第21話 厳しさの裏にある優しさ
《ト……ワ……ん。なか……と……さん。こ……せか……を……人……を…………で……救…………い》
翌朝。
誰かに話しかけられたような気がしたので、僕は目を覚ます。周りを見渡してもグーファーさんがいびきをかきながら寝ている。
何か言われていたと思ったのだが、グーファーさんのいびきだったのかな?
腑に落ちはしないが納得することにして僕は身支度を整える。
これからの戦いにおいて、こんな装備じゃ戦えないし、レア度4の武器交換チケットなどのアイテムを消費しておこう。
交換チケットの武器などを交換した僕は、そのまま装備をプリセットに登録した。
「アイテムはこれくらいで大丈夫かな。申請してたアクティブスキル出来ているかなぁ。やり方はこれで合っているか不安だけど」
僕が作成申請をおこなったスキルは人のスキルをコピーするスキルだ。
自分でスキルを取る事も可能だが、この世界で生き抜く為には人が取ったスキルをコピーして自分が使えるようになればスキルポイントなどの消費を抑える事が出来るからである。
奪う事が出来ればいいのだが、運営は人の物などを奪う行為や、さらにはループや即死を嫌がっている。それらを考慮すると無理だと察したからだ。
ゲームパッドを確認すると[申請中]の文字が出ているのでまだ受理をされていないのだろう。
「トワさん、おはようございます。お早いですね」
グーファーさんが起きたようだ。
「おはようございます。すみません、起こしてしまいましたか?」
「いえ、そんな事はないのですが……ぐっすり眠れましたか?」
「眠れましたよ。フカフカベットで最高でした。また泊まりに来たいと思います」
「それは良かったです。ぜひまた来て下さい」
「はい。またみんなで来ましょう。そろそろ時間になるので、準備したら行きましょうか」
支度した僕たちは少し早いが待ち合わせの場所へと向かう。
五分ほど待っていると。
「お待たせー! ごめんね、待った?」
「おはようございます。いえ、先程来たばかりですので、待ってませんよ」
「おはようございます。お待たせしました」
ヒロさんとユナさんだった。
「ルナさん、ユナちゃんおはようございます。皆さん揃ったのでザーハックさんたちの所へ向かいましょう」
僕たちは外に出ると、グーファーさんの案内で、街の中を進む。
「あの、人溜まりじゃないんですかね? 結構集まっていますね」
そう言い出したのは、グーファーさんだった。
僕たちは早足で人溜まりの場所へと駆ける。
「ザーハックさん、おはようございます。昨日は急なお願いにかかわらずありがとうございました」
「あぁ、おはよう。俺は構わんぞ。訓練している方がいい暇つぶしになるしな。ちゃんと眠れたか?」
僕は昨日、ヒロさんとの会話の後、訓練のため、ザーハックさんの元へと訪れていたのだ。
「はい、眠れました。僕はみんなの足を引っ張りたくないので。ザーハックさんに訓練して頂いたおかげで、以前よりかは前に進めた気がします」
「なら、いいんだが。強く色々言ったが、強制するつもりはない。足だけは引っ張るなよ。……時間だ。列に戻れ」
「分かりました」
僕はみんなの元へと戻る。
「みんなおはよう。ここからは、ルルード王国かアーティダル王国に向かう、二つの班に分かれてもらう」
そう言うと、ザーハックさんがお前らはルルード王国へ。ここのグループはアーティダル王国へ。と班を分けだした。
そして、僕たちの所へやってくる。
「坊主たちは、俺と同じ、アーティダル王国へと来てもらう。ルナ王女やユナ第二王女を素早く殿下の元へとご案内するんだ」
「分かりました」
すると、ルナさんが、
「あ、あの、ザーハックさん。お願いがあります。わたくしたちは、ルルード王国へ向かいたいのですが」
「え? 構いませんが、どうされましたか?」
「今、わたくしの兄上が応援を呼びに、ルルード王国にいまして。連絡は来ているのですが、嫌な胸騒ぎが……。兄上が心配で」
「分かりました。私はそのまま向かいます。ドミニデスとやらはかなりの強敵と聞きます。そんなやつの相手は私しかできないでしょうから。では、坊主たちは、ルルード王国へ向かってくれ。その後にルナ王女達を連れてアーティダル王国へ来い。その後は坊主たちはウガルンダへ戻って構わん」
「え? 僕たちも戦いますよ。戦わせて下さい」
「ヒロとやらは、戦力になるかもしれんが、坊主。お前は戦えないだろう。俺との訓練の時も剣に迷いを感じたぞ。そんな中途半端な剣じゃまともに戦えるはずがない。判断を迷えば誰かが傷つくだけだ」
「ちょっとー! ザーハックさん! トワ君はやるって言ってるじゃん! さっきの優しい言葉はどこいったの?」
「口だけではなんとでも言える。坊主は戦うのがトラウマなんだろう? そんなトラウマを抱えたやつを守りながら戦える程俺は強くない」
まあ、ザーハックさんの言う通りなんだが。でも、言われっぱなしっていうのも嫌だ。僕もみんなを守れる程強くなりたい。
「……やってみせます。必ず。まずはルルード王国を救います。救った後は、ザーハックさんに僕が戦えるんだ。使えるやつだと見せつけに行きます。来なかったら僕は臆病なまま変わらなかったと見限って下さい」
「そこまで言うならいいだろう。まずは、ルルード王国を守り抜いてみせよ。成長したらアーティダル王国の俺の所まで来い。見せてもらおう」
「はい!」
ザーハックさんはそう言い残すと去っていった。
「ヒロさんありがとうございました。皆さんも僕に成長の見込みがなければ、見限って下さいね」
「そんな事はしないよ! 私は信じてるから」
「そうですわ。最後まで着いていきます。わたくしは連れてってもらう側ですが」
「トワさん。またみんなで宿に泊まりに来てくださいよ。頼りにしてます」
みんなの言葉に涙が出てくる。多分ザーハックさんは僕を試しているのだろう。そう思う事にした。
「では、各自出発だ! 誰一人欠けるなよ。みんなでウガルンダに帰るぞ! 健闘を祈る!」
ザーハックさんの掛け声でみんなが一斉に出発して行った。
「僕たちも行きましょう。ルルード王国はここから近いのですか?」
「ルルード王国は少し離れていますね。ここからでしたら、アーティダル王国の方が近いです。でも、平坦な道が続くのでルルード王国の方が行きやすいかもしれません。時間はここから歩けば二時間くらいですかね」
「なるほど。ありがとうございます。では、グーファーさん。道案内をお願いします」
「任せて下さい!」
「ユナ。大丈夫ですか? また歩く事になります。きつくなればおんぶしますので言ってくださいね」
「はい。分かりました」
僕たちは西側にある、ルルード王国へと向かった。
また森の道が続く。ヒロさんが口を開く。
「ねぇ。ルナちゃんたちは、王国を取り戻したら、その後はどうするの?」
「どうでしょうか。後のことはまだ決めてなくて。どうかされましたか?」
「終わった後、お別れするのもなんだか、寂しいなぁって思って。ルナちゃんたちが良かったら、私たちのギルドを作りたいなって思ってね。
お姫様だから、冒険ってのは難しいだろうけど、ギルドを作ったら離れていても、繋がっていられるかなって」
「なるほど。そうでしたか。わたくしたちもヒロ様たちとお別れになるのは寂しいですわ。でもギルドいいですね。楽しそうですわ」
「でしょう! 前々から思ってたんだぁ。ギルドを作ったら、ギルド別のイベントに参加できたり、模擬戦じゃない、ギルド対抗戦に参加できるし、ギルドハウスを購入したら、みんなで住めたりするからいいことだらけだよ」
「へぇ。そんな事が出来るんですか。ギルドハウスってのは秘密基地っぽくて楽しそうですね」
「秘密基地とか男の子好きそう! グーファーさんも興味あるんだ! グーファーさんもギルドどう?」
「自分はルナ様たちの護衛がありますから、どうでしょうね。ルナ様たちがギルドに入れば、護衛という形で入れそうですね」
「なるほど。全ては、ルナちゃんたち次第だね。お母さんとお父さんを説得させないとね」
「お母様はお好きにしなさいってなりそうですが、お父様がなんて仰るかですね」
「そっかぁ。ギルドマスターはトワ君ね」
「えっ? 僕ですか? いきなり振りますね。ギルドはどうでしょう……。考えておきます」
ギルドに所属する期間が短かった僕は、ギルド慣れをしていない。だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
この戦いが無事に終わったならギルドを作ってみんなでワイワイするのも悪くないのかもしれない。
そんな事を思いながら先へ進む。
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