第20話 貿易の街アウラレード
「見えました! あれが貿易の街アウラレードです!」
「えぇ!? このレンガの建物からアウラレードなんですか? ほんとルルード大森林の入り口からすぐでしたね」
そのレンガブロックの高さに驚いてしまう。
貿易の街と付くくらいなので見たこともない物や、物珍しいアイテムがあるだろうと期待してしまう。
「こちらから入れます! さぁ! 行きましょう!」
やたら、グーファーさんのテンションが高い気がする。
遊園地のようなゲートを抜けると、そこには、
珍しい物がないか周りを見渡していると、ゲームパッドからメールが来た。
《貿易の街アウラレードへようこそ》
そんな事が書いてある、メールを開くと。
《初めてアウラレードに到達されたので、【オークション機能】が追加されました。オークション機能を使用して、更にエタドリの世界をお楽しみ下さい。プレイヤーの皆様の冒険のサポートになれるよう新たな機能も開発中です》
オークション機能が解禁されたらしい。もっと先だと思っていたが、こんな早く解禁されるとは思わなかった。
新しい機能の開発ではなく、プレイヤーたちが帰還出来るようにしてほしい。
メールで問い合わせをした事があるのだが、『現在確認中です』などと返信が返って来た。しかも三日遅れくらいでだ。
オークション機能は現実にあるオークションサイトと何も変わらない。ただ、エタドリでは自分で使用しない武器やアイテムなどがオークションに掛けれる。
みんなが平等に出品出来るように、出品は一人につき一日三品が限度となっている。だが、ジュエルを使用する事で一日の出品数が最大で五品までに拡張出来る。
買う方は何個でも自由に買えるようになっている。
オークション機能を使いこなせばお金持ち……ドリー持ちも夢じゃない。さらには、手に入れにくいアイテムや武器も購入出来るので、ゲームパッドをぽちぽちするだけで欲しいアイテムなどが手に入る。
僕はゲーム時代の頃、自分でアイテムを生成していた。生成したアイテムをオークションに出品し、ドリーをそれなりに稼いでいた実績がある。
稼いだドリーでギルドハウスや家具類を購入したりしていた。
この機能は落ち着いた時に使ってみようと思う。
時間を見るともうすぐ、18時を迎えようとしていた。今は春なのですぐに暗くなる事はないのだが、それなりに肌寒くは感じる。
グーファーさんがアウラレードの色々な場所を案内してれた。
中には、カラオケ店や居酒屋、ゲームセンターまであった。最近はピリついた空気になる事が多かったのでいい気晴らしになった。
「日が沈む前に泊まれる宿屋を探しましょうか」
僕がそう言うとヒロさんが続けて、
「だねぇ。早くお風呂入りたーい! 汗かいちゃったー」
「自分、寄りたい旅館があるんですがそこでもいいですか?」
「グーファーさん、この街詳しそうだね。道案内もしてくれたし、私は泊まれるならどこでもいいよー! 案内お願いします」
僕たちは、グーファーさんに着いて行くと。
『
宿屋というよりかは、旅館だろうか? ログハウス風のその建物は、明かりは強すぎず、落ち着いた外観は高級感を醸し出している。
「ここです。入ってください」
「いらっしゃいませー! なん……」
スタッフの人が何かを言いかけるが、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
「お兄ちゃん! 久しぶり! 無事だったのね! 良かった」
「カリン! 久しぶりだな! 元気だったか? 店を任せっきりにして悪かった」
「ううん、そんな事ないよ。お兄ちゃんはお姫様を護衛するっていう立派なお仕事があるじゃない。私の自慢のお兄ちゃんだよ」
「ありがとう。カリンも俺の自慢の妹だ。あ、そうだ、紹介が遅れた。この方たちは、一緒に戦ってくれる、トワさんとヒロさんだ。二人とも心強い味方だ」
「自分がトワです。よろしくお願いします」
話を聞いていると、ここアウラレードはグーファーさんの故郷らしい。
「ヒロだよー! カリンちゃんって言うんだ! よろしくね!」
「いつも兄がお世話になっております。口うるさい兄ですが暖かい目で見てあげて下さい」
「そんな事ないよ! グーファーさんにはいつも助けて貰ってるよ」
「カリン様、お久しぶりですね。お元気そうで何よりですわ」
「お久しぶりです。ルナ王女もユナ王女もお元気そうで。長い旅でかなり疲れているでしょう。代金は兄から貰いますのでお気になさらず、本日はゆっくり休まれてくださいね」
冒険の話などをした後、カリンさんは僕たちをお部屋まで案内してくれた。
部屋を男性組と女性組で分かれ、明日の朝八時に部屋の前で待ち合わせする事になった。
______
僕とグーファーさんは部屋に入ると、疲れを癒すべく、早速温泉に入っていた。
ここの旅館は露天風呂になっている。外の庭は、砂利敷きで数カ所に木が植えてあり、木と木の間に薄暗く光る、ペンダントライトが落ち着いた雰囲気でとてもオシャレな感じだ。
「いい雰囲気ですね。とても落ち着きます。木の匂いですかね? 自然にいるようです。こんないいお風呂に入れるなんて幸せです」
「ありがとうございます。木の種類とか、雰囲気作りや光の演出には拘ったんですよ。分かって貰えたなら嬉しいですね」
「久々にこんなに歩いて疲れていたのですが、癒されました。ところでグーファーさん。少し疑問に思ったのですが、グーファーさんはここが実家なんですよね? 失礼ですが旅館の跡は継がなくてもいいんですか?」
「そうですよ。ここが実家っす。元々はこの旅館の跡を継がなければならなかったんですが自分は、誰かを護れるように強くなりたかったんです。それに適したのが護衛の仕事だったんです。それなのに親父に『お前のような不器用なやつには無理だ。諦めてここを継げ!』などと言われ、頭にきて喧嘩して家を出たんですよ。まあ、親父は自分が出てから数年で病気で亡くなりましたが」
「そうだったんですか。お父さん亡くなられたんですね。すみません思い出させてしまって」
「いいんですよ。後からカリンから聞いた話ですが、親父は自分と一緒に旅館の仕事をしたくてここを継げって言ってたらしいんですよ。不器用なのはどっちだって話ですよね」
グーファーさんの事を少し知れた気がする。もし、グーファーさんが旅館の跡継ぎになっていたら、こうして出会える事はなかったのだろう。
僕はお父さんとは小さい頃に遊んで貰っていた記憶はあるのだが、小学生中学年くらいになると、『男なら大切な人を守れるくらい強くなれ。負けてもいい、下を向くな。歩むのを止めるな。歩みを止めない限り人は負ける事はない』と、当時小学生だった僕には理解が出来ない言葉だった。
お父さんはいつも『お父さんの名言集の一つだ』良く覚えておくようにと。訳の分からない事ばかり言っていた。
単身赴任ばかりで顔を合わせる機会が少なかったが厳しくも優しいお父さんだった。
そんな事を思っていると。
「すごーい! 綺麗な場所だねぇ。素敵!」
女性組がいる、隣の部屋の方からヒロさんの声が聞こえてきた。
「そうですね。今も昔も、お部屋や外のお庭も手入れの行き届いていて気持ちがいいですね。ユナもしっかり洗うのよ」
「はい。ルナお姉様」
「あー! ユナちゃんが喋ったー! 私ともお話ししよう!?」
「ユナは王国でプレイヤーに恐怖心を抱いていまして。怖がりになってしまっているんですよ。本当はお話しするのが好きでよく笑う子だったのですが。ユナ、この人たちは大丈夫ですよ。怖い事なんかしません」
「……はい」
「そっかぁ、びっくりさせたね。大声出してごめんね。今日は一緒にお風呂に浸かって一緒に寝ようね」
露天風呂だからか、声が壁に反射して響くように聞こえてくる。
「ルナちゃんって胸大きいね! 着痩せするタイプ? 触ってもいい? 答えなくても触るけど! ……お姫様ボディだぁ。凄くスベスベしてる!」
「きゃっ!? ヒロ様やめて下さい! くすぐったいですわ。お返しです!」
聞いてはいけない声が聞こえてくる。ふと、グーファーさんを見ると。
鼻血を出しながら今にも天に昇りそうなグーファーさんの姿があった!
「ぐ、グーファーさん!? 鼻血出てますよ! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「大丈夫ですよ……気にしないで下さい。ぐふふ」
「あー! 乙女の秘密を盗み聞きするなんて、トワ君最低!」
「えぇ!? 僕ですか!? 声が響いて聞こえてきたんですよ! じゃ、じゃあ僕たちはもう出ますねぇ! ごゆっくりです!」
僕はグーファーさんを抱え、急いでその場から去った。
______
お風呂から出てから数時間。
僕のゲームパッドの通知音が鳴る。
「なんだろう。この時間に」
ヒロさんからだった。話したい事があるから少し会いたいとの事だった。
指定された場所に着くと、そこには私服姿のヒロさんが牛乳瓶を片手に座っていた。
「あ、トワ君。急に呼び出してごめんね。ちょっと話したい事があって」
「いえ。なんでしょうか?」
ヒロさんのその声は少し、元気がなくどこか苦しそうに見える。声のトーンも抑え気味だ。
「ルナちゃんとユナちゃんと色々お話して改めて思ったんだけどね、ルナちゃんたちの故郷を取り戻してあげたい気持ちが強まったんだ。約束とか復興しようとは言ったものの、本当にできるのか怖くなったり不安な気持ちになるんだ。でも、誰かの当たり前を奪って悲しむ人が出てきてほしくなくて……」
現住民の人からしたら当たり前の日常を、奪ったのは僕たちプレイヤーだ。ヒロさんの言いたい事は凄く分かる。
「ほんとに、ヒロさんは優しい人ですね。……とりあえずやってみよー!」
「……え? トワ君どうしたの急に」
「初めて出会った時に、ヒロさんが言った言葉ですよ。あの時僕もレベル差もありましたし、戦闘をまともにしてなかったので不安でしたが、ヒロさんの威勢があったからなんとかやれました」
「そっか……あんな言葉を覚えててくれたんだね。やっぱり、私の周りの人には笑顔でいてほしいよ。そして、あの二人には心の底から笑って欲しいんだ。今はこんな状況だし仕方ないんだけど、無理に笑ってる気がしてね」
「そうですね。無理をしてるとは僕も思ってました。今は戦闘は避けられず、傷つけあうと思います。この世界の全てとはいいません。作りましょうよ。いつかこの世界のみんなが幸せを願える世界を。みんなが心の底から笑い合える世界を。そして、みんなが手と手を取り合える世界を。今は自分の周りの人たちからでいいと思いますよ。笑っていれば、自然と人は集ってきますよ。それが小さな一歩になると思います。ヒロさんならやれますよ。少しずつでもいい、時間はまだたっぷりあるんですから」
「そうだね。ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。よし! メソメソ下を向いてばかりじゃ、私らしくない! 気持ちを切り替えて頑張るぞー! 無理とは思わず、とりあえずやってみよー!」
「はい。やってみましょう。僕も頑張ります」
「じゃあ、これは話を聞いてくれたお礼ね」
ヒロさんはそう言いながら立ち上がり、頬を赤く染めながら僕にゆっくり近づくと。僕に抱きつき、頬に、唇を触れさせた。
初めてのその感触は、まるで、産まれたばかりの赤子を優しく抱き寄せる、母親の揺り籠のようだった。
「……え…?」
いきなりの出来事に僕が戸惑っていると、ヒロさんは『ありがとね。明日からもよろしくね』と、言いながら、素敵な笑顔笑い合えるを浮かべながら、自分の部屋へと戻っていった。
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