第17話 大陸BOSSと七魔帝王

 町を歩き回り、回復アイテムや罠、役に立ちそうなアイテムを購入した僕は、噴水前のベンチに座りアイテムを整理していた。


 そういえば、少し前にこの近くをハニポンと回っていたな。ハニポンは何してるんだろう。何で出てこないんだろうと、ふと、そんな事を思っていた。


 色々聞きたい事はあるけど、急に出てこなくなったのはちょっと心配になる。


 再び歩き出した僕は、たまたま宿屋コロンの近くまできていた。

 

 少しの間この町から離れるので、コロンちゃんの所へと向かった。



______



 宿屋コロンにて。



 ドアを開けると、コロンちゃんが笑顔で出迎えたくれる。


「いらっしゃいませです。あ、お兄さん。おかえりなさいですー」


「コロンちゃんこんにちは。今日はちょっと話をしに来たんだ」


 僕の言葉を察したのか、コロンちゃんは少し沈んだ表情を浮かべ。


「お話ってなんですかー?」


「ちょっと、コロンちゃんには難しいかなー? ガンフさんいるかな?」


 コロンちゃんはコクリと頷き、ガンフさんを呼びに行ってくれた。


 ガンフさんはコロンちゃんのお父さんだ。


 すると、フローラル系の匂いだろうか? とても優しい香りが匂ってくる。


 その匂いの主がやってきた。


「こんにちわぁ。すみません、今主人が手を離せなくってぇ」


 その匂いの主は髪の色はクリーム色で、髪の長さはセミロングくらいで、その瞳はブラックホールに吸い込まれそうな優しい眼差しをしている。


 その優しそうな美人な人はマイペースでおっとりとした喋り方をして、申し訳なさそうな感じで僕を見つめる。少し固まってしまったが、気を取り直し。


「こんにちは。僕はここでお世話になっている、トワといいます。ガンフさんが主人って事は奥様ですか?」


「はぁいぃ、そうでぇぇす。コロンのママのユミネスっていいまぁすぅ。コロンがぁ、お客様がお話しがあるってぇ言ってたからぁぁ。どうかぁしましたぁ?」


「少しお話ししたい事があって参りました」


 僕は、アーティダル王国とルルード王国で起こっている出来事を話した。


「それで今日、もうまもなくですが出発します。いつ戻ってこられるかは分かりませんので、残りの宿泊日数の間はここに泊まれないので、戻ってこなくても心配しないで下さい」


「そんなことがぁぁ、プレイヤーさんも大変ねぇぇ。残りの日数はぁ主人に聞いてみるねぇ。大変だと思うけどぉ、この大陸のために頑張ってねぇ。終わったらまた泊まりに来てねぇ」


「はい! ありがとうございます! お世話になりました! ガンフさんにもよろしくお伝え下さい」


「お兄さん、どっか行っちゃうんですか?」


 悲しげな声でコロンちゃんが聞いてくる。


「悪い人を懲らしめるために、少しの間、冒険に出るだけだよ。それが終わったら、また戻ってくるよ」


「分かったです。頑張って下さいです。また戻ってきたら、お話ししたいです」


「うん、必ず。では、行ってきます」


 二人に挨拶をした僕は宿屋コロンをあとにした。



______



 出発の時間の十分前。ギルド会館に戻ってきた僕は、ヒロさんたちと合流した。


「お待たせしました。僕の方は準備完了です!」


「お! トワ君! 待ってたよー! 頼りにしてるね」


「頼りにされるほど強くないですよぉ」


 急にその場が鎮まる。前を向くと、ザーハックさんが台に立ち。


「こんなに集まってもらえるとはな。感謝する。今から、四、五人のパーティーを作ってくれ。話しはその後だ」


 会場にいたメンバーはパーティー作っていく。僕のパーティーメンバーは、ザーハックさんを除いた、模擬戦の時のメンバーにユナちゃんが加わった五人だ。


「ルートの確認をする。まずは、休憩をするため『ラタン村』へ向かう。その後、『アウラレード』へ向かい一晩過ごす。そして明日の朝、班をA班とB班の二つに分け、A班はルルード王国へ、B班はアーティダル王国に出発する。ここまでで質問はあるか?」


 眼鏡をかけた冒険者が手を挙げる。


「そこの眼鏡、どうした」


「どうして、ルルード大森林を抜けて行かないんですか? わざわざ、アウラレードに行かなくても森を抜ければルルード王国はすぐだと思うのですが」


「ふむ、いい質問だ。もちろん、ルルード大森林から抜ければ早いだろう。しかし今、ルルード大森林では謎の音楽や歌が聴こえてくるらしい。昔からルルード大森林には精霊が住み着いていると言われているからな。精霊が怒っているのだろう。その歌でかは知らんが、雑魚モンスターは謎のオーラを纏っているらしく、ステータスが上昇しているとの報告がある。プレイヤーに調査を頼んでいたが死亡者も続出している。雑魚を相手して時間を取られたくないからな。アウラレードへ向かった方が最善の策だと思ったからだ」


 謎の歌、謎の音楽。モンスターがオーラを纏う現象。僕はそのモンスターを知っている。


 だが、そのモンスターはゲーム時代の最初の大陸の【大陸BOSS】のはずだ。そんなモンスターが最初の森にいるなんてゲームバランスが崩壊している。


 大陸BOSSは七つある大陸の内、一つの大陸を支配しているボスだ。【暗獄神エレボタロス】の最高幹部である、【七魔セブンス・帝王エンペラー】が務めている。


 その大陸の大ボスと思ってもいい。七つあるのだが、ここは新しくできたと言っていた事から、八つあるのかまだ他にもあるのかは分からない。


 エタドリのストーリーは元々、【祝福の大陸プレイシス】の大国、『プレイシス王国』から始まる。


 七つの大陸を支配していた暗獄神エレボタロスは、姫が持つ闇を封じる力を恐れ、七魔帝王セブンス・エンペラーの一柱、【混沌獣人カオスビーストのアネモガート】に攫ってくるように命令をしたのだった。


 リメイクや続編のゲームにはボスが格下げされている事はあるとは思う。


 今回の件のモンスターがアーティダル王国の大陸BOSSかは分からないが、そんなやつを相手をしている暇はない。その調査に行ったプレイヤーは前作をプレイしていないのだろう。

 

 精霊なんかじゃない。恐らくやつは、【暗獄神エレボタロス】が愛でていたペット魔獣の一匹、【音奏おんそう魔獣まじゅうメロディアス】だろう。


 メロディアスは巨大な鹿型のモンスターだ。体の至る箇所にユーホニウムや太鼓、ラッパなど色んな楽器が生えている。

 

 自身や仲間のモンスターにはバフを、相手にはデバフを掛けたりするのを得意とする。角の形状はシンバルのようになっており、その角を叩き衝撃波を出して攻撃してくる。


 もし、ルルード大森林にメロディアスがいるのであれば後回しにした方がいいだろう。今は王国を取り戻す事を考えよう。


「なるほど、ありがとうございました」


 眼鏡の人がお礼を言う。


「他に質問がある者はいるか?」


「では、私から一ついいかね?」


 隣にいた、マリーさんの声。


「どうぞ」


「王国を奪還して欲しい気持ちはあるが、何より大事なのはみんなの命だよ。必ずみんな無事に生きて戻ってきておくれ。老ぼればあさんは祈る事しかできないがね。よろしく頼んだよ」


「「「はい!!」」


 その場にいた人が大きい声で返事をする。

 ザーハックさんは、目をカッと見開き。


「これより、王国奪還作戦を決行する!」


 その掛け声で冒険者たちはずらずらと外に出た。


「僕たちも行きましょうか」


 みんなが頷き、外に出ようとすると。


「ちょっといいですか?」


 謎の声が僕たちを引き止める。振り向くとそこにはメルさんがいた。


「こんな時にすみません。渡したい物がありまして、ちょっといいですか?」


「あ、はい。なんでしょうか?」


「みなさんが無事に戻ってこれるよう、お守りを作ってみました。こんなもので何の効果もないとは思いますが、良かったら貰ってください。皆さんの分もございます」


 メルさんが手渡ししてくれたのは、表面に『必勝』の文字が、裏面には『安全祈願』と記された水色のお守りだった。


「ありがとうございます! ご利益がありそうですね。大切にしますね」


「可愛い! メルさん器用だねぇ! 今度、私にも作り方教えてよー!」


「はい! 私で宜しければ! お時間を割いて頂いてすみません。みんなで必ず無事に帰ってきてくださいね。お気をつけて」


「はい、必ず! 行ってきます!」


「「行ってきます!」」


 僕たちはギルド会館を後にした。周りを見渡すと初めに行った組はもう見えない。

 

 僕は初めてこの町から離れる事になる。これからの戦いの事を思うと不安で押しつぶされそうになる。

 

 こうして、僕たちの長い長い旅が始まった。

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