第16話 王国奪還作戦
次の日の朝。
アルバイトの朝礼の時間。夜勤組と朝勤組が交代する時間だ。
いつものように、マリーさんが挨拶や注意事項を伝えてくれる。だが、今日は少し長く、ピリついた空気が流れているように感じる。
「約一週間ほど前から、プレイヤーと呼ばれる者が現れ、アーティダル王国とルルード王国を襲撃をしているとの報告がありました。
王国は今、プレイヤーたちの手に落ちているようです。これは由々しき事態です。早急に手を打たなければなりません。
そこで我々はプレイヤーたちの手から王国を取り戻すため、ここに! 『王国奪還作戦』を宣言します!」
周りがざわついている中、ザーハックさんがマリーさんの隣に立ちホワイトボードを使い作戦を説明する。
その内容はギルド会館ウガルンダ支部がこの作戦を【緊急クエスト】とし、この町にいる冒険者やプレイヤーたちに要請を行い、集まった冒険者たちでいくつかのチームを編成。ルルード王国とアーティダル王国に向けて出発。
各自、プレイヤーたちを無力化し、国民の安全を確保し、王国を奪還するとの事だった。
プレイヤーが突如、国を襲撃しているのに、現住民の人や冒険者は、僕たちプレイヤーを受け入れてくれるのだろうか。普通は反対意見も出てくると思う。
お昼頃まで募集をかけ、編成をおこなった後、出発するという。話が終わり、夜勤組と交代をして、僕は仕事を始めた。
______
お昼休憩が終わった僕は、『王国奪還作戦』に参加するべく、早めに上がらせてもらう事ができた。
皆さんに挨拶をしたあと、掲示板の前に人だかりを見つけたので、そちらの方へと向かう。
そこには、マリーさんやザーハックさん、フィリスさんの三人がいた。マリーさんが冒険者の人に向けて訴えかける。
「私たちの急な呼び掛けにお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。今日お集まり頂いたのには、とある事情があります。
この大陸には二つの王国がありますよね。その王国が今、悪いプレイヤーたちによって襲撃され占拠されております。あなた方にはその、王国の奪還の依頼でお呼びしました」
「ふざけるな! プレイヤーの問題だろ! 俺らには関係ねー!」
「これだから、プレイヤーわ。プレイヤーをこの町から追い出せー!」
「何で俺らがそんな事をしないといけないんだ!」
「そうよ! プレイヤーたちで解決してよ!」
その内容を聞いた現住民のものと思われる、野次があちこちから飛んでくる。
まあ、当たり前だとは思うけど。プレイヤーである僕の心は痛む。何としてでも解決しなければならない。現住人の人たちと溝が深まってしまう。
このまま険悪なムードが続くとお互い良い思いはしないと思う。お互いがお互いを支え合って生きていかなければだめだ。
すると、全ての、ヤジを吹き飛ばすようにザーハックさんが一喝する。
「最後まで話を聞け! 不満や納得のいかない声が聞こえるのは承知の上だ。だから、強制はしない! だが、心優しいプレイヤーもいるのも確かだ。
現住民の中にも良い奴もいれば、悪い奴もいるだろ。ここで手を取らなければ、これから先、現住民の中で問題が起こってもプレイヤーたちは助けてはくれなくなるぞ!」
その圧倒的な迫力に、その場にいた者は抑圧されていた。
落ち着いた様子を見せているマリーさんがそっと口を開く。
「ザーハックさんありがとうございます。みなさんの言いたい事は分かります。
しかしこう考えてみるのはどうでしょうか。ここでプレイヤーの方々に、一つ貸しにして、今度プレイヤーのみなさんにその貸しを返してもらうと。
例えば、大型モンスターを倒してもらうなどね。それに、『ルルード大森林』の調査もしなければなりませんしね」
野次を飛ばした現住民の人々は、ザーハックさんにびびっているのか、黙り込んでしまった。
「これから、『アーティダル王国』、第一王女、ルナ・アーティダル様からお話がある。心して聞くように」
マイクを渡されたルナさんが、台の上に立ち、軽く会釈し、ゆっくりと顔を上げる。黙り込んでいた現住民たちが本物のお姫様を見るのが初めてなのか、人の声がざわざわしだす。
「皆様、お忙しい中お集まり頂きまして誠にありがとうございます。どうか、わたくしどもの願いをお聞届け下さいませんか?」
ルナさんはどういった経緯でウガルンダに来たのか、王国の今の状況をみんなに伝える。
「わたくしは、弱虫で無力です。父上や兄上がそれぞれの戦場にいる中、わたくしは逃げ隠れるようにウガルンダに来ました。
最初は怖い存在だと思っていたプレイヤーですが、こんなわたくしどもに、手を差し伸べて下さる、優しいプレイヤーの方もいました」
ルナさんはヒロさんの方を向いて、優しく微笑んだ。そして続ける。
「そして、ここの人々に触れ合い関わっていく中で、わたくしも王女として、また皆様が安心して笑顔で暮らせるような国、町作りをしていきたいと強く思いました。
わたくしはもう逃げません。非力なわたくしですが国を取り戻すために戦います! お願いです。皆様の力を貸して下さいませんか!?」
ルナさんの強い願いがこもった言葉は、見えない刃となり皆の心に深く刻まれた。周りの雰囲気も自然と良くなっていくのが分かる。
「ルナ王女の話を聞いて、賛同してくれる者だけでいい。我々と一緒に国を守るため、この町を守るため戦おう! 一時間後に出発する。戦ってくれる者はまた、ここに集合してくれ。各自準備を整えるように。これにて解散!」
ザーハックさんの言葉でお開きとなった。人が散らばったあと、僕はヒロさんたちの方へと近づいた。
「ルナちゃん! 心に響く良い演説だったよ! 私、感動しちゃった! 国を取り戻すために一緒に頑張ろうね」
「ヒロ様、お褒めに預かり光栄ですわ。大勢の皆様の前でお話しするのは慣れていませんので緊張しましたわ」
「みんなも納得してくれたみたいで良かったよ。早く元の生活に戻ると良いね。ーーあ、トワ君だ! お仕事早く上がれて良かったね。一緒に頑張ろうね!」
「こんにちは。そうですね、メルさんが送り出してくれました。トラウマに負けないように頑張ります! そしてルナさん、演説お疲れ様でした」
「ありがとうございます。トワ様よろしくお願いします。無理はなさらないで下さいね」
「お気遣いありがとうございます。足を引っ張らないように頑張ります。ユナちゃんとグーファーさんはどこに行ったのですか?」
「ユナはグーファーさんと一緒に町を回っています。あの子には怖い思いをさせてしまったので、少し羽を伸ばすのも良いかなと思いまして」
「そうなんですね。ユナちゃん、怯えてるように見えたので、いい気晴らしになるといいですね。
すみませんが、僕は少しアイテムの補充や装備の強化をしようと思うので、外出して来ますね。一時間後にまた会いましょう」
「はい、分かりましたわ。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
僕は、その場にいる人たちに一礼し、ギルド会館を後にした。
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