第19話 ラタン村の悲劇
ラタン村に着いた僕たち。ザーハックさんが村長らしき人物と話をしているのが見える。
周りの家や地面は何かに抉られた形跡や焼け焦げた跡もある。
「何かあったのかな?」
「心配ですわ」
不思議そうに話すヒロさんとルナさん。防衛警備団の一人の男性がこちらにら近づいてくる。
「君たち、話がある聞いてくれ」
「なんでしょうか?」
「ここの村長から聞いた話だが、ルルード大森林に生息するモンスターが突如凶暴化し、暴れ出したらしい。その影響で土砂崩れが起きて、村が困っているらしいんだ」
「……そうなんですか。それは大変ですね。モンスターを討伐した方がいいですか?」
「いや、それは我々防衛警備団が引き受ける事になった。君たちは休憩が終わったらアウラレードへ進んでほしいとのことだ。小さいがそこの宿で無料で休ませてくれるから向かいたまえ。よろしく頼んだよ」
「分かりました。お気をつけて下さいね」
そういうと、その男性は一礼しその場を去った。
「何でそんな事を私たちに言ったんだろう?」
「多分ですが、何人か残るけど気にせず進めって事じゃないですかね? 先に進む人が少なくなれば、戦況はこちらが不利になりますし」
「さっすが、トワ君! あったまいいー!」
「いや、褒められるほどのことではないと思うのですが……」
「まあとりあえず、小屋に入らせてもらいましょう。雨も降ってきましたし」
僕がそう言うとみんなで、小走りで小屋へと駆ける。
「失礼しまーす」
その小屋は外見も中身もお世辞にも綺麗とも言える物ではなかった。恐る恐る中の方へ入る。
そこには、小さい子どもや老人の方が身を寄せ合いながら、一箇所に固まっている。
薄暗いその部屋は真ん中に一本のロウソクがポツンと置いてある。
突如一人のお爺さんが話しかけてくる。
「すまんねぇ、若い子たちよ。ここの村は見ての通り何もなくってねぇ。こんな所じゃ休まれないだろうが、ゆっくりしていっておくれ」
「いえ、こちらこそ急にお邪魔してすみません。お言葉に甘えて休ませていただきます」
僕たち五人は老人たちに近づくように座る。子どもたちは、『お腹すいたよぉ』、「寒いよぉ」と呟いている。
近くにウガルンダがあり、少し進めばアウラレードがある。なのに何故ここに住み続けるのだろうと疑問に思ってしまう。
「フラッシュライト」
突然ルナさんが魔法を唱える。すると周りがパァッと明るくなった。
「これは、ルナ第一王女! 挨拶が遅れて申し訳ございません。大きく成られて」
ルナさんの姿を確認した老夫婦が近づきながら言う。
「ありがとうございます。皆様のおかげでございます」
その光を見て、子どもたちも反応する。
「この光、お姉さんが出したの? 凄いね! 明るいねー」
「はい、魔法って言います。魔法は色んな事に使用できて、便利ですよ。いつか使えるようになるといいですね」
ルナさんは優しく微笑みながら言う。
「その魔法で僕たちのお家壊したり、パパたちに酷い事するの?」
その子どもたちの言葉に周りが静まり返る。
「こ、これ! す、すみません。悪気はないんです!」
老人たちは子どもたちを叱りつける。子どもは正直だなと思いながら。
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません。何かあったのですか?」
外の感じを見るとなんとなく察しはつく。これも、プレイヤーの仕業なんだろう。
一人の男性の老人が話をしてくれた。
思った通り、プレイヤーが破壊していったらしい。
この出来事は十日くらい前の事らしい。
こんな小さな村にまで手をだすなんて酷すぎる。
襲撃がある前は、ここの村は作物がよく育ち、お米や野菜などが豊富に作れていたらしい。水も井戸から汲み取れるので生活には困る事はなかったと言う。
そのような面影は今は見えない。
「トワ君、一日でも早く新帝国ドミノデスからルルード王国、アーティダル王国を取り戻そうね。そして、ラタン村を復興させようよ! 私たちプレイヤーがやってしまった過ちを繰り返さないために。これ以上悲しい思いをする人が増えるのは見てられないよ」
「復興! いいですね。これ以上の被害は出さないように必ず食い止めましょう」
「ルナ様、プレイヤーでもトワさんやヒロさんのように優しい方もおられてよかったですね。信頼出来る仲間がいるってのは本当に心強いです」
「そうですね。こんな大変な事に巻き込んでしまったのに嫌な顔せず、こうして私たちを助けて頂いています。心から感謝申し上げます」
「私たち友達なんだから、当たり前だよ! 友達が困っていたら助ける! 当たり前! それに前も言ったと思うけど、元々はプレイヤーが悪いんだからね」
「お友達? 何ですかそれは?」
「んーっとねぇ。お友達はね。家族じゃないけど、家族のように大切な人。一緒にいて楽しいと思える人。一緒に笑い合える人。時には喧嘩するけど、最後は仲直り出来る人。心から信頼し合えて本音でぶつかり合える人の事だよ」
「うふふ、それでしたら、わたくしたちはお友達ですね。____『お友達』、いい響きです」
少し話した後。
僕は、雨音が止んだのに気づく。
「雨が止んだみたいですね。そろそろ行きますか?」
「うん!」
「はい!」
僕はゲームパッドから、食料や毛布など生活に使えそうな物を取り出し、
「数は少ないと思いますが、こちらを使って下さい」
「おぉ……ありがとうございます」
「わーい! 食べ物だぁ」
「お邪魔しました。戦いが終わったらまた寄らせて頂きますね」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! ばいばーい!また来てね!」
「うん! 必ず来るよ」
そう約束してラタン村を後にした。
______
アウラレードへ向かう途中の事。
「トワ君って、普段あまり喋らないけど子どもたちの前だと口数が増えるよね」
「まあ、小さい頃から妹の面倒を見ていたもので。今はあんまり口を聞いてくれなくなりましたけどね」
「そうなんだー。トワ君ってお兄ちゃんだったんだ。妹ちゃん何歳?
「14歳になったばかりで、一つ下です」
「あー難しい時期だねぇ。照れてるんだよきっと」
「それだけなら、いいのですが……」
「トワ様は妹さんがいらっしゃるのですね。いつかお会いしてみたいです」
「名前は琴葉って言うのですが、琴葉はゲームしないんですよね。僕の事を不気味とかキモイって言ってきますし」
「あはは。琴葉ちゃんかぁ、ログアウト出来るようになったら、誘ってみてよ! 私も会ってみたい」
「まあ、ウザがられると思いますが言ってみますね」
ルルード大森林の入り口を通り過ぎようとしたその時だった。
森の方から甲高い音楽が聴こえてくる。
その音楽は男女のデュエットのようなコーラスに加え、バイオリンなどを弾く音も聞こえている。
………この音は……間違いない。音奏魔獣メロディアスが自分や味方にバフを付与する時の効果音だ。
「トワ君。やっぱりこれって……」
「ほぼ、確定でいいと思います。やはり暗獄神エレボタロスは存在していますね。現実に戻るには倒すしか無さそうです。これからもっと大変な戦いになりそうです」
「そうだね。覚悟しなきゃね。でもやれるだけやってみよー!」
「この音の正体知っているんですか?」
不思議そうにグーファーさんが聞いてくる。
「はい。僕たちの推理が正しければですがね」
「そうなんですか。これだけで分かるなんて凄いですね」
「えっへん! 凄いでしょ!」
「メロディアスは王国を取り戻した後に討伐しに来ましょう。とりあえず今は先に行く事を優先しましょう」
「はい! ここまでくれば、アウラレードまですぐですので」
僕たちは道なりに進んで行った。
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