ジークさんは、加速した状態で回し蹴りをする。
「次は、なんだ!? ガハッ!」
蹴り飛んだ、紅葉さんをジークさんはスキルを巧みに使いこなし回り込んでサッカーボールのように蹴りまくる。
「な、なんだ!? 何が起こっているんだぁ!? 次から次へとっ!」
上に蹴り飛ばした、ジークさんは槍を紅葉さんに向ける。
「『ドラゴンスピア』!」
ジークさんの槍の先から赤い竜の顔と首が現れる。その竜が咆哮すると、紅葉さんは地面に強く叩きつけられた。
紅葉さんのHPを確認するが、レベル差と装備の差があるので、まだ三割くらい残っている。
「なんで、お前たちはこんな酷いことができるんだ! 俺たちが何をしたって言うんだ!」
ジークさんが感情を込め訴える。悲しみや怒りが入り混じっているように僕は感じた。
「うるせぇ! 俺が知るかぁっ!」
ジークさんは突き飛ばされる。
「ジークさん大丈夫ですか? 怒るのは分かりますが一回落ち着きましょう」
「す、すみません。そうですね……」
「くそぉ。HPを回復しても疲れは取れねーか。蹴られたせいで全身いてぇしよぉ。二対一じゃあ俺に勝ち目はねーよ。悪かった。俺の負けだ。降参だ」
諦めたのか武器を捨て、大の字になる紅葉さん。
ジークさんは苛立って様子で言う。
「なら、さっさとこの国から出ていくんだな」
「もう、悪い事はしないで下さいね」
「あぁ。そうだな、改心するよ。迷惑かけて悪かったな」
紅葉さんも改心してくれるそうで良かった。
「ジーク様。トワ様。ご無事ですか? 倒せたのですね。流石です。トワ様、貴重な回復薬を頂き、ありがとうございました」
走って出てきたのはリーフィス王女だった。戦闘疲れがあって僕は気づくのが遅かった。
「リーフィス王女! まだ来ては行けません。後ろに下がって下さい」
後ろの方で誰かが倒れ込む音がしたので振り向く。
「ジークさん!? 大丈夫ですか!? リーフィス王女は後ろに下が……あっ!」
紅葉さんが片腕でリーフィス王女の首を絞めつけ、もう一つの手で首元にナイフを押さえつけていた。
「バカ共め! 俺がこんな事で諦めるわけねーだろ。散々バカにしやがって、この女の命が欲しけりゃ、土下座して謝るんだな!」
改心したと思った僕が馬鹿だった。紅葉さんは根から腐っていた。少しでも動いたらリーフィス王女の命が危ない。どうすればいいんだ。
「くそぉ! リーフィス王女を離せ! その人は関係ないだろ!」
紅葉さんはニヤッと微笑み。
「離せ? 言葉遣いと態度がなってないんじゃないか? 王子様?」
「ジーク様! 私のことはいいのです。貴方は王子として、国を……みんなを守って……」
「うるせーよ。人質が喋るんじゃねーよ。ぶっ殺すぞ!」
ジークさんは土下座をして。
「……くっ。そ、その子を……離してください。お願いします」
「がははははーーっ。おもしれー」
ジークさんの頭を踏みつける紅葉さん。
「まあ十分楽しんだし、俺はトンズラさせてもらうぜ」
リーフィス王女を人質にしながら、ゆっくり少しずつ出口に近づく。
次の瞬間。
「じゃあな、お姫様を守れなかったダメ王子」
紅葉さんは持っていたナイフでリーフィス王女の首をかき切ると、リーフィス王女から大量の血飛沫が舞い、それを見たジークさんの悲痛な叫びが城内に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます