第22話 ジーク・アーティダル
「見えました。あれがルルード王国です」
ルルード王国の入り口付近に、監視員と思われるプレイヤーが二名いるのが確認できる。
僕たちは、ルルード王国の入口にいる、ドミニデス帝国の仲間にバレないように、森の茂みに隠れていた。
グーファーさんが指を刺す方向を見ると、そこにあったのは、王国とは思えない程ボロボロの城壁だった。
もう、プレイヤーの襲撃を受けてしまっているのだろうか。
「お兄様、どうかご無事で」
ルナさんが心配するように祈っている。
ジークさんが心配だ。先を急いだ方がいいだろう。
「監視役がいるね。中に入れないとジークさんと合流出来ないよ」
「ヒロ様の言う通りですわ。どうにかして入れてもらえませんかね?」
僕は少し考えて思った。みんなが通る必要はないと。
「ルナさん。ジークさんに連絡は取れますか?」
「取れると思いますが、どうなさるつもりですか?」
「まずは、ジークさんの現在地を知りたいです。それと、僕の名前と特徴を送って下さい。あと、ジークさんの特徴を教えて下さい」
「分かりましたわ。送ってみます。お兄様は、逆立った髪をしており、赤と緑色ですね。目つきは悪いです」
「なるほど、ありがとうございます。分かりやすそうですね」
グーファーさんは不思議そうに僕に問いかける。
「トワさんの特徴とかジーク様に伝えたら入れるんですか?」
「前に、ジークさんは身を潜めながら話を聞いていたって言ってたじゃないですか? それってジークさんも何者かに追われていて、逃げ隠れしているって事ですよね? そんな状態で僕たちみんなが行ったところで警戒されるだけだと思いまして」
「なるほど! トワ君、名探偵みたい! でも、ルナちゃんたちが行けば問題ないんじゃない?」
「それは、アーティダル王国のお姫様である、ルナさんやユナちゃんはドミニデス帝国の連中に顔バレしている可能性がありますからね。逃げた事にドミニデスが気づけば、捕まえて帝国に連れて来いと命令がでている可能性がありますので、危険だと思いました。なので、顔バレしていなくて、無名な僕が行けば問題ないわけです」
「そこまで考えてたんだ。流石は、孤高のジーニアス。恐れいるね〜。じゃあ、トワ君がジークさんと合流している間に私たちは何してればいいの?」
「孤高のジーニアスはいいんですよ……。僕が中に入っている間は、ヒロさんたちは隠れて待ってて下さい。ジークさんと合流した後、一緒にこちらに戻ります」
「トワ様だけに負担をかけることになりませんか? 何かお手伝いできる事がありましたら、なんでもおっしゃって下さい」
「ありがとうございます。僕なら大丈夫ですよ。人数が少ない方が動きやすいと思いますので。またこちらから連絡しますね」
「了解! 待ってるね」
「ユナちゃん、もうちょっと待っててね。すぐにお兄さんに合わせるからね。では、行ってきます」
「はい。お願いします」
初めてユナちゃんから返事が返ってきた気がする。
「トワ様お気をつけて」
僕は少し後ろに戻り、他の人にバレないように茂みから出た。
僕は、王国の入り口前にいる小太りの方の監視役に話しかける。
「すみません、ここを通りたいのですがよろしいですか?」
「なんだお前は。どこのもんだ。何が目的だ」
「ここ最近エタニティ・ドリーム・ワールドを始めた、新人プレイヤーです。目的? んーー。
「なんだ新人プレイヤーか。通っていいぞ」
「あ、ありがとうございます」
何事もなく通れたので内心焦る。
(こんなにあっさり、通れたなら、あんまり考える必要はなかったな。それとも何かの罠か?)
僕は一礼して中に入る。
とりあえず侵入する事は出来た。
中も外同様で、岩などが至る場所に散らばっている。戦闘があったようにも見える。
僕のゲームパッドが鳴り響く。メッセージが来たようだ。ルナさんからだった。
確認するとジークさんは西側にある、路地裏で待っているとの事だった。ここは南側にあたる。
お礼のメッセージを送ると僕は西側へと進む。
「多分ここら辺かな?」
西側の方は治安が特に悪いのだろうか。砂埃が舞うほどだ。
人が好んで通りそうにないその路地裏を、僕は勇気を出して中に入っていった。
「狭いなぁ。何か匂うし」
思わず声が出る。
路地裏にある、十字路に差し掛かろうとしたその時。
「誰だ!」
声の方を向くと、そこには赤と緑色のボロボロな鎧を纏い、赤い槍を持った青年が立っていた。
背丈は170センチくらいの細身でありながらも、体のラインは引き締まっていてかなり鍛えられているのがわかる。
その野獣のように紅く光る鋭い眼光は、真っ直ぐこちらを睨みつける。
(髪型が逆立ち、赤と緑の髪の色……。この人がジークさんかな?)
「初めまして、僕はトワと申します」
「トワ……ルナが言っていた方ですか。申し遅れました。俺は、アーティダル王国の第一王子、ジーク・アーティダルと申します。ルナやユナは無事ですか?」
良かったジークさんだ。睨みつけられていたので怖い人なのかと思ったが、そんな事はなさそうだ。
「はい、ルナさんやユナちゃんは無事です。僕の仲間とグーファーさんと一緒に外で待ってもらっています。合流しましょう」
「それは良かった……ありがとう。心より感謝します。申しわけないが先に行かなければならない場所があるんだ。合流はその後にしたい」
「分かりました。僕も着いていきます。どこに行くんですか?」
「ルルード王国の城内でアルダー国王が戦っているはずです。それの手助けをしなければ……援助を求め、ここまで来たのですが、俺が来た時には戦場でして。
一緒に戦ってくれる同士を探していたのです。しかし、こちらが追われる身になりまして。不甲斐ない」
やはり、追われていたか。誰も助けてはくれない状況で一人で戦っていたんだ。早く、ルナさんたちと会わせてあげたい。
「仕方ありませんよ。現住民の方もどうすればいいか分からないでしょうし。そこまで距離はありませんが、合流してからじゃいけないんですか?」
「敵の数が多いので、ルナたちを守りながらはきついです。トワさんがいてくれるなら心強いです。あとすみませんが、ここ数日、まともに食事などを取っていなくて……お持ちでしたら、飲食物を分けては貰えませんか?」
「そういう事なんですね。分かりました。あ、そうですよね、そんな暇なかったですよね。こんなんでよければどうぞ」
僕はゲームパッドから、おにぎりとお茶を取り出して渡した。
「何から何までありがとう! 助かるよ」
ジークさんはものすごい勢いで食べ終える。
「ごちそうさまでした! これでまた戦える! では、参りましょう」
「お粗末様でした」
僕とジークさんはダッシュで城内へと向かう。
「足速いですね。俺に着いてこれる人なんて、なかなかいませんよ」
「ジークさんは余裕を感じますが、僕は結構本気ですよ」
ジークさんは風の魔法だろうか。足から薄い緑色の風が出ている。それで加速しているのだろう。移動が楽そうだ。スキルコピーが使えるようになったらコピーさせてもらおう。
「おい! 誰の許しを……ぐわぁぁあ!!」
目の前に現れたプレイヤーたちを、ジークさんは槍で振り払う。
「ここを登った所がお城だよ。城内はかなりのプレイヤーがいるはずだ。気をつけて」
「了解です」
僕はジークさんの後を追うように着いていった。
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